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第一話「異世界ゲームプログラムの世界にダイブしたら、初見殺しだった件について」

初めまして!すゞみずみすゞと申します。この度はアクセスありがとうございます!

今作が処女作になります!今作は、アニメ化を軸に書き上げた、次世代の異世界転移モノ×仮想世界となります。魅力的なヒロイン達と、聖太の現実と交錯する異世界での冒険を、それでは——————、お楽しみください!

『回復はまだか!?ヒーラー!?』

けたたましい声で、衛生兵を呼ぶ声が洞窟に響いた。

ヒーラーと呼ばれたその女性は、喉が切り裂けそうな高さで、必死に訴えている。

『ずっとやってる!!でも、私のヒーリングスキルじゃ、このボスモンスターの攻撃スキルのダメージに間に合わない!!』

HPゲージは、増えたり減ったりと、増減を繰り返しているが、その回復後の最大値はどんどん減少していく。

『クソ、このままだとじり貧だ、どうしたら…!』

恐らくこのダンジョンのボスであろう、所謂ゴブリンと一般的に呼称されているであろう風貌をしたそれは、圧倒的な大きさの剣のようなものを破滅的な力強さと、

人の何倍もある仰々しい筋骨隆々な体躯を用いて、プレイヤーたちを圧倒していた。

『ダメだ、強すぎる!!前線が決壊しそうだ…!どうにかこのダンジョンを突破しなければ、俺たちはまたこのダンジョンをまた最初から繰り返すことになるのかッ…!』

プレイヤーたちのHPゲージは、みるみる最大値が減少していき、もう半分を下回っていた。

鳴り響く剣戟の中に、またもやガラスを引っ搔いたような声が響いた。

『魔力がもうない!!ごめんなさい、このままだと…クッ…!』

『キャッ…!!』

ゴブリンは大きく武器を一閃。ヒーラーは吹っ飛ばされ、ヒーラーの体は壁に追突して、その追加ダメージもあってか彼女のHPゲージは赤く点滅している。

『クソっ…ヒーラー!!!!!』

『このままじゃ…ッ…!!!!』

けたたましい声の持ち主は、ゴブリンの猛攻を何とか受け止めているが、もうHPゲージは三分の一を下回っていた。

そこに、暗闇の中から人影が現れる。

「ん…?他プレイヤーか…なるほど、雑魚どもがいつもよりスポーンしていなかったのはバグかと思ったが、こいつら達が先に来ていたからか」

剣戟の音に搔き消されて、パーティとゴブリンはその「人影」が居ることには気づいていない。

「ごめんけど、急いでるんだ、悪いな、ルーキーさんたちよ」

「ちょっと失礼しますよ…っと」

瞬間、パーティとゴブリンの横を閃光、が通ったように見えた。

光一閃、それが見えたのも束の間、風を分断する大きな剣戟音が聞こえ、ゴブリンとパーティがその存在に気づいたそのころには、彼らの奥深く、ダンジョンの次の階層への扉の前に人影は移動していた。

光一閃は、その人影の左手に持つ剣の先端に集約されていった。それが収縮した後には、ゴブリンは胴体から真っ二つ。HPゲージが一瞬で0になり、ゴブリンの消滅エフェクトが発現し、次の階層への扉が開いた。

「な、誰だッ…!?」

パーティの面々は突如現れたそのプレイヤーに、動揺を隠しきれない。

「誰って————————————」

()()()()()()()()()()()()()、ですけど」

青年は憮然とした表情でそう嘯くと、剣を鞘にしまい、扉の向こうへスタスタと歩いて行ってしまった。


————————————いつか、あの諸悪の根源を壊すまで。俺は何度でも立ち上がり、××を倒すために。その罪の清算を行うために、俺は奴を絶対に許さない。


ピピー!ピピー!


突如、けたたましい警告音が俺の耳朶を叩く。聞きなれたその煩い音に俺は辟易しながら、スマホを探す。

普段から不摂生な生活を送っている所為か、なかなかゴミに紛れて、音の発生源にたどり着かない。

何とかゴミ山の中から探し当てたスマホのスヌーズ機能をオフにする。

俺は半ば夢ごこちなふやけた脳の中、ゆっくりと緩慢な動きで時刻を確認する。

「ああ————————夢か…」

俺はそう頭の中で思うと、もう一度深い眠りに落ちていった。

ふと、スマホのヴァイブレーションが鳴る。大学の友人からのメッセージだった。

『お前、今日リモートじゃなくてオフライン授業だぞ?わかってんのか?またゲームばっかやって、単位落としても知らねーぞ』

オフライン…?最悪な言葉が見えたような気がして、俺は眠い目を擦り、何かの間違いであることを期待して再度、確認する。しかし、俺の目は非情にも正常に機能していたようで、その非情な表示は変わらないままだった。

オフライン…?ということは、外に出ないといけない。外になんて月一ペースでしか出ていない。最悪だ。人の目が怖い。外に出たくない。このまま惰眠を貪り、寝腐っていたい。それで俺はいい。今世に意味などない。一生ゲームだけしていたい。

俺、松原聖太松原聖太(まつばらせいた)は数年前から、所謂引きこもりだ。小学生の時から俺は物静かな子供で、中高と部活はもちろん帰宅部。彼女なんていたこともなければ、基本的にインドア。外に出ることを嫌い、体育の授業では常に最下位。休み時間は教室の隅で読書をしていたし、

家に帰ってからは親に言われるがまま勉強に明け暮れていた。その所為か、クラスでは座学の成績はトップだった。しかし、人生に楽しみがなかった。そんな時、親から買い与えてもらったゲームに陶酔し、俺はそのうち勉強よりもゲームに陶酔するようになって行った。

昨日も、部屋に引きこもり朝方までゲームをしていたせいか、こんな時間まで眠ってしまっていた。高校から俺はゲーム一辺倒の生活を送るようになり、そのうち勉強をすることをしなくなった。そのため、今の大学は、所謂Fランと呼ばれる偏差値の低い大学で、興味のあった心理学を学んでいる。他の学部よりも楽しそうだったし、何よりギャルゲーのヒロインを攻略することに一役買うと思ったからだ。俺の取捨選択にはその時の快楽が大きく関わるのだ。

今が楽しければ何でもいいのだ。先のことなんてわからない。現実のことなんて考えていたくない。ゲームはこのつまらない現実世界から俺を連れ出してくれるし、何より嫌なことを忘れられる。俺はこのゲームの世界が現実よりも、何よりも、好きだ。

そのため俺は、ゲームに明け暮れ、この大学を卒業するか危ういところまで来ていた。正直、卒業してもしなくても俺はゲームしかしないだろうし、仕事なんてしたくない。このまま親のスネを味が無くなるまでしゃぶり倒し尽くし、ゆっくりと天寿を全うするのだ。

神様はきっとこんな俺に激おこだろうが。俺はもっぱら、頭を動かすのは得意だが、体を動かすのが苦手だ。ていうかそもそも朝に置きたくない。無理だ。

つーか、7時おきってなんだよ。無理に決まってんじゃねぇか。こんな社会俺には無理だ。

しかし、卒業はさすがにしておかないといけない。こんな俺でも、何とか体裁を保つために、授業には最低限出ている。休講可能なぎりぎりまでは、その授業を休むし、やらなくてもいい復習課題はやらない。単位を取れるギリギリの成績でパス。俺の勉学へのモチベーションは今日日、その程度へと下落していた。まあ、仕方ない。だってゲーム楽しいもん。無理。そもそも、Fラン大学を好成績で卒業したところで…

ブー、ブー、と、引きこもりの独白をしていると、ふとまたヴァイブレーションが鳴った。

『お前もう単位取れるギリギリまで休んでるぞこの授業、終わったな』

その表示を認識するまでに、俺は数秒かかって理解をした。頭からバケツの水を被ったような冷たさを感じ、俺の血管は酷く縮こまった。まずいまずいまずい!と俺は一気に滝のような汗をかき始めた。流石にこんな俺でも、せっかく学校に通っているのに単位を簡単に落とすことはしない。

幸い、友人からのメッセージで二度寝することなく自分の置かれている状況を理解できた。こいつは神だ。いつか褒美をやろう。

なんてふざけている時間などない。俺は急いで身支度をし、リュックの肩紐を片方だけ掛け、スニーカーの踵を踏みつぶしながら、脱兎の如く家から飛び出した。

駅に向かう途中に、昨日やっていたゲームの電源をつけたままだったこと、クエストが途中だったこと、家に帰ったらあとモンスターを4匹ほど狩らなくてはいけないな、とまたもやゲームのことを考えながら、俺は自分の足に速度アップのバフをかけて大学へと

向かったのだった。

「————ああ、ゲームが現実世界だったらなぁ…」

青年はそう、闇魔法の詠唱を唱えると、マップを移動していったのだった。




大学の教室のドアを突き破り、息を切らしながら空いている席にリュックを投げ捨てる。

「はぁ…はぁ…あぶねえ…」

俺の切れた息の音に、近くの人たちは驚愕しながらも、くすくすと笑い俺を嘲笑しているようだった。俺は恥ずかしながらも席に着き、ハンカチで汗を拭った。時刻は授業開始の1分前。何とか間に合ったようだ。全授業リモートにしてくれない大学を恨みながら、俺が息を整えていると、「よぉ、聖太!」と、突如、声が聞こえた。

俺は隣の席にちらり、と目をやった。

「あぁ、お前隣なのか…今日、連絡くれてありがとうな、真人」

「お前はもう卒業する気ないのかと思ってたぜ、これてよかったな」

そういって俺を憐れみの目で見て、ケラケラと笑うこいつは、メッセージをくれた友人の、在原真人(ありはらまひと)だ。脱色した髪を赤色に染めた、ゲーオタ。見た目は不良っぽく派手だが、俺はこいつと高校時代に同じゲームの話で意気投合し、以降数少ない俺の友達になっている。

その話はまたいずれすることとしよう。

教壇に教授が登壇し、授業が始まろうとしていたその時、真人がひそひそと小声をかけてきた。

「お前、今日、アナザーディメンションクエストの発売日だからな、この授業が終わったら外に飯食いに行くついでにゲーム屋行くぞ、準備しとけよ」

真人はそう言うと教壇に向き直り、教授の話をしれっと聞き始めた。

真人が言ったアナザーディメンションクエストとは、俺が中学三年生の時に発売して、その後何年も人気を博しているゲームタイトルだ。当時誰も成し遂げられなかったオープンワールド型のRPGを初めて実装したゲームであり、俺と真人はこのゲームに取りつかれて数年、何年も繰り返し、新タイトルのナンバリング作品が出るたびに最速プレイしては、何週もやり直してプレイするほどのファンだ。略してディメクエと呼ばれるこのナンバリングタイトルの最新作に、仮想現実のようなリアリティを再現するコンソールにて、VRMMORPGとしてオンライン要素が追加されたタイトルが、全世界同時発売で、本日発売するのだ。

俺達はこのゲームをプレイするために、次世代型VRダイブハードウェア「クロノリアム」を購入済みだ。クロノリアムは、正確には「全身独立電気信号駆動型ヴァーチャルリアリティー・メタバース・コンソール」とされていて、

簡単に言うとクロノリアムはVRの中でも自身が現実にいるかのように体験できる次世代ヴァーチャルコンソールで、その没入感たるは、視覚、聴覚、触覚と現実と寸分違わない描画がされていて、

ゲーム業界に新たな旋風を巻き起こし、全世界での新たな娯楽、いや現実と乖離した別世界として先月、発売されたばかりだ。ディメクエが発売する今日までにも、まるで現実と見間違うほどのリアルなレーシングゲームや、自身がまるで戦場にいるかのようなFPSが発売され、その人気は爆発的に広がり、全世界のゲーマーたちが何かに取りつかれたように日夜、プレイに勤しんでいるのは、今では世界の共通認識だ。俺たちはこの日を待ち望んでいた。教授の授業が始まったが、俺はその話が全く入ってこなかった。

それよりも、俺がこんなに取りつかれているゲームの、さらに一番といって良いほどに好きなゲームの新タイトル、さらにVRでオンラインともなると、俺は涙が出そうで、今こうして考えているだけでも幸福が頭の上から降りかかってくるみたいだ。

俺は教授に見えないように机の下でガッツポーズをした。それを隣で見ていた真人はまたケラケラと小声で笑うのだった。




「来たぞ!!!!!!VRディメクエ!!!!!」

真人のけたたましい大声が、秋葉原のファミレスの店内に響き渡った。

「お前うるさすぎだって…もうちょいボリューム抑えろよ…」

「無理無理無理!!!!俺は勇者様だからな!!!もう抑えらんねえ!!!今すぐにでもこの手でスライムをぶっ潰してやりてぇぜ!!!!!」

ブンブンと剣を振るモーションをしながら、真人は快活に大きく笑った。

まぁ、興奮するのも無理はない。今までもVR系コンソールとして、視覚を共有するものだとか、触覚を再現するものなどは開発されてきたが、視覚、聴覚、触覚をここまで再現できるコンソールは生まれてこなかった。しかし、「クロノリアム」のその再現度はまさに現実そのもので、もはや現実とゲームが癒着したような、夢のようなツールだからだ。何だったか…一種の幻覚やらを電気信号を使って脳や筋肉に作用させているだとか…安全性には何重もの開発テストをし、デバッグを行っているため、危険性は全くないことが、有識者や専門家の監修によって、またゲーム会社の商品開発発表会にて、発表され、既に全世界で稼働中という事実。夢のある世界になったもんだ。

しかしそれの、ディメクエ版が発売したとなったら、この興奮も無理はない。俺だって一早く家に帰り、スライムを狩りたい。残念だったな真人。真の勇者は俺だよ。お前のランクは俺より下だ。

「おい!早く開けようぜ!聖太!」

真人が嬉々とした少年のような高い声で、俺に囃し立ててきた。

「そうだな…開こう!」

俺たちはファミレスの机の上に、ゲーム屋で購入したディメクエのパッケージを並べ、ソフトを取り出した。

「これが新世界への入り口か…ワクワクどころかドキドキどころかブルブルしてきたぜ…」

「どれだよ…」

「本当にこの時を待ち望んでたよな…俺たちのディメクエがこんな立派な姿になって帰ってくるなんてよぉ…」

「お前はディメクエのなんなんだよ…1プレイヤーだろ…」

「いや、俺は勇者様だ!新世界の勇者様だ!俺が唯一無二の勇者様だぜ!」

真人は指を振り、俺の眼前に押し付けながら高らかにそういった。確かに真人はディメクエを俺と同じくらいやりこんでいて、日本の中でもトップにディメクエを知り尽くしている人間だ。自信過剰になるのも無理はない。まぁ、俺は世界で一位の自信があるけどな。ディメクエは俺の人生だ。誰にも負けやしない。

「早く帰ってやろうぜ!!!あ、お姉さんこの特大フルーツパフェ一つ下さい!!!」

真人はいつもより十倍は明るく大きい声で、店員に頼んだ。

「帰ってすぐでいいんだよな、真人とフレンド登録はしてるから、パーティーを立ててログインしたらいいんだろ?」

「そうだな!マジで楽しみだぜ…帰ったら連絡するからな!スマホ見とけよ?」

「もちろん!見逃さないよ!」

俺たちはドリンクバーで汲んできたメロンソーダをそれぞれに持ち、軽く乾杯をして、今日の新世界へのダイブに心躍らせ、食事を行った。




「準備はいいか?」

俺は大学が終わり家に帰ると、真人と通話を繋ぎ、クロノリアムを起動していた。

通話越し、クロノリアムの聴覚デバイスから聞こえてくる真人の声は、現実の声色と寸分違わぬ精度だ。まるで隣に真人が居るかのようなその正確無比さに、これからの体験に心が躍った。

「ああ、大丈夫だ!後はもうゲームを起動して、ゲームに自分の情報や言語情報をソフトに記憶させたらいけるぞ」

「よし、行くぞ聖太…ディメクエの世界で会おう!」

「ああ!」

俺たちは通話越しにクロノリアムのカセットトリガーに、ディメクエのSDカード型カセットを読み込ませると、二人でこう叫んだ。

「「ダイブスタート!」」

瞬間、視界が現実世界から反転、ホワイトアウトした。見渡しても自分の周りには何もなく、無機質な白が永遠と広がっているだけだ。

「あれ、真人はどこだ…?まだゲームを起動してないから、後で会えるのか?」

数秒立つと、眼前の空間にクロノリアム-Chronoriam-の文字が現れた。突如として現れたその文字がフェードアウトすると、目の前に身体情報を読み込ませる設定ウィンドウが浮かんだ。

『身体情報を読み込んでください』

「おお…」

機械アナウンスの声が、目の前のウィンドウから聞こえてくる。俺はその空間描画精度と全方向対応音声サラウンド技術に感嘆しながら、身体情報を記録していった。

「身長に体重…血液型に足の大きさ…?こんなものまで記録するのか」

俺はアナウンスの声に従って、自分の健康状態や身体的特徴のすべてをクロノリアムに読み込んでいった。

それも無理はない。クロノリアムは全身ヴァーチャルリアリティダイブを実現するために、四肢にハーネスを装着し、頭には顔一面をぐるりと回るアクリルゴーグルのようなものをつけ、全身にコンソールを装着する必要があるのだ。

一昔前に流行った、モーションキャプチャー、という技術に似ているらしい。詳しくは知らないが、そのキャプチャした情報をメタサーバーに転送し、五感情報をその人の体形や体重に合った数値にし、またクロノリアムに転送して、その数値を基に電気信号で脳内や筋肉組織に伝えることで、五感のリアルな再現と、現実感を創造しているらしい。俺はプレイヤー側だから、開発に至るまでどのような努力と挫折があったのかは想像できないが、新時代の最先端技術なのはわかる。こんなもの、2200年にもならないと作れないだろうからな。

『ソフトを起動してください』

「お、ようやく準備が整ったか…」

白く無機質な電脳空間の中には、ふよふよと自身が選択できるソフトや設定やネットショッピングなど、各種サービスが浮かんでいる。俺はその中からディメンションクエストの画面を選ぶ。

「よし、これだ…」

「ディメンションクエストVR」と自身の体より大きい額縁のようなゲームタイトルの表示に、俺は息をのむ。クロノリアムでは、ゲーム内のソフトを起動するときにはその等身大以上ものアイコンをドアのように潜り抜ける形で起動するのだ。

「よし、いくぞ…」

俺は意を決して、新世界への入り口に足をかけ————————。

「痛っ!?」

通り抜けようとしたのもつかの間、俺はディメクエに阻まれ頭をぶつけてその場に尻もちをついた。

「な、なんでだ…?」

ぶつけた頭を労わっていると、ディメクエのアイコンの上にアップデート中の文字が現れていた。

「なんだ、もうアップデートファイルが更新されたのか…?早くないか…?」

発売当初には、すでにファイルが最新版になってクランクアップされるはずだ。そうにもかかわらず、すぐにアップデートファイルが更新されているとは先行きが不安だが、今までのディメクエでのゲーム経験から俺は開発先を信用してやまなかった。

「Ver.1.0if「demiulgoss」…?シーズンごとに変わる内容なのか…?」

俺はその文字列に今回のディメクエのプレイ内容に関係のない文字が羅列されているのを疑問に思ったが、システム群のそれら一切の難しいことは分からないため、無視してアップデートが終わるのを待った。

しばらくすると、ディメクエのタイトルのフォントの色が、紫色に変化して、下のサブタイトルに-demiulgoss-の文字が小さく書いてあることに気づいた。

「なんだ、これ…まぁ、いいか!早くスライムと出会いたいぜ…」

軽微な違和感など、今の俺の冒険への一歩を止める足枷にはならなかった。それよりも、ディメクエの世界をリアルに堪能できる嬉しさが上回り、俺はアップデート中の文字が消えているのを確認してランニングするときのスタートモーションを取った。

「今度こそ行くぜ…異世界に!」

「ダイブスタート!」

そう俺は裂帛一声すると、思い切りドアを突き破った————————。





hello new world! if demiulgoss another demention!! loading...


その文字が黒い空間の中、眼前にふと現れたかと思うと、その文字がモザイク状に解像度を下げてにじんでいき、やがて飛散してガラスのように散った。


「…?なんだ…?」


怪しい演出に違和感を覚えつつも、俺はその場で待機していた。すると、突然自分を取り囲んでいた空間が、割れる。

「うわっ!?」

バリバリバリとガラスが割れたときの音が、轟音で鳴り響く。自分を取り囲んでいた一面黒かった空間が割れ、突如視界には雲の上のような景色が映った。空の彼方には現実のような太陽が鎮座しており、その日光の燦然たるパワーは現実の太陽と見分けがつかない程だった。

「すごい演出だな…ここがディメクエの中なのか…?空の上みたいなところに立っているけど…」

俺はあたりを見回すが、周りには空しかない。誰もプレイヤーは居ず、自分だけが広大で壮大な天空に取り残されている。これがチュートリアルなのか?俺は今までのディメクエにはない演出に息をのむ。

突然、人の声が俺の脳内に響いた。

『この世界を、ボクの願った平穏な世界に戻せるように、ボクの最後の力を使ってキミに託します。どうか、君の力が、この世界を大きく変える力を持っていることを、切に願います。』

NPCには話しかければ、返答が帰ってきたり、高性能なAIがディープラーニングにより会話を学習するため、それぞれに合った会話パターンの記憶を行うと書いてあった。この声も、俺が話したら返答してくれるだろうか。俺はそう思って話しかけてみた。

「ねえ、えーと、キミ?これはチュートリアルなの?力っていうのは…」

『ごめんね、君をこんな世界に巻き込んでしまって。ボクの力は抑制されて、もうこのくらいしかこの世界を変える方法はないんだ。自分勝手だけど、キミのことを信じて全てを託すよ。どうかキミが、()()()()()()()()()()()()()()()()()。』

「すごいな…」

俺は頭の中に響く声とその技術に感嘆し、目を見開いて感心した。

『それじゃ、運命が君を、導き、守ってくれますように。いくよ?』

「え?」

突如、嫌な浮遊感。

俺のさっき立っていた足場はなくなり、現実のように、重力があって空には浮かべないように、自分の体が残忍にも下に落ちていくのを感じた。

「ええーーーーーー!?!?!?!?」

さっきまで見下ろしていた雲にぶつかり、視界が真っ白になる。バサバサバサと髪や服の中を烈風が吹き抜けていき、目の水分を保つために俺は目を細める。

「ちょ…マジで言ってんのかよ…」

長い間、空から落下するまるでスカイダイビングのような体験と、このまま落ちて行って大丈夫なのかという恐怖心とが混在して、俺の心は宙ぶらりんだった。冷や汗をかきしばらくすると、視界が開けた。

「おお…」

視界には、異世界が広がっていた。現代日本では見たことのない中世ヨーロッパのような建造物、広大な草原に大きな城のようなもの、空を悠然と遊泳するドラゴンにマグマが溢れた活火山、迸る稲妻の魔法かなにかに支配された町のようなもの、空に浮かぶ

空中都市のようなもの、また魔法で出来ているような、空中に浮かんでいる結晶のようなものなど、現実世界ではありえない、絶対に体験することが出来ないようなとても不思議で幻想的な風景の前に、俺は落下している不安さよりも驚嘆が勝利した。

「すげぇ…!」

「でもこれ…いつまで落ちればいいんだ…?まさかこのまま地面になにも止めるものなく落下とかないだろうな…」

落下は止まらない。何もない草原が、近づいてきている。

「え…?いや流石にチュートリアルでそんな不親切に空から突き落とされて地面にドーンなんてこと…」

大きな城が、ちょうど俺の視界の高さと同じくらいになった。

「は!?!?!?ちょっと待って!?!?なに!?どしたらいいんこれ!?!?!?時よ止まれ!!ポーズ!!クロノス!!開けゴマ!!あ、これは違うな…他なんかあったっけ…!?何だよこれ!?」

そうしている間にも、落下スピードは加速度的に上がっていき、眼前には草原の緑が広がっていて、それが芝生である、と分かるくらいには地面と距離が近くなっていた。

————————あ、ダメだ、これ。

そう思ったのも束の間、俺の体は地面にそのまま体全体で着地すると同時に、あっけなく衝撃に耐えきれなく飛散した。

俺の最後の視界は、草原に生えた草についた水滴がリアルに表現された現実と相違ないほどのグラフィック、だった。







暗転。

果てしないほどの闇。

「(クソ…しょっぱなからなんて演出だよ…こんなんトラウマモンだっつーの…これがチュートリアルって今までの開発者から変わったんか…?)」

ふと、声が聞こえる。

「あの…」

「(つーか、もうゲームオーバーなんか…?こんなん回避不可イベだろ…新タイトルクソゲーか…?)」

「あの…!」

「(なんだ…?リスポーンするときのイベントか?これ。ヒロインの声か何かか…?いいな…かわいい…)」

「起きてください!大丈夫ですか??」

俺はそのヒロインまっしぐらな優しい鈴の音にも似た、朝の露を想起する声に従い、目をゆっくりと開けた。

すると、そこには、薄くて絹のような金髪の髪を結わいた、陶器の様な肌をした女の子がこちらをのぞき込んでいた。

「うわッ!?」

「きゃぁっ!?」

俺は突然の風景に驚愕し、後ずさりする。

女の子は俺の声に動揺し足を挫いて、尻もちをついた。

「ご、ごめん…えっと、君は…?」

女の子は草むらから立ち上がり、お尻についたゴミを手でパンパン、と払うと、こほん、と喉の調子を整えてから、

「風の王国、エンドルシア王国第一王位継承者、スフィリア・ワンド・エンドルシアと申します。冒険者さん、以後お見知りおきを」

と、胸に手を当て、敬意を示すような体位を取りながらそう告げた。

その女の子をよく見ると、白と緑の高貴そうな衣装に、華奢な体躯。長く伸びた金髪はシルクのように艶やかで、肌は傷一つない彫刻の様。薄桃色に輝いた瞳には無垢が詰まっていて、その無垢さとは反対に妖艶に膨らんだ女性らしさのある胸は、ゲームの中でも目に毒だ。

「そうか、この子が今回のディメクエでの最初の案内役か…よろしくね、スフィリアちゃん!」

俺はそう言い、NPCとの会話を図った。すると女の子は訝しげに首をかしげて、桃色の瞳を数回、ぱちぱちと瞬きする。

「でぃめくえ…?でぃめくえとは、なんですか?」

「なにって、このゲームのことだよ。キミはこのゲームのNPCだろ?」

すると、スフィリアちゃんは傾げていた方向を逆に変え、さらに眉をひそめて思念し、何かを思いつくと声色を挙げて目を見開いた。

「げーむ…?えぬぴーしー…?もしかして、遠い国から訪れた旅人さん、ですか…?」

「んー…まあ、遠い国っていうか…もはや遠い世界…っていうか…」

「わぁ!すごいです!!ぜひ、我が国エンドルシアにもいらしてくださいね!きっと楽しんでもらえると思います!」

スフィリアちゃんは笑顔で手を合わせ、天使のようなほほ笑みでそう俺に言った。

「それじゃあ、私はこれで失礼します!旅人さん、良き旅を祈っておりますね!」

手を振り、彼女は踵を返し、歩いて行ってしまう。

「ちょ、ちょっと待って!えーと、エンドルシア王国って、ど、どっち…?かな?」

女の子は俺の声に気付くと振り返り、元気よく奥の空を指さした。

「あれが、我が国エンドルシアの城下町です!それじゃあ、またどこかで!」

草原の遠くにそびえる城を指さして、スフィリアちゃんはそう言った。気付くと、城に向かって道が舗装されていて、

馬車のようなものがそこを行き来している光景が目に入った。いつの間にか、女の子はそこから姿を消していた。

往来している馬車の荷車に乗って、どこかに行ってしまったのだろうか。

にしても——————、

「いい匂いだったな…」

「女の子って、花みたいな匂いすんのな…」

俺は先ほどの女の子の匂いを思い出していた。向日葵のような笑顔が脳裏に浮かぶ。

「エンドルシア王国、か…」

「あの女の子にも会えるかもしれないし、行ってみるか…」

俺は腰を草むらから上げて、先ほど女の子が示した城に向かって歩いていくことにした。

これから起こる冒険に、胸が膨らんだ。

この先、未曽有の大災害が聖太に降りかかることを、彼はまだ知る由もなかった。

この度は、私、すゞみずみすゞの小説を最後までご覧いただき誠にありがとうございます!

少しでも良かった、面白かったと思って頂きましたら、ブクマなどの応援を、どうかよろしくお願いいたします!

まだまだ粗削りではありますが、自分の作品がアニメになるという夢に向かって書いて行きたいと思います!

コメントなども是非ともお待ちしております!(*^-^*)

私の励みになります!(笑)


宜しければ次のお話も、読んで行って下さいね♪(*^-^*)

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