第四話「ドジっ子姫君スフィリアと、獄中生活の聖太」
武器商人の店で窃盗を行った聖太は、果物を盗めたのだから武器も易々と盗れるだろう、と鷹をくくったが、筋骨隆々の店主により捕らえられ、王城へと連行されてしまう。
——————目を覚ますと、聖太は拘束されていた。絶体絶命の状況で、必死に罪の潔白を告白するが、現実での事情などゲーム内では無意味。無情にも投獄されてしまいそうになる所に、草原で聖太を助けてくれた王女、スフィリアが現れて———。
「いやマジでママ来ちゃった…そういうプレイか…?いや悪くはないな…」
「罪人は黙ってろ!!」
兵士に俺の劣情でどろどろの独白が一蹴される。
「あひぃ!!ずびばぜん!!」
「お父様、その人を放してあげて下さい」
美少女ちゃんは、毅然とした態度で父親に提案する。
「しかしな…スフィリアよ、そやつは罪を背負っておるのだぞ?罪人だぞ?いくらお前の頼みだとしても…」
父親はバツの悪そうな顔で、頭を掻きながら目を泳がせている。
「その人は冒険者なんです!!きっと、何か事情があっての行動に違いありません!!悪い人じゃないと、私は思います!!」
美少女ちゃん、かわえー…必死になって怒ってるところもたまんねー…つかいい匂いしてきた…。
「冒険者だろうがなんだろうが、罪を犯したのであれば罪人は罪人だ。この国に滞在している以上、危険因子は徹底的に排除する。それが私の信条であり、君主としての国防論だ。」
父親がド正論で一蹴すると、美少女ちゃんは困惑して眉を顰め、ゴクリ、と固唾をのみ、握りこぶしを胸の前に掲げ、強く握り直しこう言った。
「それではお父様、その人を開放して頂けた暁には、私が、エンドルシア第一王位継承者候補として、第28代国王選定試練で絶対に良い結果を残します!お父様の継いで来たこの国の国王と成るべく相応しい器になり、この国を当代の王として背負って生きていくことを、スフィリア・ワンド・エンドルシア第27代国王の娘としてここに誓います」
毅然とした態度で侃々諤々と捲し立てる美少女に王と呼ばれる人物はほう、と感嘆し、髭を撫でながらこう言った。
「お前が王国継承者としてのその名を名乗りそこまで言うのならば、考えてやらんことも無いが、具体的には何をする気でおる?」
美少女は意を決した覚悟の光を瞳に宿して、「他州の王位継承候補者達の中で一番強く、高い功績を示すために、
他の候補者を下した後に、ここからずっと北の山脈、ウカムバルド坑道の魔獣、邪獣ベリオリスの首を持ってきます」と言った。
その魔獣とやらがどのような位に値するのか分からないが、その名前を出すと、明らかに王と呼ばれる人物の目の色が変わったことに気づいた。
「ほう…ベリオリスの首を取って来ると申すか…それがお前の矜持の上の妄言だと私が考えるとは思わなかったのか?」
美少女は固唾を飲み込むと、小さく震えた拳を力で無理やり黙らせてから、「はい」と、小さくとも良く通る毅然とした獅子の様な声でそう言った。
「面白い。次期国王選定試練が終わるまでに、お前にやれるとは思わんが、そこまでの大言壮語を我がエリガルムの前で発言したこと、褒めて遣わす。」
美少女は、その発言を聞き、パッと表情を明るくした。
「それじゃあ…!」
王たる人物は、しかしその表情を一蹴するように固く、そして冷徹に言い放った。
「しかし、罪人は罪人だ。半日ほどは、我が王城の地下牢にて監視、管理させてもらう事とする。異論はないな?」
美少女は、俺を一瞥して、ちらりと俺と目を合わせるとまた、王たる人物に毅然と目を合わせ、「問題ありません」と言い放った。
「よろしい。連れていけ」
「はッ」
兵士は俺を立たせると、俺を地下牢へと連れて行く。
「あ、あの、スフィアちゃん!た、助けてくれてありがとう!このお礼はいつか…」
俺はそこまで言うと、発言を止めてしまっていた。
それは、兵士に連れられて行く合間にみたスフィアちゃんの悲しげで、憂う、不安感のある横顔が絹の様な金髪から垣間見えたからだ。
一人の人間を助けたことよりも、自分の置かれていた状況だったり現状に戸惑っていて、八方塞がりであると顔に書いてあるような、そんな表情を俺は見て、ふと感謝の言葉を止めてしまっていた。同時に、俺は、この女の子が抱えているその憂いをこの両手で払拭してやりたいと、凡骨無力ながらにそう、思ったのだった。
「ほへー、マジですげぇな完成度」
俺は、投獄された地下牢の隅々までもを注意深く観察して、今の状況を楽しんでいた。
「このテクスチャも質感も、重量感も空間感も空気感も、マジで自分が中世の牢獄に投獄されているような気分を味わえるぜ…なんだってこんなマップですらこんな作りこんであり現実感あるんだよ」
と、俺はゲーオタ感満載な一人レビューを、牢屋の壁に向かってずっと語り掛けていた。傍から見ればそれは投獄され気が狂ってしまったような精神病患者のようにも見えるが、俺は至って正常だ。
俺ほどのゲーオタにでもなるともはや病気の域なのだ。何なら病気と言われた方が心地がいい。ドМだからというわけではない。あ、スフィアちゃんに罵られるなら悪くはないかも…。
俺が廃人のようになっていると、兵士の動揺した声がこちらに聞こえてきた。
「…リア様!スフィリア様!危険ですから!」
「大丈夫です。貴方は他の罪人たちの様子を監視しておきなさい。私が偵察に来た、それだけのことです。それとも、次期国王選定試練、第一王位継承者候補である私がそんなに不出来であると?」
「いえ、そういうわけでは…ぜひ、お気をつけてくださいね」
「ありがとうございます。貴方たちの忠誠心には心根が温まります。感謝していますよ。」
「はッ…!スフィリア様へ、私の最高の敬意を」
そのやりとりが終わると、コツ、コツ、と高い足音がこちらへ近づいてくるのが聞こえた。その音だけで、どこか高貴なものが俺の元へ向かっているとすぐに理解出来た。
「大丈夫でしょうか?冒険者さん」
薄い金髪が揺れたと思うと、薄桃色の澄んだ瞳がぱちぱち、と動き、俺を見ている。その風貌は、俺を救ってくれたであろう美少女ちゃんの姿で間違いなかった。
「スフィアちゃん!!さっきは助けてくれてありがとう…」
「あの…さっきから思ったんですが…」
「スフィ「リ」アです。スフィアじゃないです。酷いです。名前くらい覚えて下さいね」
スフィリアちゃんは頬を膨らませてぷい、とそっぽを向いた。
「マジかごめん…スフィリアちゃん、改めてありがとう、どうして助けてくれたの?」
俺が聞くと、スフィリアちゃんは再度ぱちぱちと目を瞬きすると、数秒立ってから、
「うーん、なんだか、噓をつくような人には見えなかったので。あと、何かほっとけなかったっていうか…えへへ」
スフィリアちゃんは照れて、髪を触る。俺はその光景に胸が高鳴るのを感じた。仮にも仮想世界であっても一度窃盗をした自分がこんな高貴な美少女の御前に居て良いのだろうかという猜疑心が頭を蝕む。と同時に。
「(この子…ドジっ子王女様だ…)」
と、思うのであった。
俺が心の中で目の前の王女に対して良心の呵責とどこか抜けている女の子のギャップに脳内で右往左往していると、
「はぁ…」
というこれでもかというクソデカ溜息が目の前から聞こえてきた。俺はこの状況を知っている。
この機会を逃してはいけない。こういう時は、話を聞いて女の子の疑問を解決する力になればいいとインターネットで教わった。
俺はネットで教わった秘儀スキル、「どしたん?話聞こか?」を使うべきだと確信した。
「どうしたの?何か悩み事があるなら、僕が話を聞くよ」
俺はクリティカルヒットのSEを頭の中で流しながら、正にかいしんのいちげき、人生史上最大値のイケヴォでそう尋ねた。
スフィリアちゃんは両目をぎゅっと閉じ、頭を抱えて、「んー…」「うー…」と悩むと、こう答えた。
「北の坑道のベリオリスなんて、倒せないよぉ…どうしよ…」
「北の坑道のベリオリスって、スフィリアちゃんが倒すって言ってたやつ?」
スフィリアちゃんは片目だけを開けてこちらをちらりと見つめると、眉をㇵの字にして、
「そうです、わたしが倒すって言っちゃった氷晶の邪龍、ベリオリスです…」といった。
「そのベリオリス?って、どのくらい強いの?ダンジョンボスとか?そういう感じ?」
「ダンジョン…ってのは分からないですけど、我が国エンドルシア領地内の北方坑道にここ数か月前から住み着き始めた、魔獣です。黒魔術の恩恵を受けた蛇と獅子の合成獣で、それが住み着いてからその坑道は魔導石の採掘が不可能になってしまいました…」
魔獣。黒魔術。魔導石。現実世界では一度も口にしないであろうそのファンタジックな単語に心が躍る。
「わたし、スライムすらろくに倒せないのに…」
え…?今なんて?はい?
「え?スライム倒せないの?スフィリアちゃん?あんな動き遅いし初期の方のやっすい武器でもクリティカル入ったらツーパンとかできるのに?」
俺が煽り始めると、スフィリアちゃんはあたふたと手を動かし始め、必死に弁解を始めた。
「だ、だだって、すぐ飲まれて息できなくなっちゃうし、ぬめぬめで足引っかけて転んじゃうし、スライムさんなんかべとべとして気持ち悪いし…」
「うっそだろお前ェ!?誠でござるかァ!?!?」
俺はあまりにもひ弱なスフィリアちゃんの衝撃の事実に他の国のスラングを瞳孔をかっぴらいて裂帛してしまう。スフィリアちゃんは宇宙人と遭遇した時のように異形の怪物を見るような目で警戒した。
「ひっ!?!?ご、ごめんなさい!!!!!」
スフィリアちゃんは驚き、何度もぺこぺこと頭を赤べこ人形かのように上下にブンブンと振っている。
おいおい。武器なしで倒せなかった俺が言うのも何だけど、あれチュートリアルで出てくるクソ雑魚モンスターだぞ。
「ドジっ子姫様、そういえば王様?と国王選定試練?とかなんとか言ってたけど…えーと…大丈夫なの?」
俺は冷や汗を額に垂らしながら、恐る恐るドジっ子姫に聞いてみる。
ドジっ子姫は俺と同じような汗を頬に垂らしながら、目を右往左往させ、蚊の鳴くような声で小さく嘯いた。
「えーと………」
「それダメな奴じゃん!!!!!」
「ひぃー!!!」
スフィリアちゃんの悲鳴は牢獄に甲高く反響した。
「でもでも、次期国王選定試練が終わるまで、あと一月もありますし、近衛役にチフユも付いてくれますし、わ、私だって国王の娘なんですから魔術スキルの素養も十分すぎるほどあるんですよ!!」
「近衛役って?」
「メイドのチフユですっ」
この世界にはメイドが存在しているのか。こいつはいい情報を聞いた。あっとほーむなカフェに通い詰めていた俺にとっては、とんでもなく心の踊る様な魅力に満ち満ちた内容だったが、他の女の子の前でそれを出す失態はしない。俺はギャルゲーももちろん網羅しているからだ。相手にとって不足はない。
「魔術の素養って?その言い方だと魔法自体は十分に使えないの?」
「えと、使えるんですけどいつも暴発しちゃって、気づいたら倒れてて…で、でもでも!後一月もあればきっと使いこなしてみせます!あ、でも…」
「それ、何年ぐらいやってるの?」
「物心ついた時…からです…ぐすん」
スフィリアちゃんは答えながら段々と委縮していき、最後には演奏の終了したピアノの音が残響して小さくなっていくように声色も消えて行ってしまった。
「あはは…まぁ、ドンマイ(棒読み)」
俺はあまりにも希望の欠片が見られない現在のスフィリアちゃんの状況に辟易した。
「ドンマイってなんですか!!二年投獄されたいんですか!?この悪者!!」
「いや脅し方がエグいって!!!!!すみませんでしたスフィリア様!!!!!」
「まぁ…半日したらここから出られるみたいだし?そしたらほら、そのべリオリス?って魔獣さんをちゃっちゃと倒しに行こうぜ。俺も協力するからさ」
俺は破顔一笑して、自分の胸を親指でヒーローのようにビシっと指す。
「冒険者さんに迷惑をかけるわけにもいかないですし、大丈夫です。私は勝手にベリオリス倒しちゃいますので」
「雑魚スライム一匹倒せないのに?」
「ぴぐぅ…」
スフィリアちゃんは小動物が息絶えるときの様な酷く絶望的な喘ぎを上げると、突如泣きはらした目を反抗的に睨みつけた。
「そ、そういう貴方はどんなモンスターを倒せるんですか!?」
「うーんそうだな…」
俺は顎に手を添えて一考するフリをすると、
「前にこの世界の全てのモンスターを最速で倒したことのある、上位ランカーで百戦錬磨の両手剣士、だよ」
と、微笑し、現実世界での自分を明かした。
この度は、私、すゞみずみすゞの小説を最後までご覧いただき誠にありがとうございます!
少しでも良かった、面白かったと思って頂きましたら、ブクマなどの応援を、どうかよろしくお願いいたします!
まだまだ粗削りではありますが、自分の作品がアニメになるという夢に向かって書いて行きたいと思います!
コメントなども是非ともお待ちしております!(*^-^*)
私の励みになります!(笑)
宜しければ次のお話も、読んで行って下さいね♪(*^-^*)