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保健係の千枝子ちゃん  作者: 理科準備室
3/4

けんいち君の事情

 実はけんいち君は、朝、家を出るときも佐藤先生とおなじようなお小言をお母さんにもらいました。

 けんいち君の家は前に書いたように魚屋を営んでいるのですが、その日が魚市場の休日でお店も休みだったので、うっかりお母さんが寝過ごしたこともあって、寝坊して遅刻気味で、ご飯もろくろく食べず、いつもの朝うんちもしないで大あわてで家を出ることになったのです。そんなけんいち君に向かってお母さんは「けんいち、また、ちり紙を持っていかないの! ちり紙を持っていかないと、学校でうんこしたくなったとき困るでしょ!」と叫びました。しかし、けんいち君はそんなお母さんを無視して、一目散に集団登校の集合場所に向かって駆けていきました。

けんいち君は、どうしてもお母さんに持たされた時はしぶしぶ持っていきましたが、そうでない限り、ちり紙を学校に持って行くことがイヤでした。特に衛生検査がある水曜日はイヤだったのです。

確かにちり紙は鼻をかむのにも使いますが、けんいち君には何よりもベンジョ紙、つまりうんちしたあとおしりを拭くための紙なのです。家を出るときにお母さんに渡された折りたたまれたちり紙を見るたびに、学校のオンナベンジョにしゃがんで自分一枚一枚折りたまれたちり紙を開いてはおしりを拭く光景がけんいち君には目に浮かぶのです。それを持ってきたのを学校に持ってくるだけでみんなの前で「ぼくは学校でウンコします」と宣言しているのようなものでした。ましてや衛生検査のためにハンカチをちり紙を机の上に置くなどということは、みんなの目の前で机の上に上がってうんちしておしりを拭いているのを見られれるのも同然だったのです。

これは入学以来、学校のオンナベンジョに一度も入ったことがないことが自慢のけんいち君のプライドを傷つけるものでした。

特に1、2年生のあいだはけんいち君は学校のでうんちしたくなったことは一度もなく、その頃は絶対しない自信もありました。それは。朝、登校するときは必ず朝うんちしてから家を出るためです。体調がいつもと違ってうんちが固くてなかなか出ない日でも、学校でうんちしなくて済むように、家を出る時間まで必死になってけんいち君はがんばって出していました。一度、けんいち君がお便所の中でいきんでいる最中にとうとういつもの集団登校の迎えの上級生の子が呼びに来てしまったので、あわてて下につけているものを全部脱いだお便所に入ったときそのままのふりちんの恰好でランドセルを背負い交通安全の帽子をかぶって出てしまいその子に笑われたことさえあったのです。

他の同じクラスの男子も、みんな朝うんちしてくるためか、めったに学校のお便所でうんちする子はいなかったのですが、たまにお腹の調子が悪くて学校でうんちする子を見つけると、学校で自分やほかのクラスの子と比べて一人だけすごくエッチで汚いことをしているように思えて、けんいち君はほかの「うんこ探偵」の仲間と率先してからかいました。

しかし、そんなけんいち君でも、この春に3年生に進級すると、授業時間が増えたこともあって、朝寝坊して朝うんちできなかったときや、家で朝うんちしてきてもお腹の調子で授業中にうんちしたくなったことが何度かありました。そんなとき、けんいち君はつい気になってそっと周りの子の椅子に腰掛けているおしりの部分を見回します。みんなは教科書を読んだり字を書いたりしながら椅子に座って先生の話を聞いているのに、けんいち君のうんちはその同じ椅子とズボンとパンツをはさんでもうすぐそばのところまで来ているのです。しかもうんちはおしりの穴を必死に押していて、今にも「うんこもらし事件」になりそうになっていました。けんいち君は椅子の上の自分のうんちを想像すると恥ずかしさのあまり目を思わず伏せてしまうのでした。

でも、もう一方でけんいち君は1、2年生の頃は「うんこ探偵」の仲間ともバカにしてきた学校でうんちしたくなった子と同じように休み時間にこっそりお便所に行く自分の姿も頭には浮かぶのです。実際それを実行すれば「うんこもらし事件」にもならずにラクになることはけんいち君もわかっていました。

でも、けんいち君にはお便所に行けない理由がありました。


けんいち君は、家でうんちするときは必ずお便所の外でパンツやズボンを全部に脱いでから入ります。でも、学校がするときはお便所以外ではおしりを出したりふりちんになってはいけないので、お便所の中で膝まで半分下してうんちしなければならなかったのですが、けんいち君はそれができなかったのです。


あと、ちり紙も当然持ってきていませんでした。ちり紙は教員室に行って佐藤先生にもらうという手もありますが、問題はいつもの「うんこ探偵」の仲間たちです。彼らは必ず佐藤先生からちり紙はもらっているところを見つけますし、見つかったら速攻でうんこ判定です、うんこ判定の後の自分の運命については容易に想像がつきました。早い話が自分がやってきたことがそっくりそのままに自分の身に降りかかってくるのです。


オンナベンジョに入ったところで他の子が「ピンポンパポーン! 臨時ニュースです! 臨時ニュースです! けんいちがオンナベンジョに入りました」と叫びながら教室に駆け込んでクラスの男子たちを呼んできて戸をむりやり開けられ、お便所に集まったみんなの目の前でうんちすることになるのです。さらにうんちが終わった後も教室でチャイムが鳴るまで恒例のインタビュータイムが待っています。


そんなことを考えはじめると、とても恐ろしくてけんいち君は学校のお便所でうんちできませんでした。それで仕方なく必死にぎゅっとおしりの穴を閉めました。そうするとうんちは一度は引っ込み、再び安心してけんいち君は他のクラスの子と同じように先生のお話に耳を傾けることができました、しばらくするとうんちはまたおしりの穴に押し寄せてきます。こんなふうに授業もそっちのけで終業時までけんいち君はうんちが出てくるのを必死に抑えていました。でも、どんなに閉めてもおなかの中のうんちは必ず再び迫ってきました。それどころか閉めるたびに再びうんちがおしりの穴に迫ってくるまでの時間の間隔は確実に短くなっていくことがけんいち君にはわかりました。


それでもけんいち君の場合、終業の挨拶を終えると何とか家まで走って帰ってなんとか間に合っていました。それでも家に着くともうぎりぎりで「ただいま」と言うと、大慌てでランドセルもズボンもパンツも玄関で脱いで大慌てで家の奥のお便所に駆け込んでいくのです。そんなふりちんのおしり丸出しで走って行く姿を見るたびにけんいち君のお母さんは


「そんなになるまでガマンして帰ってくる前に、どうして学校でうんこしてこなかったの! 下校途中でうんこもらしたら大変でしょう! ああ、きっとちり紙持って行かなかったからだよね・・・」

「どうして全部脱がないとうんこできないの! もう三年生だからズボンとパンツを膝まで下せばできるでしょ!」

といつも小言をいいます。でも、けんいち君はとってはできないものはできなかったのです。

そんなふうに自分の身に降りかかっても、けんいち君は学校でうんこしているほかのクラスの男子を見つけると容赦しませんでした。

先生からちり紙を借りたり小さなおならを何度もしていたりと、教室でもうすぐうんこしそうな様子を見せていた子がお便所に向かっていくのを見つけると、「うんこ探偵」の仲間たちとといっしょに後をつけます。

そしてその子が本当に小の方じゃなくてオンナベンジョの方に入ってこっそり戸を閉めるのを見ると、それから戸の向こうでズボンとパンツを下ろしてしゃがんでいる姿やその後うんちがおしりの穴からでてくる感じを想像してしまうのです。自分の毎日の家でのうんちでも何だかエッチで恥ずかしいのに、その戸の向こうの子が恥ずかしい思いをしかも学校でしていると思うと、けんいち君はすごく胸がドキドキしてきてコーフンしました。コーフンのあまりおちんちんが少しかたくなるほどです。そしてその子にもっと恥ずかしい思いをさせてやりたい、という気持ちが沸き上がってくるのをけんいち君は抑えきれなかったのです。

この間のよしお君の「学校うんこ」のときもそうでした。けんいち君はよしお君がオンナベンジョに入ったのを見つけるとその戸を「開けろよ!」とドンドンノックしました。もちろん、よしお君も「開けないでよ!」と叫んで必死に反発するのですが、反発すればするほどその戸を開けてよしお君に恥ずかしい思いをさせたいという衝動にけんいち君は駆られてなお一層ノックするのです。

それから、しばらくして「うんこ探偵」の一人でお便所の戸のカギを外から開けるのがうまい子が遅れてやってきて、いろいろなところをドンドン叩いた果てにとうとう戸を開けてしまいました。

すると便器にしゃがんでいるよしお君の姿がけんいち君を始めとする「うんこ探偵」の目の前に現れたのです。よしお君はうつ向きがちに目を伏せながら「見ないでよ、お願い。見ないでよ、大きいのが出そうから・・・」と必死に言っていました。見るとよしお君の便器の真上のおしりは丸出しこそになっていましたがズボンとパンツは全部脱がず膝まで半分下されていて、きちんと学校でうんちするときの恰好になっていました。そして手の方を見ると、これから使う、家から持ってきた折りたたまれた白いちり紙をしっかりと握りしめていました。よしお君のそんな姿を見て、けんいち君をはじめとする「うんこ探偵」はエッチだなと大笑いしました。

でも、けんいち君はよしお君のようにズボンやパンツを半分下す格好もできないし、家からちり紙も持ってきていないので、学校ではうんちできません。それで自分はいつもガマンして苦しい思いをしているのに、こっそり学校でうんちして気持ちよくなっている、そう思うとけんいち君はよしお君が何だか汚くて身勝手で許せないような気がしてきました。そこでうんちできないようによしお君の手からちり紙をけんいち君は取り上げました。よしお君はもうがまんも限界だったらしく、手を伸ばして「返してよ」と必死にちり紙を取り戻そうとしました。しかし、けんいち君はただの紙切れのちり紙を足元のよしお君がおしり丸出しの姿でそんなふうに取り戻そうとするのが面白くてたまらなくて、渡さないようにしてからかいました。するとよしお君は取り戻すのを諦めたのか膝をかかえ目を伏せたかと思うと、体をふるわせてみんなの目の前でうんちを始めました・・・。

けんいち君はそのとき学校でうんちしない自分が、学校でしているよしお君に何だか勝ったような気がしました。でも、その一方で自分も学校で我慢できなくなる日がいつかやってきて、こんなふうにうんちすることになってしまうかもしれないという不安がわいてくるのを抑えられませんでした。

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