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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第7章 ベルクヴェルクへ
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第128話 ロボットとの邂逅

 壁の出入口らしきところから、金属製のゴーレムが3体、入ってきた。

 身長は2メートル程度。この世界の人間は前世日本人よりも一般的に体格が良い。

 大柄な男性の中にはたまに2メートル超えがいるが、そうした人たちに比べると、このゴーレムは細身で手足が長い。とてもスマートで、金属のボディはやはり平滑で明かりを反射して輝いている。どれほど古いゴーレムかしらないが、新品同様に見える。

 

 固まっているフロリアにまっすぐ向かってくると、4~5メートルほど離れた位置で立ち止まり、まっすぐにフロリアを見る。

 見る、と言っても頭部についた複眼のカメラがフロリアの姿を収めている、というのが正確なところである。

 1体は造形(特に頭部の造形)が他の2体よりも複雑で、それがリーダーらしく先頭にたち、他の2体が後ろに立って控えている。


 これが人間や野生動物、魔物であれば、ある程度の感情は感知出来るのだが、このゴーレムからは全く何も読み取れない。


 フロリアは、いきなり攻撃された場合に備えて、いつでも防御魔法を張れるように準備してから、


「あ、あの、勝手にあなた達のおうちに入ってごめんなさい。入ろうとして入った訳じゃなくて、勝手に魔法陣が発動しちゃったの。すぐに戻りたいんだけど、戻り方もわからないし、困っていたんです。

 ――ええと、その……私はフロリアって言います。あなた達のゴーレム使いさんとお話したいんですけど」


 こんな時にどうしてトパーズはそばにいてくれないんだ、と理不尽なことを考えながら、フロリアはゴーレムとのコミュニケーションを図る。


「私はベルクヴェルク管理用自律型移動ロボット、個体識別ナンバー RZH-KW0001、通称セバスチャンでございます。ご主人様はすでに存在しません。

 あなたはフロリア様ですね。記録しました。以後お見知りおきを」


 先頭のゴーレムが返答をしたのだった。


「ロ、ロボット!! しかも喋った!! お兄ちゃんが聞いたら大喜びだよ! ……あ、こっちの話です。あの、ええと、……とりあえず、ここはどこですか?」


 どうやら、この3体のゴーレム、いや、ロボットと名乗ったのだから、ロボットで良いのだろう、多分。

 フロリアはゴーレムとロボットの定義の違いを知らないが、自律的に動くからロボットというのも変だと思う。それなら鉄○28号はロボットで無くなってしまう。

 だが、おなじみのゴーレムとはなんというか、レベルが違うというか、まったく別の何かである。それならば、ゴーレムとは違う呼び名があっても良いのだろう。


「ここはベルクヴェルク基地になります。――今の時代の地名で言えば、ガイア大陸の南の端のあたり、インジェンススピーナ山脈の南端近くの黒龍連山にあります」


 どうやら喋るのはセバスチャンという個体だけみたいであった。


「……」


 ええと、ガイア大陸って、私が住んでいたゴンドワナ大陸の南方にある大陸で、お師匠様に教えてもらった地形だと、北アメリカ大陸と南アメリカ大陸が細くつながっているみたいにつながっているということだった。


 フロリアはなんとか、古い記憶を引っ張り出してきて、そう聞いてみたところ、セバスチャンはフロリアが元々居たアリステア神聖帝国の遺跡からだと、だいたい2万キロ近く離れている、と返答した。


「それは陸路を辿った場合で、直線距離だともう少し短く、1万7千キロ程度になります」


 昔、お兄ちゃんに東京ー大阪間の距離は直線で400キロ、新幹線などのルートは曲がっているので500キロだと教えて貰ったことを思い出した。

 飛行機の無いこの世界で1万7千キロなど、移動するのにどれほどの時間が掛かることか。


「あの、私、そんな遠くに来ちゃうと困るんです。もとの場所に戻してくれませんか?」


「フロリア様はご自身で、転移石を入手されて、この魔法陣をご使用になられたようですね。

 転移魔法陣は基地の管理下にありますので、基地のマスターが転移魔法陣についての全ての権限を持っています。マスターは自ら転移魔法陣を使用する他、指名した人間、ロボット、その他の知的生命体に対して、使用範囲、用途を限定した上、権限の一部を付与出来ます。

 私達の任務は、私達がマスターから指示された用途範囲内で転移魔法陣を使用する他には、マスターあるいはマスターが権限を付与した方の利便に供することです。

 したがって、マスターではなく、またマスターから権限を付与されていないフロリア様が魔法陣をご使用いただくのを手助けすることは出来ません」


「そんな……。あ、でも、それじゃあ、ここに来る時に勝手に使っちゃったのはいけなかった? なんか罰とかある?」


「それはご安心ください。あくまで私達は転移魔法陣の使用をお手伝い出来ないというだけでございます。フロリア様がご自分で使用されるのは、フロリア様又は施設に危険が伴わない限りは自由です」


「使用権限を貰ってないのに、勝手に使っても良いの?」


「マスターのご命令です。自力で転移魔法陣を作動させるほどの力を持つ人間がこの基地を訪れた場合には、その御方の能力の及ぶ限り、基地の設備を一定の範囲内で使用することを是認するようにあらかじめ命令されております」


「つまり、私が勝手に転移魔法陣を使うのは良いけど、あなた達はそれを助けることは出来ない、ってことだよね」


「左様でございます」


「うん、分かった!!」


 フロリアは他者に対しては、ある程度はよそ行きの話し方も出来るのだが、今は混乱していて、いつの間にかトパーズに対するようなさばけた口調になっていった。

 明らかに人間以外の機械仕掛けの体のロボットであるのに、不思議とフロリアは彼らに対して違和感を覚えることが少なかったのだ。


 ともあれ、さっそく単結晶の魔晶石を出して(多分、これがセバスチャンのいう転移石だろう)、魔法陣にかざす。先程は勝手に起動したのに、今回は淡く光っただけで、その光りもすぐに消えてしまった。


「……。あのセバスチャンさん。なんで動かないのか、教えてはもらえるの?」


「それなら、お答え出来ます。どうやらその転移石は容量が足りないようです。現在、魔力が空になっていて発動しないのです」


 言われて、魔晶石を鑑定してみると確かに魔力がカラになっていた。


「ううっ。これって確か魔力が貯まるまで一ヶ月ぐらい掛かった筈……」


 フロリアは転移石製造当時に色々と実験したことを思い出した。

 通常の魔晶石は、大きなものでも数日~10数日程度で自然と大気中の魔素を吸って魔力が貯まる。魔素の大きな土地だと"充電"スピードが上がる。

 急ぐ時には、魔法使いが自分の魔力を魔晶石に込める事もできる。

 しかし、この単結晶の魔晶石は極端に貯まるのが遅く、さらに人間の魔力だと受け付けなかったのだ。

 単結晶魔晶石を作るにはフロリアの創造魔法が必要不可欠ではあったが、その構造などを模索し設計したのはアシュレイであった。そのアシュレイにも予想外のことだったらしく、魔晶石の世界は奥が深い、と師弟2人で嘆息したものだった。


 その時には、使い道が定まっていない(アシュレイは岩山の遺跡で使うつもりだったのだろうが、フロリアには教えてなかった)魔晶石なので、特にその事を深刻に捉えて解決しようとは思わなかったのだが……。

 単結晶の魔晶石はこの1個しか持っていない、とフロリアは焦った。

 ゴーレム達の人工人格に単結晶魔晶石を使っているのだから、そのどれかを取り外して試せばよかったのだが、かなり焦っているフロリアはその事に思い至らない。

 ただし、人格を書き込む際にいわば単結晶に傷をつけているのだから、無事に作動するかどうかは判らないが。


"どうしよう。一ヶ月もトパーズと会えないなんて。あの小部屋から出て、どっかに行っちゃうかも。いや、トパーズのことだから面倒になって、小部屋の魔法陣を壊しちゃうかも"


「あの、これってもし移動先の魔法陣が壊れちゃっていたら、どうなるの?」


「その時には転移不可となります。別の手段で現地まで行って魔法陣を修復するか、新規に設置しない限りは使えなくなります」


「……」


「ご心配には及びません、フロリア様。この基地は数千年に渡り、我々ロボットのみで管理しており、一度も人間の皆様が戻られることはありませんでしたが、いつお戻りになられても困らないように、設備、人間様方向けの食べ物、衣類、日用品、娯楽など完璧に準備しております。

 マスターからは、この基地を訪れた人間に対しては、快適な生活を送るために必要なお世話をするように、ご命令を受けております。一ヶ月の間、フロリア様は快適にお過ごしになれますのでご心配無く」


 ここで一ヶ月の間、ダラダラ過ごして自然充電を待つ……。ただでさえ、一冬の間、亜空間に籠もって他人と会うこともなく過ごしてしまうようなフロリアである。

 ごく当たり前に、そのセバスチャンの提案を受け入れてしまったことだろう。――もう少しセバスチャンに信頼感が芽生えていて、トパーズが一緒だったら。


「うん、私はお友達を向こうに置いてきちゃったの。すぐに帰ってあげないと、怒ってどっかに行っちゃったりしてもう二度と逢えないかもしれないし、魔法陣を壊しちゃうかも知れないの。すぐに戻りたいんだけど、どうにかお手伝いしてくれないですか?」


 セバスチャンは目と思しき位置に横に配置された、小さく丸いレンズをチカチカと点滅させていたが、


「我々が転移魔法陣の使用をお助けするのは、マスター、或いはマスターから権利を貸与された者だけに限ります。

 我々ロボットも、外界の情報収集のために使用することはありますが、それも前マスターから権利を貸与されたという根拠があり、常に厳しい制約がついています」


と先程と同じような答えを繰り返した。


 がっかりするフロリアに、しかしセバスチャンは次のように付け加えた。


「したがって、フロリア様が新しいマスターに就任していただければ、我々がお手伝いすることに問題はなくなります」


 新しい解決策が目の前に現れ、フロリアはゴーレムの魔晶石を取り外すという選択肢を思いつくチャンスを失い、彼女の生涯が決定的に変わってしまう選択をしたのだった。

いつも読んでくださってありがとうございます。

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