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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第2章 ニアデスヴァルト
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第11話 商業ギルド

 ニアデスヴァルトの町の正面の大門には、門番が居た。門番は町の衛士隊の組織に属していて、町への出入りの管理を行っている。

 大きな町だと入城する者が嘘をついていないかどうかを判定するための鑑定水晶が置かれていて、それに手をかざした状態で門番の「犯罪歴は無いか?」などの質問をクリアしないと町に入れない。

 しかし、この町では簡単に名前とギルド会員についてはギルド証を確認するだけであった。

 アシュレイは錬金術ギルドの会員になっていて、フロリアはその補助者ということで補助者証を持っていた。

 冒険者ギルドはパーティ単位での利便をはかる制度は有るが登録自体はあくまで個人単位。それに対して商業ギルドは個人会員もいるが、商会単位で会員になっている場合もあり、その時には店主がオーナー証、従業員は従業員証を渡される。

 同様に、錬金術ギルドの場合は個人営業で小物を作ったり、大きな工房に納めるための部品を作っているような術師は個人証になるが、ある程度の大きさの工房になると親方の他にも術師や手伝いの職人を抱えるようになり、彼らのために補助者証を発行することになっているのだ。


 アシュレイは、工房主といった規模では無いものの、自分の補助者として、フロリアに補助者証を渡していた。

 アシュレイとフロリアは年に1回か2回程度、このニアデスヴァルトまで足を伸ばして、簡単な魔道具――例えば簡単に火を点けることができるライター様の道具や、懐中電灯のような役割を果たす道具、携帯浄水器、携帯温水器などなど――を作って、この町の商業ギルドに納品していた。


 大きな町なら錬金術ギルドに納品すべきものなのだが、この町規模では錬金術ギルドが無いところも多く、その場合は商業ギルドが業務を委託されている。

 

 アシュレイはいつも、直接ギルドマスターに面会して、ギルドマスターの私室で商品の魔道具を納品して、その場で金銭を得ていた。

 アシュレイの持ち込む魔道具は、一人親方の工房でも作れるような簡単な魔道具なのだが、それでもギルドマスターはアシュレイを丁重に扱い、いつもこのような対応をしていたのだ。

 その気になれば、アシュレイはもちろん、フロリアでも鑑定の魔道具、収納スキルを付与した収納袋、ポーション、魔剣や強力な武具や防具、そしてなによりゴーレムを作ることができるのだが、そうしたものはアシュレイは決して売りに出そうとはしなかった。

 

 アシュレイが作る魔導具は魔力を持たない一般人でも使えるタイプの魔導具で、単純で用途も限定されるとされていた。

 それでもこの魔道具を売ったお金で、2人はレソト村の物々交換では手に入らない洋服や日用品、食品などを買い込んで、町の旅館に泊まり、ちょっとした贅沢をするのに困ることは無かったのだ。


 そして、買い取る側の商業ギルドも、ギルドマスターが自ら対応して、このか弱そうな女性2人組が割りと高価な魔道具を作れるという情報や、ギルドを出るときにはけっこうな大金を持っているという事実ができるだけ広まらないように配慮していたのだった。


 それを覚えていたフロリアは、当座の活動費と生活費を魔道具を売ることで得ようと考えていた。

 アシュレイが売っていた程度の魔道具なら、フロリアも問題なく同品質のものが作れる、というか、本気になると遥かに高品質なものができてしまう。

 アシュレイは「全力で最高に挑戦するのも大事だけど、力を加減して、同じモノを安定して作るのも大事」という方針で、フロリアに修行させていたので、その辺は十分にコントロールできるのだが……。


「トパーズ。しばらく、引っ込んでてね」


「分かった。だが、危なそうだったら出るぞ」


「大丈夫だよ。何度も来たところだから」


 そうしたひそひそ話をしながら、商業ギルドに入る。

 フロリアは他に知らないから、そうは思わなかったが、小さなギルドで窓口も1つしか無かった。

 その窓口に行くと、フロリアは「ギルドマスターは居ますか?」と窓口に座る男性に聞いた。


 このギルドでは窓口係はクレマンがつとめていた。とは言っても、役職名が「窓口係」で実質の仕事は副ギルドマスターだったので、実はクレマンはあまり窓口には座らない。

 この時も別の男性が座っていたのだが、奥のデスクにクレマンは居たので、すぐにその男性に代わるように言うと、フロリアに「現在、ギルドマスターは出張中です。数日は、帰りません」と答えた。

 以前にアシュレイと同行してきたのを見ていたので、これが老魔法使いの弟子で、レソト村のベンから連絡があった小娘か、とクレマンはひと目で判って、出てきたのだ。

 レソト村の依頼は奥歯に物が挟まったようなわかりにくいものだったが、この娘が金になりそうだから身柄を押さえろ、という意味なのは、ベン村長の工夫に係わらず、クレマンにはすぐに分かった。以前から師匠と一緒に魔導具を売りに来ているのを知っていたので。

 

 ギルドマスターがちょっと遠い町まで出張中なのは、事実であった。そして、帰りの日程がはっきりしないのも、ちょっと雨が続いただけでも旅程が狂うのが当たり前の、この世界では別に不思議なことではない。

 だが、ギルドマスターが居ないとなるとフロリアはちょっと困ったことになる。

 

 やむを得ない。

 フロリアは、「分かりました、ありがとうございます。それじゃあ、4~5日したら出直してきます」と答え、そのままギルドを出ようとした。


「ああ、お待ちなさい、お嬢さん。ギルドマスターでなくても、私が話を聞きますよ」


 フロリアは少し考えた。

 確かにお金が無いので町の宿には泊まれないが、それは大した問題ではない。町の外の適当な場所で亜空間に入って夜を過ごせば良いだけである。

 今や、フロリアの亜空間は大抵の宿屋よりも安全で快適な場所になっている。

 食糧は、肉類はトパーズが大量に狩ってきた獲物があるので、当分困らない。野菜類は在庫が少なくなっているとは言え、フロリア1人分だけなら、4~5日どころかまだ当分大丈夫である。


 しかし、魔道具を売るためだけにギルドマスターの帰還を待つというのも芸がない。要するに現金にさえなれば良いのだから、目の前のこの男でも構わないだろう。

 この男もギルドの一員であることは変わらないし、今後、別の町に行けば、別の人にいろいろなものを売ることもあるのだ。


「分かりました。それじゃあ、売りたいものがあるんですが」


 クレマンは承諾すると、ギルドマスターの私室を使う許可は得ていないので、会議室の1つにフロリアを招いた。それはギルドの職員スペースにあって、普通の来客の入れる前部のスペースとは雰囲気が違う。

 顔程度はなんとなく覚えているが、名前も知らない男性と共に、建物の奥に行くというのは、フロリアにはちょっとプレッシャーではあったが、万が一の時には身を守る魔法もあるし、トパーズも影に潜んでいる。

 

 それで、会議室に落ち着いたところで、フロリアは収納スキルから魔道具をいくつか取り出す。それを見たクレマンは表情こそ動かさなかったが、眼が怪しく光った。

 フロリアは自分が"金になる"収納スキルが使える(または収納袋を持っている)ことを安易に知られないように、あらかじめ売り物は収納から出して、リュックにでも入れてから商業ギルドを訪れなくてはならなかったのだ。


「この魔道具を買ってほしいんです」


 やはり、ギルドマスターが時々どこかから仕入れていた魔道具の仕入先はアシュレイであったのか、とクレマンはほくそ笑んで、「これは、確かに高く売れそうですね。一応、規定によって鑑定を掛けてから金額を出すようになりますが、ね」と答えた。


「ところで実は私達ギルドでは、アシュレイさんが亡くなったという情報を得ているのですが、本当ですか?」

いつも読んでくださってありがとうございます。



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