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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第7章 ベルクヴェルクへ
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第120話 遺跡へ1

ここから第7章。

フロリアはここでとんでもないシロモノを見つけ出します。


使い方次第ではこの世界を崩壊にも、未曾有の繁栄にも導きます。

でもフロリアはそんな面倒なことに関わり合う気は無いですし、便利な道具を手に入れたぐらいのつもり。

まあ、私の書くものですから、そんな怖い展開にはなりませんが……。

 夜中に酷くうなされた挙げ句、早朝というか深夜というか、変な時間に目覚めたフロリアは、体が熱っぽいのを感じた。

 亜空間の中は常に淡く発光していて、気温も安定シており、時間による変化はない。夜の時間にはやや薄暗くなるような気もするのだが、気がするだけかも知れない。

 よく眠れるように亜空間内にテントを張って、その中は暗くなるようにしていたのだが、その薄暗く快適なテントの中なのに今日はなんか寝苦しい。

 気温はだいたい18度から20度の間ぐらいでいつもと変わりないのだが、ちょっと寒気もする。発熱しているようである。


 トパーズは敏感にフロリアの異変を感じ取っていて、いつの間にかテントの中に入ってきていて、フロリアが気がついた時には、顔を覗き込んでいた。


「風邪でもひいたか」


「そんな時期じゃないんだけど」


 フロリアは冷水を魔法で出してグラスに一杯飲むと、自分自身に鑑定を掛けてみて、特に感染症などに掛かっていないことを確認した。

 死体が多く発生した村の中には入っていないとは言え、オーガの死体や、召喚術師の死体には近づいたので、もしかしたら、と思ったのだが、それは杞憂で済んだ。


「疲れがでたみたい」


 体力回復用のポーションを飲むと、ちょっと朝食には早いが昨晩はほとんど食事が出来なかったので、簡単なおかゆを作って、少しだけ食べた。

 また眠りたかったので、一度亜空間の扉を開けて、岩山の下にいるニャン丸に精神感応で「そのまま明日まで潜伏して情報収集していて」とだけ頼むと、亜空間を閉鎖してベッドに倒れ込んだ。


 そういえば、"暗部"とかいうところの2人組の人と接触を持とうと思っていたのを思い出した。でも、熱っぽい体を押してまで、なんか判らない人たちと接触する気にはなれない。

 彼らはこのまま、日が昇ったら町に戻るだろうけど、今更こちらも町に行くことはないので、このままお別れだろうな、と思うフロリアであった。


***


"暗部"のジャンとデリダは、翌朝、日が昇りきらないうちに、軽く食事をするとすぐにアルティフェクスに戻る道に出た。

 食事と言っても干し肉と干飯をごく僅か食べただけだが。

 任務が失敗と確定したので、彼らの足取りが重いのは仕方ないだろう。

 

「夜の間、多分魔狼だと思うけど、遠吠えの声がしたな」


「この辺は、居ないはずじゃなかったっけ」


「ああ。だが魔狼も餌がなきゃ遠征ぐらいするだろうさ」


「村の人達、大丈夫かな。オーガもいるはずだし」


「さあな。オーガと戦いになれば、どちらも減るだろうけど……。村人達にはキツイかも知れないが、頑張ってもらうしか無いさ。俺たちがそこまで手助けはしてられないし、昨夜、2頭片付けたのでお役御免だ。彼らだって、今夜からは家に戻れるだろうし、しばらく持ちこたえれば、アルジェントビルから救援も来るだろうし」


 実際には、魔狼は以前にトパーズが蹴散らした残党で、すでに大した頭数は残っていなかったので、とても村を襲う力はなかった。そして、オーガもすでに討伐は完了していて、もう村人を襲う魔物は居なかったのである。


 そして、形だけの朝食を取ると、すぐに町に向かって歩き出す。

 彼らは厳しい訓練を受けた"暗部"の渡りだけに、村長がアルジェントビルに送った若い村人が通り過ぎる時には、素早く察知して、先方に見つかる前に岩陰に隠れてやり過ごし、とうとう最後まで村人たちには存在を認識されることは無かったのであった。


***

 

 村人たちは相当に大変な思いをしながら、マルケス私兵団の兵士たち、オーガ、そして見慣れぬ魔法使いの死骸、そして何よりも同じ村人たちの死骸を集めると大八車に乗せて、村の外に大きな穴を掘って埋めることにした。

 これが現代社会ならば犯罪現場は警察が来るまで保全するのが常識である。

 しかし、この世界では救援が来るのが何日後かわからないし、そのまま放置しては村の設備が使えないし、死骸が発生源になる感染症、そして何よりも死骸がアンデッド化する懸念もあったので、死骸の片付けが緊急懸案事項だったのだ。


 犠牲者の中には傭兵達だけではなく、村の男衆が結構いたのが問題だった。


 40名もの傭兵たちが村に何日も滞在したのだ。食料を徴発したのはもちろん、村の若い女性(すなわち、村の各戸の跡継ぎである長男の嫁や、嫁候補者たち)も徴発し、大っぴらに性欲のはけ口として利用していた。


 当然、夫や恋人たるべき、村の男性達はいきり立ったが、武装し戦闘慣れした兵士たちに対して表立って反抗した者は、妻や恋人を奪われた男達の半分程度であり、残り半分は膝を屈した。

 その反抗した男たちは戦闘経験も何もある訳ではなし、兵士たちに抗すべくもなく、拘束され村長宅に臨時で作った檻の中に放り込まれていた。

 

 では反抗しなかった男衆は無事だったかというと、そんなことはなく、若く力仕事ができる男は、村から岩山への道筋を草刈りし整備するための工兵まがいの労働を強制されて、その中で適当な理由をつけて、故意に手足を潰すような怪我をさせられていった。

 リベリオ団長のいつものやり口である。潜在的な反抗分子は予め潰しておくに限る。


 そして、襲撃があった際に、反抗した男衆を閉じ込めた檻が置かれた村長宅は、オーガが他の建物とは違って明確な攻撃目標として破壊した上、雷魔法の攻撃を受けて炎上。

 兵士たちはさっさと逃げたが、檻の中の若い村人たちは蒸し焼きになった。


 いまとなっては健在なのは、幼い子供か年寄りぐらい。

 年頃の男性は多くが傷つき死亡し、女性も心と体に深い傷を負っていた。

 多くの若い女性が夫や恋人を失い、自身が散々に屈辱を受け、そしてその詳細が村中に知れ渡っている。

 彼女達にとって見れば、たとえ私兵団が壊滅したからと言って、このさき何事も無かったかのようにこの村で暮らせるものではない。

 しかし、若い世代がいなくなったら村は保たない。

 今は救助さえ来れば一息つけるかもしれないが、時間が経つにつれて次世代のいない村は追い詰められて、消滅していくルートしか残っていないように思われた。


「そもそもの始まりは、あの可愛らしい娘っ子かね?」


 死骸の片付けをしながら、老境に差し掛かった男衆は隣家に住む、同年代の男に話しかけた。


「ああ、そうだろうね。兵隊たちはあの娘を探しまわってたからね。一体どんなだいそれたことをしでかしたんだか……」


「全く、災厄の種だね。これまで見つからねえところをみると、もうとっくの昔にどっかに行っちまったんだろうけど」


「それならそれで、どこかに行ったって、兵士たちに言い残してほしいもんだよ」


「ほんとさ。うちは長男がやられちまって、炭鉱に行っている次男を呼び戻すねえんだが。……今の村の様子を知ったら、戻ってや来ねえだろうなあ」


「そりゃ、本人の希望なんか聞いている場合じゃねえよ。騙してでも戻らせて、家を継がせなけりゃ」


「だが、家を継がせたって、嫁になる女が居ねえんじゃ、ガキが生まれねえ……」


「傷モンでも仕方ねえから、残ってるのを嫁にすりゃあ良い。なに、ガキさえ産めりゃあ、それで良いのさ。傷モンだから大事にする必要もねえし、考え方次第さ。それとも、どこかから嫁を調達してくるかだな」


「町で誰か捕まえて連れてくりゃ良いんだが、こんな村に来る娘なんぞ居ねえだろうよ。これまでだって、さんざっぱら嫁不足で苦労してたぐらいだったんだから」


「いっそ、さらって来るしかねえのかもな」


「あの娘っ子が今からでも出てきたら、責任を取らせて、村で子供を産ませればいいさ」

「そりゃあいい。目鼻立ちも良いし、あと2~3年育てば、亭主希望には事欠かねえな。出稼ぎに出ている男衆もみんな戻ってくるさ」


***


 モリア村からの急報は町の門番から、衛士隊、そして代官へとすぐに伝わった。

 代官は腕利きと聞いていた殺し屋2人組のあらっぽいやり方に眉をひそめた。

 何のために2人という少人数で隠密に近い行動をさせたと思っているのだ?

 代官にとって、隣町アルティフェクスを支配する側の派閥は敵ではあるが、正面切って抗争になるのは避けたい。

 絶対に逃すことができない超絶性能のゴーレムの使い手を確保するためだから、著名なマルケス私兵団と言えど痛手を負わせて構わない。

 だが、村人の急報を聞く限りでは、殺し屋側も倒された公算が高いようである。肝心の娘は村人の報告には影も形もない。それじゃあ意味がないのだ。

 落雷があったときのような音を立てて家が炎上していたというのは雷魔法の使い手しゃがれ声だろうし、見たこともないようなバカでかい二足歩行の魔物の群れが攻めてきたと言うのはロングの従魔であるオーガの群れであろう。

 そして、あとに残ったのは兵士たちと、素性のわからない何人かの者の死骸。オーガの死骸も相当数あったという。魔法使い達の復命が無いところを見ると、相打ちの可能性が高い。しかも、肝心の娘はどうなったのか不明。


「くそ、すぐに衛士隊を派遣するぞ」


 衛士隊はアルジェントビルの治安維持が主任務であるので、いくら支配下にあるとは言え、徒歩で1日近く掛かる村への派遣は職務分掌から言えば、グレーゾーンのところであった。だが、代官にはすぐに出せる要員が他に居なかったのだ。

いつも読んでくださってありがとうございます。



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