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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第8章 国境沿いの伯爵家
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第141話 襲撃者との戦闘

「フロリア!」


「うん。誰か戦っているね」


「行ってみるか」


 バルトーク伯爵領の領都バルトニアまであと数時間の距離であった。

 戦闘好きなトパーズはすでにフロリアの影から半身を出して、今にも駆け出しそうだ。


「行こう。でも、どっちが悪者かわかるまでは手出ししちゃだ……あ、行っちゃった」


 すでに駆け出したトパーズのあとを慌てて追う。

 シルフィードを召喚すると、多少の音は許容して、高速移動の魔法を使う。防御魔法を足の下に出現させて足場にして宙に浮かせ、それをシルフィードの風魔法で飛ばすのだ。

 たちまち、フロリアは滑るように地表スレスレを飛び、トパーズの跡を追う。

 フロリアの高速移動も恐るべき速度だが、それでもなかなか追いつけないトパーズはさすがは聖獣である。

 

 周囲にあまり遮るモノもない平地で馬車が襲われていた。普通、盗賊が馬車を襲うというと左右に逃げ場の無いような場所で前を倒木などで塞いで襲うという形が多いのだが、このあたりはそうした谷あいの道などはない平地が続いている。

 そして、馬車は荷馬車ではなく、人間を乗せる馬車。それも貴族か金持ちを乗せるための大きく細い車輪の白塗りの瀟洒な馬車で、せいぜい4~5人しか乗らないだろうに2頭引きという贅沢なものだった。

 それを騎馬の襲撃者が囲んで、戦闘を繰り広げている。馬車を牽いていたと思しき馬は2頭とも倒れ、御者も血の海に沈んでいる。

 馬車の中に何人いるのかわからないが、外には護衛と思しき騎士姿が1人で奮戦している。残りの騎士は地に伏せているし、襲撃者も数名は逆襲されたようで倒れている。

 そして、その1人の騎士を襲撃者(皆、とりどりの格好をしているが、冒険者らしくもない。かなり良い武器を持っているようである)のうち、数名が取り囲み、残りは馬車の固く閉ざされた扉を押し開こうとしているところであった。

 馬に乗って襲撃したらしいが、その馬は(おそらく護衛騎士が乗っていた馬も)乗り捨てられて、戦闘現場から離れた場所に所在無さげに立っている。

 それだけのことを高速接近しながら、魔法で遠目に確認したフロリアは、今は隣を走るトパーズに「騎士さんと馬車の方を助けてあげて。あとできるだけ殺さないでね」と声をかける。


「わかった。優勢な方には魔法使いがいるぞ」


 そう言い捨てると、トパーズはますます速度を上げて、戦闘現場に飛び込んでいった。

 フロリアが慌てて探知し直すと、確かに少し離れたところに佇む、返り血を全く浴びてない淡黄色の上着を着た男からは確かに魔力を感じる。


「うぅ……。また、気が付かなかった」


 あとでトパーズから小言があるなあ、と思いながら、少しだけ遅れてフロリアも収納スキルの出入り口を自分の両肩口上空に設定して、そこから10本ほどの魔剣を取り出した、というよりも射出したと表現したほうが良いかも知れない。

 元は投げナイフだったのを少し柄を伸ばして短刀程度の長さになった魔剣で、敵に刺さると麻痺魔法を放って、しばらく動けなくするのだ。魔法は革や金属の防具を通しても効果が有る。避けるには剣で薙ぐか、盾で防ぐしか無いのだが、この魔剣はたちの悪いことに、弾いて地面に落としても、そこからまた浮きがって敵を襲うのだ。

 さらにこれらの魔剣は直線的に飛ぶだけではなく、曲芸飛行よろしく障害物を避けたり、旋回して後ろから敵を襲ったり、避ける敵を追尾したりというホーミング機能までつけられている。

 フロリアはお兄ちゃんから昔、聞かされたオタク話をなんとなく思い出して板野サーカス効果と名付けていたが、実はずいぶん間違えたネーミングである。まあ、誰も訂正する人間はいないのだが。


 魔剣による麻痺魔法の攻撃と、トパーズの襲撃で、形勢は一気に逆転した。

 フロリアはバタバタと倒れた襲撃者たちの中に飛び込むと、怪我をして片膝をつきながらなおも剣を構える騎士のそばに着地して、「私は治癒魔法が使えます。今治しますね」と声を掛けながら、同時に両手のひらを騎士の肩に付けて魔法を発現させる。


「う、うむ……」


 騎士は意識ははっきりしているらしく、情勢を把握していて、「助力すまない。だけど、私よりも、ば、馬車を守ってくれ」と口にする。

 

「そうですか」


 フロリアが顔を上げると、浅黄色の服の男から魔力が膨らみ、その両手が馬車に向けられているのが見えた。


「あ、まずい」


 フロリアは魔導書を収納から出してパラパラと出して、範囲魔法を起動する。

 魔導書を使うと、若干時間が掛かるが、その時間を稼ぐためにフロリアは魔剣のうち2本をその男にも向ける。

 男は魔剣を避けるが、簡単に逃さない。魔剣が折り返してきて、男の後を追う。男は鬱陶しそうに防御魔法に切り替えて、魔剣2本を弾いて、防御魔法を広く展開しつつ、馬車への射線の部分だけ防御魔法を開けて、素早くファイヤーボールを馬車に向けて放つ。

 複数の魔法を展開しつつ放ったのに、ファイヤーボールは威力も速度も十分。

 相当に腕利きの魔法使いのようだった。

 通常であれば、これで馬車は炎上するところだが、フロリアの防御魔法の展開が間に合い、そのファイヤーボールは弾かれた。

 フロリアの方も、自分から離れた場所まで防御魔法を展開。騎士への治癒魔法の継続、魔剣の操作を同時に行っていて、一度は地に落ちた敵魔法使いを狙った魔剣も再び宙に浮くと攻撃を再開する。


 男は無言のまま、フロリアを睨みつけたかと思ったら、やはり躊躇なく、踵を返し、近くの馬まで走り、そのまま馬に飛び乗り、全力で走らせ逃走に入る。その間も、防御魔法は展開したままで、魔剣の攻撃を避ける余裕もあるのに、仲間を助けることもしない。


 トパーズがフロリアの顔を見上げる。


「ううん。馬車の人を助けるのを優先しましょ」


 フロリアの言葉にトパーズは残った襲撃者を1人1人地面に引きずり倒す作業に取り掛かるのだった。トパーズとの実力差がこれだけあると、戦闘というよりも作業のようであったのだ。

 非魔法使いの10名の襲撃者はかなりの手練れで、同じ非魔法使い相手であれば脅威そのものなのだが、トパーズとフロリアの前にはなすすべもなく、今や全員、麻痺かトパーズの風魔法によって身動きできない状態になっていた。


 ようやく、怪我をしていた騎士が復活してくると、フロリアに軽く頭を下げてから馬車に掛けより、「お嬢様、お嬢様、お怪我はありませんか」と声をかける。

 中から、「お嬢様は大事ありません。ご苦労でした」という返答。


 あからさまに安堵の様子を示す騎士。こうして落ち着いて顔を見ると、成人して間もないぐらいの年齢で、フロリアより5~6歳ぐらい年上といったところか。


 お嬢様とやらがなんともないのなら、あとは怪我している人を助けなきゃ。というわけで、フロリアは魔剣による麻痺魔法で倒れている襲撃者は蔓草で縛り上げ(今回も予め蔓草による武装解除は忘れなかった。回収した武器は全部収納にしまう)、トパーズの風魔法で倒れた者には治癒魔法を掛け(人殺しは嫌がるフロリアのために死なない程度に手加減していた)、この1人と1匹が参戦する前に倒れた襲撃者4名と騎士3名、そして御者を調べるが、襲撃者のうち1名が息があるだけで、残りは助けることができなかった。


 いつの間にかトパーズがよってきて、頭をフロリアの腕になすりつけるようにする。全くの他人がいる前では話ができるのを明かさない、程度のことはトパーズもわかっている。


「うん。大丈夫」


 トパーズは、フロリアが人間の死体を見て動揺しかかっているのを敏感に察知したのだろう。大丈夫。大丈夫。

 

 そう言い聞かせて深呼吸をするフロリアに、騎士は近づいてくると、改めて声を掛けた。


「ご助力感謝致します。私はバルトーク伯爵家領軍の見習い騎士マレクと申します。この度は、バルトーク家令嬢の危急に際し、ご助力を頂き誠にありがとうございます」


 と丁寧に頭を下げた。


 フロリアは立ち上がると、


「私は冒険者のフィオリーナと申します。こちらは私の従魔のトパーズ。何人かの方が犠牲になったのは残念ですが、御役に立てて光栄です」


と返した。冒険者ギルドで登録した偽名を名乗った。トパーズも正式には従魔ではないが、誰かに紹介する時にはそのように言うことにしている。


 この襲撃者たちが何なのか聞こうと思っていたら、馬車の方からさっきマリクの誰何に答えた声が「お嬢様、お出になってはいけません」、別の声で「命を助けられた礼もできぬほど、私は恥知らずではありません」というやり取りがあって、ドアが開き、少女が1人現れた。

 年齢は15~16歳ぐらいだろうか。金髪碧眼で、旅行着なのでこれでも質素なのだろうが、それでも明らかに平民の服とは違うドレスを身にまとい、思わぬ災難のために青ざめているものの、その美しい顔立ちが損なわれることはなかった。



いつも読んでくださってありがとうございます。

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