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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第8章 国境沿いの伯爵家
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第139話 ごろつき冒険者

 その2人組は、あまり筋の良くない冒険者で、本拠地にしているチェルクの町からアリステア神聖帝国へ商売に行く商人の護衛を請け負ってここまで来たのだが、その途上で商人とトラブルになって契約解除されてしまったのだ。

 非はこの冒険者側にあって、この町で護衛の取替えが行われたのだが、それは冒険者ギルドによって正当だと承認されている。

 2人組の冒険者ホルガーとフーベルトは、トラブルの原因を作ったとして、商人に対しては賠償金、ギルドに対しては罰金を課せられて、ただでさえ貧乏冒険者であったのが、かなり追い詰められた状態になってしまった。

 それでもギルマスからは「商人がお前たちを犯罪者として告発しなかったのは、余計な日数が掛かるのを嫌ったからで、かなりの幸運なのだぞ。ギルドとしても今回は罰金だけで勘弁してやる。これがお前達に掛ける最後の温情だと思え」と叱責を受けた。

 町の衛士に告発されていたら、まずは犯罪奴隷落ちを逃れられなかったであろう。殺人のような重罪ではないので、数年程度の年限を区切った奴隷であるが、その間は厳しく、病死や事故死することも多い奴隷労働を強いられるところであったのだ。


「だけどよお。このまんま、お偉い方のお叱りの通り、なんて頭下げて小さくなっている必要なんかねえ、と思わねえか?」


 ホルガーは相棒にそう言った。


「ああ、今回のことはツキが無かっただけよ。次はうまくいくと思うぜ」


 フーベルトもそう返す。


 彼らが揉めたというトラブルの内容は、行商の交易隊が町から離れ、周囲に人影がいなくなったところで、あらかじめ定められた護衛料にちょっとした色を付けてくれるように"交渉"したところ、決裂したということである。

 何の理由もなしに、そんな交渉をしたら、後で商人に冒険者ギルドに駆け込まれる。なので、ちょっとした理由をつけて(想定していたよりも道が悪くて日数がかかりすぎた、提供された食事が約束通りの量では無かった、普段より強い魔物に襲われて苦戦した……)上乗せ要求をするのだ。

 本当に強力な魔物に襲われたにも拘わらず、冒険者たちでそれを撃退して商人の生命財産を守ったのであれば、それは追加報酬の対象になっても不思議はない。

 しかし、ツノウサギが数頭出た程度のことで、冒険者側からそうした要求を行うのは完全に筋違いである。

 360度まわりを見回しても人影1つ無いという場所で、ホルガーとフーベルトは脅し半分、懇願半分のような強請り方したのだった。。

 

 彼らはこれまでも色々と小銭稼ぎの悪さをしてきたが、この小遣い稼ぎはこれ迄は割とうまく言っていたのだった。

 だが、今回の商人は非魔法使いでもつかえる魔道具で、ホルガーとフーベルトとの話し合いは全部録音していたのだ。

 そして、この町に到着するや、商人は商業ギルドに駆け込み、商業ギルドの苦情処理係と一緒に冒険者ギルドへクレームを入れてきたという訳である。

 商人の方も結構腹黒くて、そもそもが評判の宜しくないホルガーとフーベルトを雇ったのは、彼らが何かしでかしたら、賠償金をむしり取ってやろうという腹積もりもあったのだ(無人の野で商人を殺して、何もかも奪うほどの度胸は無い、というのも見透かされていた)。ギルドマスターにはその商人の腹積もりがわかったので、かろうじてホルガーとフーベルトに温情を掛けて、罰金で済ましたのだ。

 

 彼らが元々本拠にしているチェルニー子爵領の領都チェルクは結構遠く、そこまで手ブラで帰ると大損害。そもそも、旅費もまともに無い。

 チェルク近辺に戻る商人の護衛の仕事でも請け負えれば良いのだが、当分の間、彼らが壁に貼られた依頼書を剥がして持ってきても受理しないように、とギルマスは受付嬢に命じていた。

 この町は薬草の採取や魔物の討伐ではあまり稼げる場所ではない。それ以前に、そもそも彼らは薬草採取を地道にやる性格では無かったし、魔物を討伐に行ってちょっと強い魔物が出たら返り討ちにあってしまう程度の実力しかない。


 という訳で、昼間っからギルドで管を巻いていたところに、まだ成人前の少女がやってきて冒険者登録していた。

 別に、未成年でも冒険者登録自体は可能(ランクはEかFまでだが)なので、不思議は無いのだが、未成年で活動しているガキどもというのはたいてい群れになっている。で、うっかり手出しをすると、そのガキどもをまとめている奴がいたりしてけっこう面倒である。

 それが、ホルガーとフーベルトと大差ないような筋の良くない冒険者の場合も多いが、まともな冒険者パーティ、それもその町ではトップクラスの実力の持ち主で、仲間から尊敬され、ギルド事務局からも信頼されているような連中がガキの面倒を見ている場合もあるのだ。

 さらに別に冒険者ではないが、町の衛士あたりがガキどもを気にかけている場合もあって、そんなのに引っかかると、もうその町でもその近辺の町でも活動できなくなるのだった。


 その点、1人きりでどこか田舎からやってきて、登録したばかりのぽっと出。それだけでも結構"美味しそう"なのに、他のガキどもと違って小綺麗だし、顔立ちも良い。帽子から覗く銀色の髪もサラサラで、美しい。

 もちろん、子供を攫って奴隷に売るのは重罪で、ホルガーとフーベルトも子供から小銭を巻き上げることはあっても、子供を攫うまでのことはこれまではやらかしてはいなかった。


「だがよお。これまでは、ここまで困ったことはなかったろ? こんな酷え目を切り抜けようと思ったら、思い切ったことやらねえと」


「そうなのかな」


「そうともさ。こんな時に、ちょうどあんな娘がうろついてるのに出くわすなんて、そりゃあそアリステア様の授かりモンだぜ。手を出さなきゃ失礼にあたるってもんだ」


 もちろん、本気で女神アリステアがそんな犯罪行為を推奨していると思っている訳ではない。彼らの常套句の1つだった。

 やたらと格式張って、万事に大げさなアリステア神聖帝国を茶化して、こうした不謹慎な物言いをするのは、あまり筋の良くない冒険者や町のチンピラにはありがちなことであった。

 このあたりは、別にこの世界に特有なことではなく、フロリアの前世でも「だめになる」ことを「お釈迦になる」と言ったり、米スラングで「クソッタレ」を「holy shit」と叫んだりするのと同じような事情であった。


「だが、ここでは奴隷商人のツテなんざねえぞ」


「なあに、あんなガキ1人だ。チェルクまで引きずってくさ。奴隷商に売っても良いし、なじみの娼館に直接連れてったって良いだろ。それに、まだガキだが、チュルクに着くまでのあいだ、毎晩かわいがってやれば良い塩梅にこなれてくるかも知れねえ」


「おう。やってみるか」


 それとなく、跡をつけると、薬草の買い取り窓口でここに着くまでに採取したらしい薬草を出していた。

 遠目からでも結構な金額を受け取っているのを見て、「おい、どうやらほんとに運が向いてきたぜ。チュルクに着くまでの道筋で薬草採取もやらせようぜ」と相談する。


***


「フロリア。お主、またか?」


「何?」


「跡をつけられておるのに、気がついておらぬ」


「え? ――あ、ホントだ。2人いる」


 フロリアは探知魔法を掛けて、やっと自分が跡をつけられているのに気がつく。

 薬草を買い取ってもらったあと、すぐに町を出て、近くの街道を歩いて、わずかながらもある森に向かっているときであった。


「少しは探知魔法がつかえるようになったと思っていたのだがなあ。装備が良くなった分だけ、緊張感が緩むのであればあまり意味はないぞ」


 フロリアは、モリア村の岩山の遺跡の魔法陣で戻ってからも、亜空間から何度かベルクヴェルク基地に転移していた。

 食べ過ぎは良くないのだが、見事に再現された和食――それも会席料理からB級グルメまで――の数々がそれだけ魅力的であったのだ。

 その副産物として、ベルクヴェルクで作った魔道具の調整、改造、新規作成などを行っていて、新たに作った魔道具の1つに自動的に防御魔法を発現するものがあった。

 見た目はネックレスで、服のしたに隠していても作動する。魔法攻撃、物理攻撃、状態異状攻撃、毒ガスなどの化学物質による攻撃、他人の悪意などに対し、コンマ数秒という速度で自動的に防御魔法を展開するというものである。

 

 ある程度の防御機能を付与した魔道具は元々、この世界にも存在するし、フロリアも作れるのだが(ビルネンベルクの宿屋の娘リタへの置き土産にしたことがある)、それと今回、ベルクヴェルクの工房で作ったネックレスは桁違いの性能であった。

 実験でその性能を実感したフロリアは「私はまだまだだったんだなあ」と嘆息することになり、同時にこうして知らない土地を歩いていても、今ひとつ緊張感が緩むようになっていたのだった。


「もう少し、人が居ないところまでくれば、自力で気がついたよ。とりあえず、つけてきてる人たちはどうしよう」


 適当にまいても良いのだが、新しい防具や武器が対人戦でどの程度、有効かも確かめたい。


いつも読んでくださってありがとうございます。

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