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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第6章 遺跡
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第114話 混戦乱戦3

「そろそろ良いかなあ。あ、やっぱ、駄目か」


 フロリアは自らの見通しの甘さに困惑していた。

 マルケス私兵団のしつこい追求を逃れるため、自らの死を偽装する作戦を実行したのだ。

 まずは故意に姿を見せて、兵士たちを切り立った崖の上におびき寄せる。

 次に、ゴーレムを出して暴れさせるが、足場の悪さから十分な能力を発揮できずに、すぐに回収を余儀なくされる。

 その際に盛大に土煙りを上げて、一時的に兵士たちの視界を塞いでその僅かなスキに亜空間に逃げ込む。

 フロリアに化けたトパーズに入れ替わり、トパーズは足を踏み外した風を装い、派手に崖下に転落。

 離れた場所から偽装した死骸を見せて、フロリアが死亡したものと諦めさせる。


 これは数日来、ニャン丸達をモリア村で情報収集させて、彼ら私兵団がフロリアに対し、かなり能力のあるゴーレム使いでゴーレムを複数機出し入れできる容量の収納持ち、そのゴーレム製造に関して何らかの秘密を握っている娘、という捉え方をしていると判って、その解釈に応じて立てた作戦である。

 

 ビルネンベルクのスタンピード撃退の様子を精査していたら、さらに召喚術も使い、操剣魔法も使えるという情報も得ていた筈だが、おそらくはビルネンベルクの老神父のファンタジックな報告からはうまく読み取れなかったのであろう。


 そもそも、そんなに能力や魔法てんこ盛りの人間の存在など、良くも悪くも自分の見たものしか信じない合理主義者であるリベリオ団長には信じられなかったであろう。


 それにトパーズの変化の能力はビルネンベルクでは使っていない、いわば隠し玉だ。その変化こそが今回の作戦では大きな意味を持っているのだった。


 作戦はうまく成功し、トパーズが変化したフロリアの死骸は迫真の演技で、この上なく死骸らしかった。話をした時には、この私がそんな下らぬことを、と文句を言っていたトパーズだが、実際にはノリノリで死んで見せたのだった。


 亜空間の扉を完全に閉めてしまえば、誰にも探知出来ないのだが、外が気になるので、少しだけ隙間を開けて、外を伺っていたら、兵士たちに同行していた魔法使いのおばあさんが探知したようで、フロリアの気配を探るような探知を飛ばしてきた。

 しまった、失敗した、と青ざめたフロリアだったが、不思議とそのおばあさんは兵士たちに報告せず、フロリアを放置したまま帰っていってしまった。

 

 それは助かったのだが、兵士たちは全員下山せずに、見張り役を残していったのだ。

 これは完全に計算外であった。


 本来は、誰も居なくなったら、前もって気持ち悪いのを我慢してオークの死体を原材料に作成した自らの死骸のダミーとトパーズを入れ替えて、念のため、もう少し岩を落として回収しにくくする――というのがフロリアの今後の計画であった。

 オークを使ってはいるが、フロリアの奥の手の創造スキルで体組成からかなり変更しているので、距離があればよほどの鑑定スキルの持ち主でないと見破るのは困難であろう。ましてや岩の下敷きにしてひどく損壊させる予定であるし。


 でも、見張りが居たらそれも出来ないなあ。明日は朝からまたたくさんの兵士が調べに来る見たいだし。

 死骸を見せればそれで諦めるであろう、そもそもオーク原材料のダミーの死骸も念のため程度だったのだが、まさか夜通し見張る兵士を残していくとは……。


 少しだけ開けた扉の隙間からトパーズの様子を探ると、崖の下から動けないまま。


"あ、だんだん機嫌が悪くなっている。困ったなあ。そのうち暴れだしそう"


 ステファン小隊は、そうしたフロリアの焦りに関係なく、野営の準備を始めている。いくらはげ山に近い岩山とは言え、10名以上の兵士が探せば一晩もつ程度の焚き木は集められる。

 毎夕、下山して村に泊まっているにも関わらず、彼らは余分な水と保存食をちゃんと持っていただった。


 いっそ、この人達の水にカビでも生やす魔法があれば、夜中までにはお腹が痛くなって下山するんじゃ。そんな魔法は無いか……。あ、でもウンディーネに頼んだらできるかも。

 ――だめだめ、そんなに長くトパーズは待ってくれない。


 そんなことを考えているところに、フロリアの脳裏に、モリア村の偵察に出していたニャン丸とシルフィードが語りかけてきた。


「ご主人さま。大変ですにゃ。戦争ですにゃ」


「何があったのか、はっきり教えて」


 フロリアはにゃん丸と視界共有したところ、目の前に炎が立ち上り、多くの人間達が怒鳴りながら走り回る、その足元が多数映った。


 猫の視点では、全体像が分からない。

 今度はシルフィードに切り替える。


「シルフィード、お願い、高いところまで登って」


「フロリア、怖いよ、怖いよ。魔法で喧嘩してるんだよ」


 人間の強い感情にさらされるとパニックを起こす精霊は、すでにかなり混乱している。なだめすかして、上空に上がらせると、村の前部、入口の辺りが燃えていて、中心部の大きな広場の前の一番立派な家(村長の家かな)の辺りに兵士たちが散らばり、なにか魔物と戦闘をしている。


「あれって、オーガじゃない!」


 魔物の襲撃? でもスタンピードってこんな風じゃ無かったし、この辺ってほとんど魔物は居ないはずだったのだが……。


「あのオーガは従魔ですにゃ。このニャン丸と同じ匂いがありますにゃ」


「分かった。ニャン丸、危ないから帰ってきて。誰かに見つかったりしないように気をつけてね。シルフィードもお疲れ様。戻ってきて」


 一体何が起こっているのか? 兵士達だけではなく、村人も襲われていそう。

 村には迷惑を掛けたくなかったのに、結局、こんな風になっちゃうなんて……。


 フロリアは意を決して、亜空間をそろりと忍び出る。

 近くで野営をしている兵士たちに魔法使いは居ないようだが、念のため闇属性の隠蔽魔法と偽装魔法を一番強く掛けて、自分の身を隠したまま、背を低くして、崖の近くから離れていく。

 兵士たちから大きな岩塊を数個隔てた地点まで来ると、先行して帰還したシルフィードをなだめて落ち着かせてから送還する。

 そして、久しぶりに白ふくろうのモンブランを召喚する。

 モンブランが出現するのと同時ぐらいにトパーズもやってきた。

 

 崖の下の死体ごっこに飽きたこともあるだろうが、聖獣の勘でモリア村でただならぬ事態が進行中、そして亜空間に隠れている筈のフロリアが移動したのを探知して、やってきたのだ。留守番の兵士の誰かが崖下を明かりで照らして確認したら、死骸が消えてしまったことがバレてしまう。


 フロリアは手短にトパーズとモンブランに事態を説明すると、


「モンブラン。空から偵察して。絶対に危ないところまで近寄っちゃ駄目だよ」


「ほう」


 モンブランは一声鳴くと、バサバサと羽音を立てて、空に舞い上がり、白い体は夜の闇に紛れていった。


 羽音がした時にフロリアはヒヤリとしたが、うまくステファン小隊には聞こえなかったようだ。


「私も行って、オーガを蹴散らしてこよう。久しぶりに面白そうな相手じゃないか」


「まって、トパーズ。この辺は魔物もめったに出ないのに、あなたがいきなり出現したら、あとで色々と勘ぐられるの。もう少し、待って」


 それに崖下の偽装がバレないうちに兵士たちをなんとかしなければ。――良いアイディアが浮かばず、焦るフロリアだったが、それは勝手に解決してしまった。


 モリア村から上空に向けて光の玉が打ち上げられた。

 前世で言うところの照明弾のように、数十メートル上がると赤く発光しながら周囲を照らし、ゆっくりと落ちて行った。


 それを確認するや、岩山の上に野営いていたステファン小隊は、ただちに行動を開始した。野営の準備はそのままに、武器をつかむともリア村に向けて急遽、下山をし始めたのだ。


 この光の玉を打ち上げたのはリベリオ団長で、光の魔道具を使ったものだ。

 フロリアは知らなかったが、赤い光は「敵襲あり。至急、増援せよ」という意味である。


いつも読んでくださってありがとうございます。



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