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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第6章 遺跡
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第117話 混戦乱戦6

 ステファン小隊は山を降りるとそのまま、全力で村に駆けつける。

 あちこちで炎が上がっていて、今の状態はすでに戦闘中。

 ステファン小隊長には詳しい戦況は不明であったが、それを調べる時間が惜しい。拙速になろうと、一直線に私兵団の主力がいると思わしき、村の中心の広場に突入する。


「オーガか。ただちに攻撃開始」


 ステファン小隊は駆け足で戦場に飛び込み、そのまま戦闘に移る。

 広場はしゃがれ声の雷魔法で炎上した家屋と、それとは別に私兵団が幾つかの家に火を放ったので、それらの炎が赤々を天を焦がしはじめていて、昼のように明るくなっている。

 ステファン小隊の兵士たちは、すぐに3人一組に分かれて、オーガ1頭に当たる、という戦型を取って戦闘に入っている。

 唯一、小隊長だけが少し離れた場所で戦況を注視。


「オーガ共め。上位種に統率されているのか。しかも、ただのオーガよりも強いな。――本隊は徐々に撤退中か。すでにかなりの人数がやられているな。これでは俺たちが入っても状況を変えられないか。魔法使い共は何をしているんだ?」


***


 しゃがれ声の雷魔法は攻撃魔法としては威力は桁外れであるが、射程は短いし、連射も出来ないし、そもそも一日に使える回数は数回程度。

 雷属性を電気を操る魔法として捉え、レールガン的な使い方をすれば、その弱点は全てクリアされ、威力もはるかに上がるのであるが、しゃがれ声の知識と経験から、その発想に至ることは無かった。

 

 フロリアやアシュレイのように前世での知識があり、さらに自分の魔力を効率的に使うための専用の魔道具を作製するための条件が揃っていたら話は別であるが。


 そのため、回数制限のあるしゃがれ声に、自らは攻撃魔法を持たないレベッカの戦闘は睨み合いになってしまっていた。

 開始早々、レベッカに向けて雷魔法を放ったが、それは防御魔法で逸らされて、雷撃は空に消えてしまった。

 完全に跳ね返すだけの魔力の無いレベッカだが、年の功で魔力の効率的運用ではしゃがれ声より一枚も二枚もうわてだった。

 いや、本当のところを言えば、レベッカの生まれながらの魔力はしゃがれ声よりもはるかに上であった。エンセオジェンによって、実力をスポイルされていなかったら。

 彼女は本来の力の数分の一程度の魔力しか揮えなかったが、それをカバーする魔力の効率的運用、工夫を凝らした使い方にも長けていた。まともな勝負ではしゃがれ声はレベッカの相手ではなかった。

 しゃがれ声は、己の力を同じ雷属性の魔法で有名な、自由都市連合のSランク冒険者「雷撃のアドリア」に負けない技と魔力の持ち主であると自負していたが、実際にはこのレベッカにも及ばなかったのだった。 

 

 この時のレベッカは、生命が尽きたときのアシュレイと同じく長生きの魔法使いとしてはそこまでの老齢ではなかったが、その生涯を通して忌まわしい薬を投与され続け体を傷め続けてきた上に、ここしばらくの酷使、そして一日中岩山を駆け回った挙げ句に戦闘である。

 いくら実力が上とは言え、長時間の拮抗状態が続くと次第に力負けしてくる。

 もうひとりの魔法使い、コッポラが攻撃魔法でなくても何か均衡を崩すような魔法の1つも使えば、勝機が生まれるのだが……。

 しかし、コッポラは先程まで、地面にしゃがんで震えていたのに、今は見当たらない。どこかに逃げ出したらしい。

 

「こうなれば仕方ないねえ。静かにベッドの上で死ねるとは思ってなかったけど、これも運命か」


 自分がこんな風に魔法の才能を持たずに生まれていたら、いや、この魔法使いを神隷として人格を認めないような国ではなく、他の国に生まれていたら……。


「今更考えても仕方ないことだけどさ」


 レベッカは、故意に防御魔法を薄くしていく。

 魔力切れを装ったのだ。いや、実際にもうすぐ魔力切れを迎えるのであるが……。


「これで決まりだ、ババア!!」


 しゃがれ声の渾身の雷魔法がレベッカを襲う。防御魔法はあっさり破られて、レベッカを直撃。

 細いろうそくのように一気に炎上するレベッカ。しかし、それとほぼ同時に電撃は地面に張り巡らされた蜘蛛の巣の様な魔力の糸を伝って、広場中に広がるのであった。

 しゃがれ声もその網の中から逃れることは出来なかった。レベッカとしゃがれ声の間には特に太い筋で繋がれていた。


「なっ!!」


 しゃがれ声が考える暇も無かった。電撃が足元から全身を貫く。


「ぎゃあああ!!」


 生まれて初めて受ける、自分自身の雷魔法にしゃがれ声は一瞬、悲鳴を上げるが、すぐにレベッカと同じ様に全身が炎上する。

 数歩、前に歩くが、そのまま息絶えて倒れた。

 その時にはレベッカはもちろん、広場の多くの人々も魔物も炎上していた。


***


 "暗部"の2人が離れた場所から観察を開始した時点では、オーガは20数体を幾つかのユニットに分けて、統率された戦闘行動を取っていた。

 そして、押され気味であるとは言え、十分に持ちこたえて、更に岩山から援軍も来たマルケス私兵団。

 ただ私兵団の方はとことん戦う姿勢は見せず、ソロリソロリと退却の大勢に移りつつあった。

 この状況でいきなり総崩れにならず、秩序を保ったまま退却戦に移行できる辺り、リベリオ団長の指揮の的確さと兵士たちの熟練ぶりが良く分かるのであった。

 

 しかし、同じ村の広場で行われていたもう一つの戦闘。魔法使い同士の魔法戦は、短い膠着状態から男の方が雷魔法を放ち、老婆の魔法使いがそれを受けきれずに直撃され、勝負あったかに見えた。

 しかし、老婆は自分の死と引き換えに敵の魔法使いを巻き添えにする仕込みをしていた。

 それだけではすまず、彼女の仕込みは広場全体に広がっていた。


「あれって、自分を中心にした蜘蛛の巣みたいな魔力を伝える導線を張り巡らせていたってことだよね」


「ああ。"暗部"の魔法使いにも似たことができるヤツがいたけど、あいつは探知魔法の精度を上げるためのものだった。まさか、雷魔法の雷撃を広場いっぱいに広げるとはな。電撃は水を伝うはずだったから、水魔法を使った網目だったんだろうな」


 しかも、おそらくは彼女の最後の魔力も大いに上乗せされていて、雷撃の威力ははるかに大きなものになっていた。

 これによって、広場で戦っていたオーガは半分程度がその場で息絶え、どうにか持ちこたえた残りのオーガも大きなダメージを負っている。

 

 そして私兵団の兵士たち。ほぼ全員が地に伏している。半数ほどはまだピクピクと動いているが、それも長くは無さそうである。

 そして、少なくない人数がレベッカと同じ様に一瞬で黒焦げになって、もはや動かないで煙を上げている。


「確かにオーガは倒したけど、仲間まで皆巻き添えかよ」


「仲間じゃなかったのかも。この国では魔法使いは虐げられているから……」


 デリダの言葉で、神聖帝国に潜入以来、様々な場所で見聞きした魔法使い(神隷)に対する扱いの酷さ、冷たさをジャンは思い出した。


「最後の最後に、復讐も兼ねたってことか」


 彼らには、老婆の魔法使いの心情は推測するしか無かった。


「だが、問題はオーガだ。見たところ、最後の雷撃前にオーガの戦陣が崩れた見たいになっただろ」


「さあ、気づかなかったけど」


「お前は、その手の事は興味無かったもんな」


 ジャンは"暗部"の里でのデリダの修行の様子を思い出していた。まあ、たいていの女性は戦略とか戦術とかあまり興味は無いのが通例だが。


「もしかして、統率している個体がどこかで倒されたのかも。それで、オーガ達は好き勝手に暴れだして、広場を抜けようとした個体が半分ほどもあって……」


「それが、おばあさんの敷いた蜘蛛の巣の罠から逃れたということ?」


「ああ、そうだ。このままだとあいつら、村人を襲い出すぞ」


「放っておく……のも寝覚めが悪くなりそうね」


 任務に失敗し、あとは帰還するだけの2人であったが、何の関係もない村人が虐殺されるのを見過ごすことは出来なかった。

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