第三話「貴方が、悪質なプレイヤーとして通報されました」
異世界、『ディメンションクエスト』にダイブしたが、最悪なチュートリアル、初期装備もスキルも無し、オマケにビタ一文も無し…右も左も分からない状況で、聖太は助けてくれた王女、スフィリアが住んでいるというエンドルシア王国へ向かう。武器が無く最弱のスライムにも負けてしまった聖太は、露店街にて窃盗行為を行う。空腹を何とか満たした聖太は、ゲーム内で自身を強化するために次の窃盗を行おうとしていた——————。
俺は、武器屋と思われる小屋の前にいた。
「クソ…こんなん、ぜってぇバレるじゃねえか…」
先ほど近くの商店街を見回っていたが、どうやら露店通りには食品や鉱石などの素材やアイテムなどがあって、装備品や武器などは露店に並んでいなかったのである。
そのため、俺は武器のマークの書いてある小屋の前に立っていた。
おそらく、露店には俺の様な盗賊などが来た時に対処出来るように、置いていて危険性の出来るだけ少ないものを並べているのだろう。
「行くか…」
俺は本当に気が進まないが、このままでは「はじまりのまち」の中で右往左往するビギナーのまま進行不可能になる為、今後のことも思って武器屋に足を、今、踏み入れた。
「…いらっしゃい」
不愛想な店主が、無骨さを思わせる双眸で、俺をギラリと睨んだ。
「はは…ど、どうも」
俺はあからさまな陰キャな対応で返す。店主はその双眼を俺からちらりとも離さず、値踏みしているようだった。
「お客さん…見ない格好だね…冒険者かい?」
「ま、まぁそんなところです…はは…」
俺は今から貴方の店の商品を盗みますよ~感がプンプンする怪しげな反応で、店主との会話に臨む。早く逃げたい。パッとやってパッと逃げるべ。
店主は、筋骨隆々の両腕を組みながら、パイプ煙草をときおり吹かしている。ゴツゴツとした手に巻いたガーゼからは、その店主が丹精込め鍛治した商品が並んであるのだと想像するには難くなかった。
店の裏には、熱気が感じられた。恐らく、工房と一体になっているのだろう。店主は、両手剣のような物を持ち、光にあて、双眼でそれをじろりと見定めている。
店内には、剣のような物、槍のような物、弓のような物、はたまたハンマーや杖、クナイやヌンチャクにモーニングスターなんてものまであった。
盗賊にはクナイが似合うだろうが、俺はもっぱらディメクエでは両手剣を使ってきた。会得するスキルやモーション、武器の攻撃のクールタイムなども熟知しているため、どうせ盗むなら両手剣がいい。
俺は意を決して、店主に蚊の鳴くような声で話しかけた。
「あ、あのこれ…試着してもいいですか?」
これでもかと言うほどの愛想笑いをその顔面に塗りたくった俺は、店主に最大限の配慮をしながら話しかけてみたのだった。
「その剣は冒険者にはちとつれえぞ。おとなしく片手剣かほら…このレイピアなんてどうだ?E級の風の魔導石付きだ。あんたにも軽々振り回せるほど軽いまさしく初心者用だぜ、がっはっは」
俺は、ゲームの腕を馬鹿にされて腹が立ち、言い返してやろうと思ったが、殺されると思い我に返った。が、さらにこれNPCじゃんと思い俺はまた態度を改めて、店主に指を突き付ける。
「うるせーよ中村きんにくん、俺は上位ランカーだ。心配ご無用だよ。」
「はぁ?筋肉?ランカー?あんた、何言ってんだ?」
「NPCが心配することじゃねえぜ、おっさん。全部この俺様に任せとけって。」
店主は苛立ちを見せながら疑念の眼差しで俺を再度見定める。
「そういやあんた、金は?マニースは、あんのか?」
俺の吹いたら飛んでいきそうな装備を見て、店主は顎を撫でて俺の眼をじとりとみる。
「そんなもん…」
俺はスタンディングスタートを取り、
「あるわけねぇだろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」
と、50m8秒の本気走りで、店の出入り口を目指して全力ダッシュした。
ふふ、決まったぜ…おっさん、お前の作った武器、この上位ランカーの俺様が悉く使い潰してやるぜ。この武器もおっさんの汗臭い武器庫よりも、この最強の俺の手の内で天寿を全うするべきと言ってるぜ!
「大体、あんなデカブツが足早いわけがねぇ。小学生の時足の速さなら上から五番目なんだ。コーナーで差をつけろ。残念だったな肉ダルマ。アディオス!!!!!」
俺は鼻でおっさんのことを小馬鹿にしながら、手と足を力の限り振る。ここから俺の、大盗賊時代が開幕だ——————!!!!!!
「逃げれると思うのか?」
おっさんは何故か、俺の前———つまり、店の出入り口の前のドアに仰々しい仏像の様な顔をして、
動かない石像の様に毅然と俺と対峙していた。えっ?おっさん思ったより早くね。移動速度アップのバフでもついてる?あ。ちょっと待って。
「ごめんなさー、これ返しま」
俺は人生でも一、二を争う速度でボクサーも顔負けのハイスピードスウェイ、つまり、謝罪を試みるが、おっさんはそれをニヤリと嘲笑すると、
「うぉら!!!!!!」
おっさんの放った蹴りが、俺の鳩尾を深く捉える。俺の腹は凹み、小腸は蠕動して、胃が圧迫される。
「ぐふッ…」
俺は今まで感じたことのない胃の圧迫感にクラっとして、目が白黒した。吐き気で頭がチカチカすると思うと、次の瞬間、聖太は意識の狭間へと解けて無くなっていった。
「起きろ。罪人」
聖太が次に目を覚ましたのは、その冷徹非情な声が耳朶に届いたからだった。
「ん…なんだ…?ここ…?」
目を開けると、そこには、中世ヨーロッパ、フランスの宮殿のような内装が厳正たる相貌を呈していた。
俺の視界が変に低い。俺はどうやら—————拘束、されているようだった。
「男よ。お前を、我が第27代エンドルシア王、エリガルム・ワンド・エンドルシアの名にて命ずる。被告を窃盗罪にて我がエンドルシア王城地下にて、二年の投獄を命じる。」
眼前には、長い髭を生やした白髪交じりの老骨が宝石や竜の彫刻の付いた仰々しい椅子に座していた。深緑色の双眸には鬱蒼と茂った森の奥底の様な深淵を何故か感じた。寿命により衰えていると見えるが、緑の毛皮のローブのような衣装の下からは隆々と盛り上がった筋肉の形跡が見え隠れする。その巨躯からは、その人物が歴戦の猛者であり、歳だけを漫然と取り過ごしただけではない、絶対に一筋縄では行かないであろう人物であるという雰囲気を感じざるを得なかった。
「は、投獄…?俺はプレイヤーだぞ!そのくらい考慮してくれよ!そもそもチュートリアルちゃんとしてないお前らが悪いんじゃね?アプデはよ!!」
俺は額に汗を搔きながらも、自分がプレイヤーだという絶対的メタアドバンテージで、運営に悲痛の訴えを投げかける。
「戯言を。狂言を吐く暇があるならば自分の罪を清算しなさい。連れていけ。」
王と呼ばれた人物は、俺の吐く言葉には目もくれないといった態度で、侮蔑の眼差しを俺の顔に向けて、そう吐き捨てた。
「ちょっ、ちょっと待ってくれよ!!俺は仕方なく…だって初期装備も手持ち金も皆無でスライムすら討伐不可!!万策ねえよ!!こんな状態でどうしろってんだよ!!」
王は、俺の顔から眼をふん、と退けると、諦めたようにふてぶてしく息を吐いて側近のような者と話しを始めていた。
「おい、行くぞ、罪人、立ってついて来い。」
兵士は鎖につながれた俺の首元をグイ、と引っ張ると、俺を無理やり立たせた。
「ちょ、おい、痛いって、何かの勘違いだっての!!だ、誰か、助けてくれ!!!誰かー!!!ママー!!マジでそんなとこに入れられたら死ぬって!!気持ちとか滅入るって色々!!てかなんでプレイヤーが捕まってんの!?そこまでリアルにしなくていいから!!」
そうして俺は赤子の叫びのように無力でどうしようもない放擲を投げかけた後、息を吸い、
「たすけてー--------!!!!!」
突如、玉座の反対側の扉が力強く開いた。
「お父様、その方を放してあげて下さい!!」
俺の憐憫たる叫びを、鶴の一声、鈴のような音で引き裂いたその主に、俺は覚えがあった。
長い金髪を結わいた髪の毛に、薄桃色の双眸。華奢な身体と陶器の様に白い肌。白百合のような高貴な衣装に身に纏ったそれは、いつか俺を気にかけてくれたいつかの美少女ちゃんだった。
この度は、私、すゞみずみすゞの小説を最後までご覧いただき誠にありがとうございます!
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まだまだ粗削りではありますが、自分の作品がアニメになるという夢に向かって書いて行きたいと思います!
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