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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第7章 ベルクヴェルクへ
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第135話 基地4

 マスターの命令に背く、という自由を与えられていないセバスチャンは、フロリアのこの基地を出ていく、という宣言に反対することは無かった。

 だが、人間の主人に仕え、この基地を維持することが存在理由である彼らは、数千年振りに得た新しい主人を簡単に手放すつもりも無かった。


「フロリア様。恐れ入りますが……」


 セバスチャンはある提案をし始めたのであった。


 フロリアが亜空間を持っているということは、最初の数日、彼女とトパーズが自室に引き上げると、気配が消失していたことから、セバスチャンには推測が出来ていたのだが、ここまでそのことを確認することは無かった。

 だが、彼らロボット達の中では、このセバスチャン達から見ても、ウルトラレアなスキルを彼らのマスターが所有しているという点を慎重に討議して、一つの利用法をすでに思いついていた。


 今回、フロリアの元の場所に帰還するという決断を聞いて、始めてセバスチャンは以下のような提案をしたのだった。


「もし、よろしければ、フロリア様の亜空間の内部に転移魔法陣を設置させていただけませんでしょうか?」


 それを使えば、フロリアはいつでもこのベルクヴェルク基地に戻れるというのだ。

 何しろ、現在稼働している転移魔法陣は全世界にわずか12。そのうち、中心となる1つは基地に設置されているし、残り11個も山の中ばかりで、フロリアの暮らすゴンドワナ大陸には3つしか無い。

 いずれも簡単に行けるような場所ではなく、一度、フロリアが元の生活に戻ったら、次にこの基地に来るのは一体何年後になることか。


 ロボットたちとしてはフロリアを放したくないのだが、マスターの安全にかかわるような危機では無い限りはその意向を無視することは出来ない。

 そこで、思いついたのが亜空間を活用する方法である。

 転移魔法陣自体をフロリアが持ち運ぶことは出来ないし、仮に移動用の簡易魔法陣を開発したとして、その場所からフロリアが転移したら、後に魔法陣が残ってしまう。

 単結晶の魔晶石が無い限りは、その魔法陣を誰か第三者が使うことは出来ないが、もし魔法陣を移動されたら、フロリアは元の場所に戻ることが出来なくなってしまう。

 そして、下手に魔法陣の研究家の手に落ちたりしたら……。簡単にその秘密が暴かれるとは思えないが無用な危険は避けるべきである。


 その点、亜空間はフロリアとフロリアが認めた人間しか入れない。その隠密性、閉鎖性は申し分無く、この基地への中間地点としては最適である。


「でも、この世界の空間じゃないのに転移で移動が出来るの? それ以前に魔法陣のストックってあるの?」


「亜空間はあまりにレアなものなので、我々も試したことはございません。しかし、理論上は問題点はありませんし、実際にフロリア様にお使いいただく前に十分なテストを繰り返します。

 魔法陣の予備ですが、すでに工房で作らせておりまして、現在最終テストをしている段階です。後は設置してのテストをするだけです」


 結局、フロリアは押し切らて(フロリアにとっても安全快適な基地にいつでも帰還出来るのであれば、それはありがたかった)、魔法陣の設置を認め、セバスチャンと工作用のロボット数体がフロリアの亜空間に入る。

 設置自体はそれほどの時間を掛けることなく終了し、ロボットによる転移テストも無事に終了。

 これでフロリアはこの世界のどこにいても、魔法陣を通してベルクヴェルク基地に戻ることが出来るようになったことになる。

 フロリアは、亜空間内に他人を簡単に立ち入らせるつもりは無かったが、念のために魔法陣を覆うように小屋を建てて、外から見えないようにした。


「セバスチャン。この転移魔法陣はどこへでも行けるし、帰ってこられるの? だとしたら、もしかして、令和の日本に行ってくることって出来る?」


 セバスチャンは数瞬、考え込んだようだが「理論上は可能でございます。ただ、転移魔法陣は設置してある場所同士を結ぶものですから、まずは他の手段でその場所に行く必要がございます」と答えた。


「そうか。そうだよね……。簡単に行くわけないよね」


***


 そして、フロリアが帰還を言い出すのを予見していたかのように、セバスチャンはいくつかの"旅の用意"をしてある、と告げたのであった。


 その1つ目が魔導書であった。

 今の"外"の世界では知られている魔法陣は10個も無い。その魔法陣がこの書物の各ページに一個ずつ合計で100個ほども書かれているのだ。前世での辞書程も有る大きな書物だが、薄くてペラペラの紙を使う辞書と違い、こちらは一枚一枚の紙が分厚い。そしてページの真ん中に大きくオリハルコンやミスリルを粉末にして溶かしたインクによって精密な魔法陣が描かれ、その下にはその魔法陣の名前と秘めた力が数行に亘って記されていた。

 フロリアの魔力と連動して作られていて、片手でこの書物を持って、使いたい魔法を思い浮かべると、ページがパラパラとめくられて、該当の魔法陣が記されたページが出てくるので、それにもう片方の手のひらを翳して、魔力を注ぎ込めば、魔法が発動するという仕組みである。

 フロリアは本来、無詠唱で魔法を使っていたので、この方式になると発動まで時間がかかる。なので、一瞬を争う場合はこれまで通りの魔法の使い方で良いのだが、この魔導書を使えば、はるかに少ない使用魔力で、はるかに大きな魔法の威力を発揮できる。

 元来、人並み外れた魔力の持ち主で、Sクラス冒険者になる魔法使いをすら凌駕していたフロリアだが、この魔導書を駆使したら、相手が黒龍か、一国の軍隊全てでも、フロリアに勝てるかどうか……。


 その他にも、主だった状態異常の解除を始め、別途フロリアに渡された魔道具の使い方、他にも思いつく限りの情報を詰め込んだページがある。数十ページに渡る、これらのページ自体が一種の魔道具であり、フロリアの魔力を感じると、白紙のページに必要な情報が浮き出してくるという仕掛けが施されているのであった。

 

 この一冊で国宝レベルの魔導書だが、フロリアの魔力の波動に同調させてあり、他の誰にも使えないようにしてある。収納に収めておけば盗まれることは無いだろうが、念のためである。

 さらに、いくつもの魔道具もセバスチャンから渡されていた。フロリアが収納スキルを保有していると知ると、遠慮無く渡されたものなのだが、その中でも特筆すべきはドラゴンスレイヤーと名付けられたライフル銃になるだろう。


「これはお兄ちゃんが喜びそうなデザイン」


とフロリアが感心したように、かなり銃身が長くて、禍々しいデザインをしている。華奢なフロリアでは持て余すかと思いきや、軽量で体格に合わせて有るので意外と構えやすく、撃っても反動が少ないという(まだ成長期なので、時々、基地で銃の調整する必要があるのだが)。

 雷魔法で魔法金属で出来た銃弾を撃ち出す、というレールガンのような仕組みのライフルで、その射程と破壊力、そして魔法で調整して命中率も、他に比べるものが無い銃器であった。

 欠点といえば、撃つと轟音がすること、弾数が10発程度と少ないことだが、1発で龍の鱗だろうと撃ち抜く破壊力はドラゴンスレイヤーにふさわしいものであった。


 また、操剣魔法用に収納にしまってあった大量の剣は、セバスチャンらの手によって鍛え直され、魔法を付与され、安定して飛びやすいように重心の位置を調整され、刺さると小爆発を起こすもの、麻痺魔法を発動して刺さった人間の自由を奪うもの、敵の防御魔法を破る魔法無力化の効果を剣先に施したもの……。

「え、エグい」とフロリアが若干引くレベルの魔剣群が出来上がってしまったのであった。


 そして、大量の良質で新鮮な食糧と調味料、香辛料。アシュレイに習って、その後独自アレンジをしている少々怪しげなレシピとは違う、正確なレシピ。

 あまり食べさせる相手もいないが、とてつもなく高価な材料を惜しげもなく使い、魔道具としての価値が一流レベルの調理器具を駆使して、前世のレシピを再現出来るフロリアはすでに今の時点でも、ゴンドワナ大陸有数の料理人と言っても過言ではない存在になったのであった。


 そして服装も、セバスチャンが着せたがったような、ミニ丈のワンピースや、色鮮やかなニット、スキニーフィットのデニムなどはさすがに外で着るわけにいかず、これまでの服装とあまり大差無い見た目になっているが、魔法金属の鋼糸を編み込んだもので、服自体が魔法と物理、両方の防御能力を秘めた逸品になっているのであった。


 セバスチャンが推したが、断念したものも有る。そのうちの1つが魔物を呼び寄せるフルート。以前にビルネンベルクでスタンピードを起こしたフルートよりの上位互換なのだが、フロリアがそうした因縁に気がつくはずも無い。それと様々な呪具。人を暗殺するためのものから、ちょっとした不運を与えるものまで……。


「この辺はいらないかな。へんな使い方しちゃいそう」


 そしてフロリアの側からどうしても欲しがったのがトイレである。これで亜空間内のトイレがウォッシュ○ット機能付きになった。


 ……。


「それでは、フロリア様。また、起こしいただける日をお待ちしております。転移石は十分な数を用意いたしましたので、あ、なんでしたら、今晩にでもお帰り頂いても……」


 というセバスチャンの声に送られて、フロリアとトパーズは、モリア村の裏山の洞窟の奥の小部屋に転移したのであった。

いつも読んでくださってありがとうございます。



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