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少女と黒豹の異世界放浪記  作者: 小太郎
第1章 旅立ち
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第1話 森の中で1

はじめての投稿です。

下書きはずいぶんと溜まっているのですが、いちいち修正しながら投稿していくので、週に1回から2回の投稿になると思います。

気楽に読んでください。

「いっぱい精製できたね。ご苦労さま、コボルト。これだけあれば、またたくさん魔道具が作れるよ」


 フロリアの言葉にコボルトは「わーい、わーい」とあたりを跳ね回わる。

 コボルトといえばコバルト、のコバルトを始め、マグネシウム、鉄、銅、そしてミスリルやアダマンタイトなどの魔法金属まで扱う金属の精霊であるコボルト。

 今日はアオモリの中を流れる川から砂金と砂鉄を集めていたのだ。

 

「こっちも採れたよ、いっぱいいっぱい採れたよ!!」


「うん、ドライアドもご苦労さま」


 ドライアドも負けじと胸を張る。こちらもあまりみかけない種類の薬草が数種に、希少では無いものの使い勝手が良く様々な用途に便利な薬草などなど、充分な量を採取してきたのだ。

 

 そもそも精霊を呼び出せる召喚術師は少なく、さらに精霊の姿を見ることが出来る人間が少ないので、時にインチキ呼ばわりされることもある精霊召喚だが、その有効性は間違いない。

 精霊達は召喚術師の能力によってぼんやりと光の玉のようであったり、人以外のなにかの姿――例えば、コボルトなら子犬のような小人、ドライアドなら緑の蔦植物など――に見えるものだが、フロリアが召喚している子は、いずれも身長が10センチほどのとても美しい少女の姿。ドライアドは緑、コボルトはブルーのワンピースを着ている。

 人の姿に見えるのは術師の能力が優れていることを表しているのだが、その中でもこれだけはっきりと見えるのはかなり珍しい。

 ましてや、比較的呼び出しやすい四大精霊(ウンディーネ、シルフィード、サラマンダー、ノーム)とは違い、草木属性のドライアド、金属属性のコボルトを呼び出せるとは……。


 いつも素材集めに四苦八苦している錬金術師たちが、このフロリアの能力を見たら目の色が変わるところであるのだが、彼女自身は自分の価値にイマイチ、ピンときていない。

 ただ、師匠であるアシュレイから「精霊召喚の技は出来るだけ内緒にしておきなさい」といつも厳しく言われていただけであった。


 いま、こうしてコボルトやドライアドに発掘や採取をさせているのは、師匠と暮らすアオモリという大森林のさらに奥深い場所で、人跡未踏。魔物程度しか居ないので、何の心配もいらない。


 精霊たちの収穫を収納スキルに仕舞っていると、何百メートルか先でトパーズが魔物を仕留めたのが伝わってきた。鳥系のようだ。

 トパーズはその魔物を首輪に仕込んだ収納袋の魔道具に仕舞うと、フロリアめがけて走り出す。

 黒豹そっくりのしなやかな肢体は、障害物の多い森の中でも速度が落ちることなく、トパーズはわずか数分でフロリアの元に戻る。

 本来はフロリアの護衛として、アシュレイに付けられたのだが、フロリアに害を為せる能力を持った魔物なら近づいた時点でフロリア自身の探知魔法かトパーズの"嗅覚"に引っかかる。

 なので、フロリアの気配が感じられる程度の距離を保ったまま、こうして森の奥深くで狩猟本能を満たせていたのだ。フロリア自身も伝統的な攻撃魔法こそ使えないものの、それをカバーするために磨いた操剣魔法をはじめとする、幾つかの手段を持っており、滅多なことでは遅れを取らない。

 フロリアにとっては危険なのはむしろ、彼女の能力や容姿に惹かれて、良からぬことを企む人間が棲む人里の方なのであった。


「フロリア。そっちも好調なようだな」


 トパーズはそう言いながら、自身の収納袋から獲物をドサドサと地面に出す。トパーズがアシュレイの従魔になった時にアシュレイから贈られた首輪で、後にフロリアがその首輪に付与魔法で収納袋の能力を加えたのだ。


 獲物はオーガが1頭獲れているのを筆頭に、オークが5~6頭、鳥の魔物が数羽、小鹿やツノウサギもいる。


「血抜きはしてないぞ。亜空間に引っ込む前に抜いておいた方が良い」


「うん」


 せっかくの大事な亜空間が血生臭くなるのはフロリアも嫌だったので、その場で血抜きをすることにした。

 天気がちょっと怪しくなってきているので雨が降る前に手早く片付けたい。


 精霊たちは血が苦手なので、「やー」「トパーズのバカー」などと言いながら、フロリアにしがみつき送還して貰う。

 11歳の少女、それも華奢な体格のフロリアにとっては難しそうに思える血抜きだが、彼女は魔法を駆使してあっという間に作業を終える。服が血で汚れることもない。流れ落ちた血や使わない内蔵は、土魔法で地面に掘った孔に捨てて、埋め戻す。

 もちろん、魔石も手際よく集めておく。

 血の匂いは森中に広がるが、トパーズが意識して強い威圧感を放っているので、近づける魔物などはいない。

 この世界は通常の動物の他に、体の中に魔石を持った魔物、そしてものすごく稀に聖獣と呼ばれる魔物の上位種が居る。

 聖獣は年齢を重ねるとやがて神獣になるとも言われている。

 トパーズは聖獣で、知能が高く人語も解する。必要に応じて眷属も呼び出せるが、トパーズ1匹のみで大抵の用事は済んでしまう。

 

 フロリアは血抜きを終えた獲物を自分の収納に仕舞って、少し離れた場所にある太めの木の幹に亜空間へのドアを貼り付けるように出すとそのドアを開く。

 まずトパーズがしなやかにそのドアをスルリと抜けて、"向こう"に行く。フロリアは「お願いね」と言いながら、幾粒かの種を地面に蒔く。この種が魔法で芽を吹き、蔓草となって、この場所を守る。

 亜空間に居る間は、通常空間で何が起こっているのか分からないで、再び空間を繋げて出る時が危険なのだ。だから、出るときにはまずは扉の小窓を開けて、蔓草に周囲の状況を"聞いて"安全を確認するのだ。


 亜空間スキルは、100年に1人とか2人しか生まれないと言われるほどのレアスキルで、少ない少ないと言いながらも1ヵ国に10数人は居るという収納スキルよりも遥かにレアである。

 この2つのスキルの違いは、収納スキルは生き物を入れられないのだが、亜空間魔法は普通に入れられるという点が一番特徴的である。それどころか亜空間スキルが生成する亜空間に持ち主自身が入ることができ、そして持ち主が中から扉を閉めてしまうと、絶対的な防御になるのだ。


 どれほど優れた魔法使いがその魔法やスキルを駆使して身を隠しても、高度な探知魔法を持つ魔法使いが慎重に調べればどこに隠れたのか、露見してしまうものである。

 ところが、亜空間に入って、閉じてしまえば、この空間とは"別の場所"に行ってしまうので、いかなる探知魔法でも探り当てることは不可能。


 かつて反逆者に国を滅ぼされた際に、美しい王女を伴って亜空間スキルをもつ魔法使いが亜空間に逃げて、それを敵方の探知魔法使い100人が狭い王宮全てを調べ尽くしてもついに発見することができず、落ち延びることに成功したという有名な伝説がある(伝説ではもちろん、この亜空間スキルの持ち主の活躍で王女が反逆者を倒して、国を回復し、末永く幸せに暮らしました……と続く)。


 フロリアがトパースのみをお供に単独行で、魔物が徘徊する森の中で数日過ごすことが出来るのは、操剣魔法を始めとする身を守る魔法もさりながら、この亜空間スキルを持つことが大きい。亜空間の中よりも安全に夜の時間を過ごせる場所など無いのだから。


 トパーズは「私はもう食事は済ませてきた」というと、亜空間内のお気に入りの寝床に行って、ゴロリと横になる。狩りの途中で、適当な獲物を食べたのだろう。

 トパーズの寝床は枠の中に弾力のあるマットレスを創造スキルで作り、肌触りの良い布をかぶせたもので、完成するまで何度もトパーズにダメだしをされて作り直した力作である。


 発現当初は6畳間ひとつ分ぐらいの大きさしか無かったフロリアの亜空間だが、使っている内に徐々に大きくなっていって、現在では、直径が40メートルほどの円に近いかたちをしている。縁の部分は下の方は垂直に近いが2メートルほど立ち上がると、そこから上は中央に向けて湾曲して、お椀を伏せたようなドーム型になっている。

 直径40メートルということは、……ええと、半径×半径×3.14で、広さがだいたい1256平米だっけ。

 

 この世界は時々、現代日本から転生してきた人が生まれるようで、そうした先人たちの努力で度量衡やら言葉やら料理やら、日本でおなじみの文化が移植されている部分が多く、おかげでフロリアも助かっている。長さの単位もその1つで、魔法やスキルが大手を振って存在しているような世界なのに、メートル法が健在なのだ。


 1256を3.3で割ると、だいたい380坪。たしか、前世のお父さんが私が中学にあがるタイミングで一戸建てを35年ローンで買ったけど、その時に敷地が30坪だと言っていたような記憶がある。あの家の12軒分よりさらに広いというのは、よく分からないけど、お父さんが聞いたら、かなり凹みそうな気がする。

 お母さんは平然としてるかな。お兄ちゃんはオタクグッズをいくら買っても保存できると言って喜びそうな気がする。もっとも、この世界にはオタクショップも通販も無いのだけれど。


 ……フロリアはそんなことを時々、考えることがあった。


 気温(室温?)はだいたい15度から18度ぐらいで安定していて、寝るには暑すぎず寒すぎずでちょうどよい。常に淡い乳白色に発光している。なので、適当な場所にウッドデッキを作ってその上に大型のテントを常設し、その中で寝ることにしている。暗さの調節が出来るし、あまりだだっ広いと落ち着かなくて寝にくいので、このような形に落ち着いたのだ。

 テントの中は6畳程度の広さで、フロリアとアシュレイ師匠、2人分のやや幅が広めのシングルベッドが2つ並んでいる。

いつも読んでくださってありがとうございます。



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