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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第6章 遺跡
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第103話 岩山にて

 岩山で。

 兵士たちが登ってくるのを見つけた男たちはどう対応してよいのか迷いながら、逃げも戦いの準備もせずに、ただ突っ立って待っていた。

 兵士たちは目に何の表情も浮かべずに、しずかにチンピラたちに近づいてくる。


「あのう、何か御用ですかい、旦那方?」


「おう、用事と言えば、用事だ。お前たち、小娘の痕跡は見つけたのか?」


「へ?」


 先頭に立った兵士の事もなげな問いかけに、チンピラたちは答えを迷った。

 この兵士たちはどの程度のことを知っているのか、答えて良いものなのだろうか。


「何のことでしょうか? 旦那方」


「恍ける必要は無いぞ。お前たちの仲間はすでに、下の村で捕縛してある。彼奴らに聞いて、ここまで登ってきたのだ。大人しく答えるならば、痛い目には合わずに済むぞ」

 

 先頭の兵士はニヤリと笑う。


 それを影から見ているトパーズは心中で呟く。


"これほど殺気ではち切れそうになってるのに、痛い目には合わずに済むぞ、もないものだ。それとも、痛みを感じる前にひと思いに止めを刺す、という意味か?"


 退屈だと思っていた仕事が思わぬハプニングで面白くなってきたので、トパーズもテンションが上がってきている。


 見たことのない集団のようだな。フロリアを少なくとも2つの集団が追っているのか。


"よくよく、追いかけ回されるものだ、あの娘は"


 何も答えないチンピラたちに業を煮やしたのか、ようやく彼らの直ぐ傍までのぼっていた兵士は気負った様子もなく、ごく自然な動作で剣を抜くと同時にチンピラたちの1人を斬り捨てる。


「や、やりやがった!」


 チンピラたちが驚いて腰を抜かす。


「どうだ。少しは話す気になったか。小娘の痕跡はあったのか?」


「ね、ねえよ。空振りだったので、村に戻るところだったんだ」


「そうか。それは残念だな。もう村にお前たちの仲間は残っていないぞ」


「なんだって!! 畜生、やりやがったな」


 チンピラは威勢は良いが、声は震えているし、腰を抜かしたまま立てていない。


「ステファン小隊長。足跡です」


 チンピラを取り囲んでいない兵士が、周囲を素早く探索していたが、たまたま土が溜まっている箇所に足跡を見つけたようであった。

 その声につい先程チンピラを斬り捨てた兵士が、その足跡を確認しにいく。


「ほう。まだ新しいな。この大きさは大人のもんじゃねえな。確かに、その娘ぐらいの年齢の子どもだと思えばしっくり来るな」


 そして、チンピラの方に戻ると、「お前たち、これを隠していたのだな」と呟く。穏やかな口調が逆に不気味である。


「し、知らねえよ。そんな足跡、気が付かなかったんだ!!」


「そうか、それじゃあもう聞くことは無いな。死ね」


「ま、待ってくれ。俺たちが何をしたっていうんだ。殺されなきゃならない道理なんかねえぞ」


「あるさ。お前らを放っていく訳にいかねえ。かといって、こんな岩山でとっ捕まえて、下まで連行するにも一苦労だ。俺たちが楽するためにば殺すしか無いじゃないか」


 変に凄んだりしないで、淡々と話すステファン小隊長の口調が逆に恐ろしい。チンピラは破れかぶれで「チクショー!」と叫んで、そのステファン小隊長に掴みかかろうとする。

 ステファン小隊長はそのチンピラと体を入れ替えるように動きながら、己を掴もうとする腕の肘に辺りを横薙ぎに軽く斬り、返す刀でチンピラの首筋を剣先で斬る。


"ほお"


 トパーズが珍しく感嘆したかのような嘆声を漏らす。

 アシュレイやフロリアが砂鉄から作る反った刀に比べると、この世界の一般的な兵士や冒険者の持つ剣は、力ずくで叩きつけるためのものであって、決してよく斬れるものではない。

 しかし、ステファン小隊長とがいう男は、その基本的にナマクラな剣であっさりチンピラを倒したのだが、トパーズが見るところ、腕は肘のあたりの腱を無駄なく斬って、無駄に斬り落とすことなく使用不能にしていて、首筋も急所を剣先で軽く斬っただけだが、すぐに治癒魔法を掛けるなり、せめて止血しないと致命傷になる傷を負わせている。

 チンピラは首筋から噴水のように血を吹き出しながら、地面をのたうちまわっているがすぐに動かなくなる。


"ありゃ、フロリアに遭わせるとまずいかもな"


 このステファン小隊長という男は魔法使いではないので、単純に戦闘力だけを見るならフロリアが圧勝だが、この躊躇の無さと剣技の冴えはかなり厄介である。フロリアが躊躇しているうちに遅れをとる可能性がある。

 しかも、この新しい集団の方は、"できるヤツ"がステファン小隊長1人とは限らない。

 

"確か、軍とか言うのだっけ。昔、アシュレイが加わっていた冒険者と仲が悪かった連中だな。同じお仕着せを着て、戦うのが専門だとアシュレイが言っていたな。だが、ヴェスターランド王国のあちこちで会ったことのある軍とは、けっこう雰囲気が違う。どこか、冒険者っぽい荒っぽさもあるな"


 トパーズは正規兵とか傭兵といった概念を知らない(そもそも兵士という概念もアシュレイから教えられるまで知らなかった程)のだが、このマルケス私兵団の剣呑さは敏感に感じ取っていた。


 残り2人のチンピラに、ステファン小隊長はゆっくりと向き直る。


「で、団長のところに引きずっていくのは1人居れば良い。どちらが生き延びるのだ?」


「ヒィィ」


 チンピラのうちの1人が腰を抜かして、地面にしゃがみ込み、もう1人は背中を向けて逃げようとする。

 だが走り出して数歩もいかないうちに、いつの間にか逃走路に先回りしていた他の兵士がチンピラに剣を突き出す。

 急に止まれないチンピラは自ら、剣に向かって突っ込んだような形になって、なにかを唸りながら、両手を振り回す。

 剣を持つ兵士は、片足を上げて、チンピラを足裏で蹴るようにして、深々と刺さった剣を引っこ抜く。


 こちらも剣が抜けると、チンピラの胸から大量の血が吹き出し、兵士はそれを被らないように素早く移動するのだった。


「そんな刺し方じゃ、剣が折れたり曲がったりするぞ。こんな足元がおぼつかない奴は、足でも引っ掛けて転ばせてから、背中から刺し殺せ」


 ステファン小隊長は剣をふるった部下に一言アドバイスすると、改めて部下の内の2名の名前を上げて、へたり込んでいる方のチンピラを顎で示して、「こいつをリベリオ団長のところまで引きずっていけ。残りは俺について来い」と命じて、再び岩山を登り始めた。

 フロリアが居る方角に向かっているが、今はトパーズの探知魔法を持ってしても、しばらく前からフロリアの存在を確認出来ない。打ち合わせ通り亜空間に入ったのだろう。

 亜空間に入って扉を閉じてしまうと、この空間側からみると、扉自体が消失して、完全に接続が切れてしまうのだ。

 人間の間では亜空間に隠れたら、いかなる魔法使いでも追跡不可能だという言い伝えがあるそうだが、こればかりは「確かにその通りだ」とトパーズも納得していた。


 だから、ステファン小隊長の方は放っておいて、チンピラを引っ立てて、岩山を降りていく2人の兵士の方を尾行することにした。

 もしフロリアが予定より早く亜空間の外に出てきて、この兵士たちと接触することになっても、1人でそれを切り抜ける経験をするのは悪いことではない。


"だが……まあ、抑えぐらいはしておくか"


 トパーズは眷属の白虎を1頭呼び出すと、遠くから上に行く兵士たちを監視して、フロリアと戦闘になったら助けるように命じて送り出す。


 残った兵士の内の1人が


「あ、汚えな、こいつ。漏らしてやがる」


とチンピラの背中を靴先で軽く蹴ると、


「おい、お前に触りたくないから、このまま、大人しくついてこい。もし逃げようとしたら、足首手首を斬り捨ててやる。そうなれば仕方ねえから担いでいくが、俺たちもそんなことはしたくねえから、なるべく手間を掛けさせるなよ」

いつも読んでくださってありがとうございます。

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