第二話「上位ランカーの俺が、クソザコスライムに全く歯が立たない、だと…?」
聖太は、VRMMORPG、「ディメンションクエスト」にダイブしたが、ありえないチュートリアルで空からスカイダイビングし、草原に落ちた後、気を失っていた。
起きると、薄桃色の瞳をした王女、スフィリアちゃんがそこに立って居た。
彼女が住んでいるという国、「エンドルシア王国」に聖太は向かう。
そこで聖太がした驚くべき行動とは———。
聖太は、草原の真っただ中に、ぽつり、立っていた。
「しかし…てんやわんやだったけど…所詮ゲームだしな、あの空から落ちる演出には肝が冷えたし、
クレームと修正パッチが充てられるだろうけどな…」
ゲーム内にダイブ出来たので、色々とコンフィグを確認してみようと思ったのだが、どうにも思っていた操作と違った。
「コール:メニュー」
俺がそうコールすると、メッセージウィンドウが眼前に現れる仕様のはずだが…。
「…。」
空虚に響いた声は、何もその場に変化をもたらさなかった。
「おかしいな…またバグか…?」
そういえば、真人はどうしているだろう。ダイブしてから、クロノリアムの通話機能が作動していない。
俺はパーティーチャットを確認する。
「コール:パーティーチャット」
俺はまたもやコールするが、ウィンドウは現れない。
「なんだ、バグか…?クロノリアムは、ゲーム内外関わらず音声入力方式でコンソールの操作を行うはず。他ゲームでのログインログアウトに関する
欠陥的なバグは見つかっていないし、そもそもログインログアウト以前に通話機能はクロノリアム自体のツール。それが反応しないってことはクロノリアム
自体がフリーズや熱暴走を起こしているってことか…?でも、動作環境もプロパイダ回線も一線級の物を整えているはずだし、排熱環境も一級品の冷却機構を使っているしな…」
俺は疑問は拭うことが出来なかったが、まぁ何かのバグかシステムソフトウェアアップデートに絡んだだけだろう、と踏んだ。
「幸い、ディメクエは動いていることだし、ちょっくらゲーム機が治るまでこの世界を堪能させてもらいますかね…」
自分の姿を見る。 現実で俺が着ていた服と寸分たがわなかった。それが今でこそ二次元的に書き換えられているが、どうも夢のない仕様だ。そこまで
リアルを追及しなくてもよかっただろうに。
「持ち物はポケットに入っていた200円少しと携帯のみか…マジで右も左もわかんねぇな」
俺は頭を掻き、打開策を考えるが、これといってこの持ち物を使って何か大きな成果を得られるとは考えられなかった。
「とりあえず…だだっ広い草原で時間をつぶすのにも限界があるし、城下町にでも赴いてみますかね…」
聖太は、城の方に歩いていくのだった。
「おお…」
そこにつくと、俺は思わず感嘆の声を上げていた。
中世ヨーロッパ風の建造物が立ち並ぶ中、ファンタジー要素をふんだんに盛り込んだ衣装を身にまとう人々。
様々な肌の色から目の色、カラフルな髪の色から、果てはしっぽやネコミミが付いた種族まで。
「はえー…すげぇなぁ、この雰囲気から察するに、ここは王道ファンタジーな感じの町で、しかも他種族が入り混じる大きな町で、特に安寧が脅かされているわけでもなく
めっちゃ栄えてる首都みたいな感じかな…うほーたまんねぇ…ネコミミの女の子とお近づきになりたい…ケモナー最高だぜ…」
俺は舌なめずりをしたまま、周りを見渡し、中央の大きな通路を進む。すると、しばらくして露店が並ぶ商店街に入った。
「なるほど、ここが市場みたいな感じか…さすがに日本円では買えないだろうからゲーム内通貨を稼がなあかんな…」
露店には、様々なものが売っていた。果実のようなものや、洋服、果ては光る鉱石や、キラキラとぼんやり光る謎の液体の入った瓶。
明らかに現実世界とは一線を画したその風景に、俺は感動を禁じえなかった。
「確か、現実世界に戻るために、空腹や体調不良などはクロノリアムにダイブしている時も反映されるんだったよな…
ゲーム内で一時的に満たすことは出来るけど、栄養などは接種できないから本当にちょっとしたものでしかないと…」
まぁ、まだ我慢できるが、小腹が空いて来た辺りだった。
「後でお金を集めて何か試しに食べてみるか…」
以前のディメクエと同じ仕様であれば、まずは最初の拠点となる場所が必要だ。装備品やアイテムを収集するためにある程度の店や露天商がいる街。
それにそれらを買うための金策。大抵はその辺にいるモンスターを討伐することで手に入れる通貨やらなんやらで、購入ができるはずだ。
後は英気を養うためのHP、MP回復。以前のディメクエでは大体、町に少なくとも一つは宿が存在している為、大丈夫だとは思うが。
町の雰囲気を見ている限りでは、それら全てが存在しているように見えた。また、初期装備の俺でも悠々と生活できるような環境だし、統治された国家のようだから生命の危機もない。
そして最後には、あの美少女ちゃんが住んでいる町だということ。最強だ。カワイイは正義。やべ、興奮してきた…
聖太には、元来、所謂ガールフレンド、彼女と呼べるような存在がいない。それこそごっこ、なら幼少期にいくらか経験はあるが、聖太の思春期は残念ながら医者も首を横に振るほどのドドメ色の体裁を示していた。
「待ってろよ…美少女ちゃん…絶対会いに行ってやるからな…はっはっは!!!!」
腰に手を当て、高らかに劣情エキスマシマシの欲望を叫ぶ聖太に、周りの有象無象達は白い目で見るのだった。
「帰んな!お客さん!そんな偽マニースじゃうちの商品の一つも渡せないよ!ほら、帰った帰った!!一名様追放でーす!!」
初老のおじいさんは聖太を慣れた手つきで振り向かせ背中を押して店の外に突き出すと、そそくさと店内に帰って行ってしまった。
「おいクソ爺!一言余計だろ!!どんなAIしてんだよ!!クソ…」
俺は思いもよらない粗雑な対応に、憮然として小言を吐き捨ててやった。
「とりあえず…日本円の通貨はこの町では通用しなさそうだな…そういやマニースって言ってたな…ディメクエで使われてる通貨と同じだ。ここが前作と同じならば…」
俺はあたりを見渡し、客と露天商が取引をしている場面を注視した。客は銅で出来た500円玉くらいの通貨を、商人に渡していた。
「ビンゴ!!!」
俺はテストのヤマが的中したときのように、グッドサインを思い切り振った。やはり今作も仕様は変わらないようだ。
しかし…俺は天衣無法のビタイチモンなし。ここからどうやって金銭を稼いでいこうか…。
俺は次に、携帯や装備品(上着やインナーなど)を質屋に買い取って貰おうとしたが、せいぜい服一枚銅貨5枚…25マニースだというのだ。
携帯に関しては、良くわからない異国の異物を買い取ることなどは出来ないと突っぱねられてしまった。何なら粗大ごみを売却するにおいて20マニスを請求してくる輩も中にはいた。
この世界では銅貨一枚が5マニース、銀貨一枚が50マニース、金貨一枚が500マニースだそうだ。露天商が売っていたフルーツが一つ平均して15マニースだから、
俺は最低限の装備品を売却しても一食分くらいしかないことに気づいてしまった。
「はぁ…とりあえず今のままの俺じゃ一日も持たねぇな…どうにかしねぇと…」
俺は苦虫を嚙み潰した表情で頭を掻くと、思考を巡らせる。
「やっぱ…モンスターを倒してマニースを稼ぐしかないか。武器も何もないのに勝てる気がしないが…」
「職業も何もわかっていないのに、手ぶらでモンスターを倒せるとは思わない。チュートリアルで普通は武器や職業が与えられるはずだが…不具合か…?今んとこいきなり
スカイダイビングさせられただけだぞ。人が人なら失神レベルだろ…」
流石にディメクエ上位ランカーの俺でも、武器が全くない状態で、さらにVRでの戦闘など慣れたもんじゃない。勝てるか…?
俺は額に汗をかきながら、半ば諦めながらも、城下町の外へとぼとぼと歩いていくのだった。
「クソ…不味い…!」
俺のHPは、半分を下回っていた。
「スライムごときに、この俺が…ッ!」
聖太は、エンドルシア王国城下町の外の草原(先ほど聖太が居た草原)で、モンスターを狩ってマニース稼ぎをしていた。
俺は近くの手ごろな木の枝や石ころをスライムに投げつけ、HPを削る努力をしたが、スライムはびくともせず、俺に我が物顔でのしかかるだけだった。
もちろん初期リスポーンの俺には大層なスキルなどもなく、考えうるスキルのいくつかを詠唱してみたが、
「アリア:ボルド!!!」
「…。」
俺の詠唱はただの独白に過ぎず、その姿は傍から見たら中学二年生がノートの端に秘匿して書き連ねた魔法の様なものに見えただろう。
「はぁ…はぁ…クソ…」
上位ランカーも、武器なしVRの世界じゃ、赤子の様だ。俺は俺が情けなくなった。
「難易度設定ミスってんだろ…死にゲーかよ…つか、無理ゲーだろこれもう…はよアプデ入れろや…」
聖太は踵を返し、スライムの嘲笑を背に受けながら、エンドルシアの城下町へと敗戦の兵士のように片膝を抑えながら帰っていくのだった。
「クソ…収穫ゼロだ…武器もスキルも無かったら、あんなにスライムって強いのかよ…」
普段の運動不足がたたり、息が上がってなかなか落ち着かない。
俺はマラソンを走った後のように、裏路地の階段へと足を投げ出して息を整える。
「マジで…このままだと腹も満たせねぇし宿も泊まれねぇから減ったHPゲージも回復できねぇ…適当な武器をどっかでくすねるしか…」
俺は疲労と徒労から、もう武器を手に入れる方法になりふり構わずにいた。
「どうせゲームの中だしな…現実じゃ何にも足がつかねえし…腹減ったし…」
「コール:メニュー…」
俺は半ば諦めながらそうそっぽを向いてコールするが、もちろん、状況は変わらない。
現実に帰れるわけでもなければ、この世界で飢えや暇を潰すための資金すら0だ。
かといってモンスターを狩ることすら碌にできないし、ディメクエの最低ティアの下等スライム一匹ですら倒すことが出来ない。
絶望的な状況だ。俺は、ここにきて初めてこの世界に自分が孤独に取り残されていることを強く、そしてひどく実感した。
「早く修正してくれよ…運営さん…」
俺は辟易しながら運営が居るわけでもない空に向かい呟くが、勿論答えは虚空、それのみだった。
「まぁどうせ、そのうちアプデが来るまでのお遊びだ。NPCにどこまでの行動ができるのか試してみる価値はあるだろうからな。」
俺は自分の考えていることに霜柱の上に乗っている様なうすら寒い恐怖を感じながらも、内心、ワクドキしていた。
聖太は、指の骨をポキポキと鳴らしながら裏路地の薄闇の向こうへと溶けていった。
「そーっと…そーっと…」
俺は、裏路地の人一人がギリギリ通れる道…と言っていいのだろうか、隙間に挟まっていた。
俺が隙間から手を伸ばしたその先には、露天商のカウンターの内側。フルーツのようなものが並べられているその青果店の物の中から、リンゴのような、無花果のような赤色の果実に手を伸ばす。
「安いよー!ウチのフルーツは産地直送!その日の朝に仕入れてるから新鮮だよー!買った買った!」
エプロンを付けたパーマのおばさん店主が路地の真ん中に向かって客引きをしている。
「よし…今だ…!」
俺は店主がカウンターの中に気を立てていないその間に、赤色の果実を掴み、バレないよう、音を立てず、かつ迅速に、盗みを行った。
「やったぜ…!」
俺は隙間の中で小さくガッツポーズをすると、そそくさと隙間から抜け、路地裏へとかけていった。
俺は先ほど休憩していた階段に座っていた。
「やっと食い物にありつけるぜ…」
俺はもう相当腹が減っていたため、目の前の瑞々しい果実に目を奪われて、アミラーゼがそれはもう下品にドバドバと分泌していた。
「うまそ…ごくり」
俺は、口を大きく開け、咀嚼。赤い果実を食むと、口の中にはシャリシャリとした食感が広がった。
「うまぁ…なんこれ…」
鼻腔には芳醇な蜜の香り。現実でのリンゴに似たような匂いに、パッションフルーツだとか、マンゴーにも似たトロピカルな香りがブレンドされていて、何ともいいオヤツだと感じた。
「しかし…本当に現実みたいにもの盗んだりできるんだな…すげぇや、ディメクエVR」
俺はゲームの世界だからと高をくくって、特に良心の呵責もないまま盗んだリンゴ(?)を咀嚼しながらゲームの出来栄えに舌鼓していた。
「システム上不可能になるものかと思っていたけれど、こんなのほぼもう一つのリアルみたいなもんじゃねぇか…今の俺には盗みしかできねぇけど…」
しかし、このままでは焼け石に水だ。盗む、と言っても今回は幸運が成功を導いただけで、次も同じことをしてバレないとも限らない。
また現実世界での警察のような存在がいる可能性も考えられる。城下町ということは騎士や衛兵が町を巡回している可能性も捨てきれないし、普通に店主にボコボコにされる可能性もある。
「武器さえあれば…」
俺は食べ終わったリンゴをごくん、と嚥下すると、空腹の満たされた腹を撫でながら次の計画を立てていた。
この度は、私、すゞみずみすゞの小説を最後までご覧いただき誠にありがとうございます!
少しでも良かった、面白かったと思って頂きましたら、ブクマなどの応援を、どうかよろしくお願いいたします!
まだまだ粗削りではありますが、自分の作品がアニメになるという夢に向かって書いて行きたいと思います!
コメントなども是非ともお待ちしております!(*^-^*)
私の励みになります!(笑)
宜しければ次のお話も、読んで行って下さいね♪(*^-^*)