第六話「初めての食事、何か魚光ってんだけど…大丈夫か?これ」
獄中にて、テクスチャに感嘆している聖太に突如告げられる声。その正体はこのゲーム、『ディメンションクエスト』の開発者だった。開発者により衝撃の事実を告げられた聖太。それは、『ディメンションクエストがバグも無く精巧に作られた世界』だ、ということだった。それが仕様ならば、聖太はこの世界からログアウト出来なくなるということになる。獄中生活も終わりに近づいた聖太の運命は、果たして——————。
※新ヒロイン登場です!お楽しみに!
「冒険者さーん、投獄刑期が終わりましたよー!!さ、まずはお城の来賓室にいらして下さー、」
「コール:コーディネート・ムーブメント…x9545816156,y-500,z51468…コール:メニュー…コール:フォースド・ログアウト…」
「冒険者さーん!?聞こえてますか!?!?無視しないで下さい!!」
スフィリアちゃんがブンブンと腕を振る。
「あぁ、ごめん!ちょっと考え事してた!!何?」
「なにも何も、投獄刑期が終わりましたよ!!ベリオリスを倒すためにいきまs」
「ごめんスフィリアちゃん、ベリオリスの前にちょっと休憩させて…ごめん…」
「ええ!?!?ちょっと前まであんなにイキってたのに!?!?そんなに牢獄でメンタルやられちゃったのですか!?!?」
「ちげーよ!!牢獄もベリオリスも余裕だってーの!!片手で半壊だわ!!なめんなよ!!」
「じゃあ…!」
そこで、スフィリアは聖太の鬱々とした疲れの様なものをその横顔と、眼差しから感じ取ったのだろう。彼女は
「…今日は、お休みしましょうか。城の客室の一つを貸し出しますので、そこで寝泊まりして頂ければ。食事を私の部屋に用意させましたので、冒険者さんもぜひ。浴室もありますので、宜しければお使いになって下さい。」と、言った。
「ありがとう、スフィリアちゃん。有難く頂くよ。」
スフィリアは、微笑で返事をすると、聖太を労いながら城の上階へと招き入れていった。
「すげぇなぁー、異世界ファンタジー」
俺の眼前には、色とりどりの見ているだけで涎の垂れてしまいそうな絶品料理が鎮座していた。現実世界では相当お目にかかれないであろう、鳥の丸焼きから、謎の果物の詰め合わせ、謎の色の魚、謎の草炒め…
それぞれが明らかに食欲をそそる匂いをしているものの、色や形が現実世界では絶対口にしないような色をしている。ほら、これとか…青い果物だし、草も妙にぐるぐるしてるし…鳥以外まともな見た目してねぇぞ…
大丈夫かこれ…いけんのか…?魚なんて微妙に発光してっし…
「スフィリアちゃん、これ全部ちゃんと食えるの?もしかして実は知らんうちに死刑になってて全部毒入りとかそういう系のアレ?」
俺が失礼にも程があるほど捲し立てると、スフィリアちゃんは鬼気迫る表情で高級そうなダイニングテーブルを惜しみもなくダン、と叩き、
「そんなわけないじゃないですか!!失礼にもほどがありますよ!!というか、ウチの城で使ってる食器は全て純銀製です!!毒なんて入れたら直ぐにバレますよ!!」と憤慨した。
「じゃあなんでこの魚光ってんの」
俺は食卓の上に置かれた微妙に発光しているおどろおどろしい謎魚を指さした。
「ご存じないのですか?水の国アクアリスから届いた上級食材のミツエボシですよ!!光のマナを多分に含んだお魚で、光が強ければ強いほど脂が乗っていて美味しいんですよ!!」
どうやら本当に毒入り殺人料理ではないようだ。しかし、水の国やら風の国やら、魔道属性にでも準拠してるのか?この世界は。
「めっちゃキモいけど…それじゃあ、いただきます」
俺は恐る恐る、発光するキモい色の魚の身を口に運び、咀嚼して、吟味。数秒経ってから———、
「マグロじゃん!!!!!」
と感嘆した。そう。ミツエボシ、という発光する謎魚は現実世界でいうマグロに似ている…というかもはや寸分違わないであろう。見た目はどう考えても現実のマグロの方が美味に見えるが、味は全く一緒だ。
「ひぃ!なんですか!?お口に合わなかったですか?私、マナ魚が好物だからてっきり冒険者さんも好きだと思ってました…今すぐチフユに連絡を…!」
「美味しい」
俺がそう述べると、スフィリアちゃんは今までのせかせかした動きをピタ、と停止し、目を丸くした後にわぁ、と嬉々とした表情をした。
「そうですか!!それは、よかったです」
しっかし、美少女を観察しながら食べる刺身は格別だな…
「ところで、マナ魚って何?」
「マナ魚っていうのはですね、この世界を満たす魔導元素エーテルを多分に含んだ魚の事です!ミツエボシ以外にも、アキシラズとか、トキトワとか、色々な種類の魚がいるんですよ!生憎、大体の海洋生物などは水の国アクアリスからの輸入品なんですけどね…」
「ふーん」
俺はスフィリアちゃんの話を聞きながらマグロ、もといミツエボシに舌鼓を打っていた。今作での魔術元素はエーテルというらしい。前作ではシナプスといっただろうか。前作の世界観ではSFチックな景観が多かったのを鑑みると、風景や時代背景に合わせた魔術元素の名称が付けられているんだと俺は予測する。
「水の国、とか風の国、とかいろいろ言ってるけど、一体どのくらい国とか存在してるの?スフィリアちゃん」
現在地の把握。それはRPGやゲームにおいて今後の指標になるとても大きな手掛かりだ。今ここで聞いておくことで今後の立ち回りに大きなアドバンテージを齎すかも知れない。スフィリアちゃんは人差し指を立てて俺に解説し始めた。
「はい、まずは私たちの国、風の王国、エンドルシアです。火、水、雷、どのエーテルも含んだ大陸になっていて、それぞれの国の民を寛大に受け入れております。火の国の様な魔導石採掘も、水の国のような漁業文化も多少なら自国で賄えます。東州ジルシア、西州ニルシア、南州エルシア、北州ミルシアに分かれていて、それぞれにエンドルシア王の血の流れた王女が存在しています。今のエンドルシア直系の王女は、ジルシアの私以外に、三人の王女が存在していて、それぞれの州を近衛や大臣と共に統治することで、分業しています。ここまで、大丈夫ですか…?」
本当に凄い設定だ。今回も世界観のボリュームがVRMMORPGという分量に全く劣っていない。
「うん、風の国のことは大体わかったよ。他の国も存在しているんだよね?」
スフィリアちゃんは毅然と首を縦に振り、続ける。
「はい、他の国は、火の国、水の国、雷の国が存在していて、例えば火の国イフリシアでは、活火山帯に近いところで生活していて、特に魔導石を用いた鉱石業が盛んですね。水の国アクアリスでは、都市が水中にあることで、魚や海藻類の資源が豊富なので、漁業文化が発達しています。雷の国ボルドガルドでは、独自の魔術を使った、魔導工業が盛んだと言われています。一応空の国…というか天使教会も存在しているんですけど、あそこはまたちょっと国、とはまた違いますし、私たちじゃ干渉できない領域なので…」
「まるで少年漫画みたいな世界だな…すごいね、ありがとう」
「はいっ!」
スフィリアちゃんの、向日葵にも似た明るくて暖かい笑顔に照らされて、俺は浄化されている気分になる。俺は、この世界でスフィリアちゃんに降り掛かる障壁をこの世界に居る限り粉骨砕身し、ディメクエ生涯で払い続けることを、心の中の神父に誓ったのだった。
「イフリシアでは、半獣族のソルシエールが居ますし、アクアリスではセイレーンというエルフ達が居ますし、ボルドガルドではドワーフ達が日夜魔導の研究に勤しんでるといわれています」
「ケモミミ!?!?エルフのお姉さん!?!?ドワーフ!?!?異世界サイコー!おにゃのこパラダイスやんけ!!テンション上がって来たァァァァァ!!」
俺は裂帛絶叫。指を高らかに天井に掲げ、その後力を溜め、金髪の異星人を倒しそうなポーズになる。
「ひいぃ…」
ビビるスフィリアちゃんを横目に、厳かな音を立ててダイニングの扉が開いた。
「お嬢様、今の奇声は一体…大丈夫でしょうか…?」
怪訝な顔をして戸から出てきたその女性は、エルフの様な長い耳を携えていた。長く伸びたロングヘアーに両端にアップしてまとめた短いツインテールが月の光に照らされ、その髪は薄い藍色のように見える。髪が揺れる時に反射する色は、銀色の光を内包していて、まるで夜に浮かぶ月を擬人化した女の子のようだった。
「あ、チフユ!」
そう声をかけたのはスフィリアちゃん。俺に向けられる好意とはまた違った方向性の好意を孕んだ柔らかな笑顔をチフユ、と呼ばれた女性に向けると、勢いよく手を振った。
「お嬢様、本日のお食事のお味の方はいかがでしょうか?本日はお嬢様の好物であるアクアリスのマナ魚もメニューに入れておきましたよ」
敬虔な装いで恭しく会釈をする彼女。藍色のミニスカートに純白のメイドエプロンを着用した彼女は、長くすらっと伸びた足にはニーハイソックスを履きガーターベルトで留められていて、頭にはメイドさんがよく付けているホワイトブリム。それに桜のモチーフの髪飾りを付けていた。俺はスフィリアちゃんとは違った高貴なる美しさ、仮にスフィリアちゃんを無垢な向日葵の様な汚れなき美少女と表現するのであれば、その女性は高貴な白百合を髪に結わいた夜の満月の様な美女だった。
「とっても美味しかった!また明日も食べたいくらいに!」
「お嬢様、毎日マナ魚を食べてはエーテル結石が出来てしまいますよ、美味しいのは分かりますがほどほどにしましょうね」
「う…わかった」
スフィリアちゃんはバツの悪そうな顔で苦虫を噛み潰す。しかし、このメイドさんがスフィリアちゃんの言っていた護衛だろうか?それにしてはあまりにも華奢な———
「あ、それと——————」
メイドさんが一言、破顔しながら続けて、瞬間、空気が鋭くなったのを感じた。まるで、夜の月が輝く広大無辺な砂漠に、狼に睨まれて一人取り残された獲物の様な気分がして、俺は空気感の正体を視認しようと首を回そうとする。が、すぐに柔らかな布に当てられてその動きが止められる。
「危なくなったときは、いつでも私を呼んでくださいね」
その声は俺の頭上から聞こえてきた。横目には日本刀の様な柄が見えて、俺は狼に睨まれた野兎の様に体を縮こまらせる。「うわっ!?」
反射的に出た俺の情けない声とは裏腹に、スフィリアちゃんは生まれたてのヒヨコのような温かい笑顔で、返した。
「大丈夫!冒険者さんいい人だから!」
「冒険者さん…?大犯罪人の間違いではないでしょうかお嬢様…?」
チフユと呼ばれた女性は、うるうるとスフィリアちゃんに懇願する。
「お、おい別に言うほどの犯罪犯してねーよ俺は!チュートリアルが欠陥だからこうなった訳で別に」
「もっかい投獄しますかぁ?♡」
ゆっくりと優しい声色で告げられたのとは裏腹に、日本刀の柄に添えられた綺麗な手に力が込められていて、また笑顔にも関わらずわなわなと震える口元が、俺をいつでも殺せるであろうことを示唆していた。
「はひぃすみません!!!!」
「分かればいいんですよ♡」
「それじゃお嬢様、ごゆっくりお食事をお楽しみください」
あまりにも怖いハートマークを俺、スフィリアちゃんに向けるチフユさん。それにスフィリアちゃんは一抹の恐怖心も抱かずに、
「はーい、ありがとう、チフユ!」
と、明朗快活に返事した。
俺はその後、なぜかあまり食事がうまく喉を通らなかった。スフィリアちゃんは怪訝そうな目をして、俺を見つめていた。食卓の夜には満月が見え、こちらを柔らかく照らすと共に、その荘厳な相貌が何故か先ほどの彼女に似ている気がして、気が休まらなかった。
この度は、私、すゞみずみすゞの小説を最後までご覧いただき誠にありがとうございます!
少しでも良かった、面白かったと思って頂きましたら、ブクマなどの応援を、どうかよろしくお願いいたします!
まだまだ粗削りではありますが、自分の作品がアニメになるという夢に向かって書いて行きたいと思います!
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私の励みになります!(笑)
宜しければ次のお話も、読んで行って下さいね♪(*^-^*)