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7話 リナァアアアアアッッッッ!!!!!

 俺と姫乃は夕方までアルスラの森の探索を続け、いくつかのアイテムを入手した。


「そろそろ夜になる。一旦森を出て町を目指すかの?」


「ああ、夜通し森にいるわけにも行かないしな」


「了解じゃ。それにしても結構な収穫じゃったの。いいスタートダッシュを切れた気がするわい」


 姫乃は満面の笑みでバカデカい盾を大事そうに抱えている。


「旧英雄の大盾……こんな初期の森でユニークスキルと最上位防具が手に入るなんて本当に運がいいな」


「いしし~第二ワールドでもトッププレイヤーを目指すかの~!」


 姫乃は嬉しそうだが、俺は何となく嫌な予感を感じていた。


 今のNZOは「ヘラの怨恨」に支配されている。

 もしかしたら第二ワールドのデスゲーム化にあたって、強力な装備を始まりの町の周囲に集中しているのではないか……?


 奴らだっていつまでも第三サテラタワーを占拠していられるわけでもあるまい。

 何か目的があるのなら、早ければ早いほどいいだろうし……。


 そこまで考えて、俺は振り返って言った。


「おいお前……誰だ? 一体何が目的で俺たちをつけている?」


「なんじゃ……?」


 俺と姫乃の振り返った先、木の陰から一人の男が姿を現す。

 俺は先ほど手に入れた鑑定スキルで相手の情報を調べる。


 全身を甲冑で固めた騎士風の男だ。

 防具はほとんど第一ワールド製の装備だが、腰に佩いた黄金の剣は第二ワールド製の最上位装備「天使狩り(エンジェル・ハント)」。


 プレイヤーネームは……

 『Root_Knight』


 それを見て俺は眉を顰めた。

 第一ワールドのトッププレイヤーで攻撃種(アタッカー)一位の猛者だ。


「何が目的で後をつけてきた……」


 Root_Knightは何も言わずに剣を構え、跳んだ。


 次の瞬間、俺とそいつは火花を散らして鍔迫り合う。


「おい! いきなりなんだよ!!」


 俺は剣を薙ぎ払い敵との間合いを開ける。


「ここでお前を殺せばリナは晴れて俺のものだ」


「は……? なんでリナが出てくんだよ。俺がアイツとパートナー設定組んでるのが気に入らないのか?」


 だがおかしい。

 リナはトッププレイヤーでも何でもない。

 むしろNZOプレイヤーとしては下層に近いしプレイスキルだって高くない。


 それなのに何故コイツはリナを知っている……?


「……ん?」


 Root_Knight


 Root = 根

 Knight = 騎士


 根騎士


「え……ちょっと待ってwwwwwww」


 コイツ、根岸じゃね?(笑)


「いや、お前……まさか根岸か?」


「……俺の名はRoot_Knightだ」


「い~やぜっっっったい根岸だね!! じゃないとリナがどうとか言い様がねえもん!!!」


「根岸ではない」


「認めろよオラ!! お前が「彼氏Ⅱ」なんだろ!? リナと寝てたんだろ!? 動画見たからなテメェ!!! まじでふざけんなよオラァ!!!!」


「お主たち一体何を言っておるのじゃ……?」


 隣で何も知らない姫乃が困惑した表情で袖を引っ張ってくるが、今説明している暇はない。


「根岸ではない」


「根岸だって!! ちょっとその甲冑外せよオラ!! 顔見せろ!!」


「外す必要はない。根岸ではないからな」


「声が既に根岸なんだよ!!!!!」


「根岸って何じゃ……?(困惑)」


 俺はキレて、愛剣である「恐王の魔剣」を全力解放した。

 一定時間攻撃力が上がるのだが、第一ワールド製であるため能力値は半減している。


 だがそんなことはもうどうでもよかった。


「お前なんで俺をつけてた? 俺を殺してリナを奪おうって算段だろオイ!!」


「元よりリナはお前の物ではない」


「俺の彼女だが!?!?」


 俺と根岸(?)は再度間合いを詰め何度か斬り付けあう。


 武器の性能の違いだろうか。

 剣で攻撃を防ぐたび、腕に痺れるような感覚がまとわり付く。


「諦めろ。俺の天使狩り(エンジェル・ハント)とお前のガラクタではスペックが違いすぎる」


「うるっせぇええなあ!! その騎士風のロールプレイやめろ!!! ムカつくんじゃオラァ!!!」


 俺は根岸(ほぼ確定)の頭部に回し蹴りを叩き込み雄叫びを上げる。


 甲冑の外れたRoot_Knightはリナのスマホに映っていた根岸と同じ顔だった。


「やっぱり根岸じゃねえか!(大歓喜) ぶっ殺すぞ(絶望)」


「お主大丈夫か!?!? 顔が怖いぞ!!」


「姫乃……今の俺は羅刹だ。奴が憎くて堪らない悪鬼なんだよ……」


「謎のロールプレイがはじまっておる……」


 憎しみが溢れ、怒りが加速する。

 絶望が叫び、悲しみが涙する。


 今の俺は顔がいくつあっても足りないくらい、色々な感情が混じりあって、カオスな顔をしている。


 リナ……。

 なんでこんな奴と寝たんだよ。

 あんなにお前に尽くしたのに。


「うぅぅううリナぁああああ……(血涙)」


 助けてくれ。

 涙で前が見えねえよ。


 覚えてるかリナ?

 中学の卒業式、お前は俺に「ずっと一緒にいたいね」って言ってくれたよな。

 俺、あの時本当に嬉しかったんだ。


 高校の文化祭、俺のクラスの女装カフェに一番乗りで遊びに来たな。

 クラスは違ったけど、お前と一緒にいた時間は誰よりも長かった気がするよ。


「うぁああああああ……!!!!!」


 どうしてだよリナ……。

 だって今日の昼まではずっとイチャイチャしてたじゃないか。


 あれも全部嘘だったのかよ?

 もしそうなら俺、もう壊れちまうよ。


 10年以上ずっと一緒にいて、ずっと同じ景色を見て、同じ思い出を作って……。

 それが全部嘘だったって言うのか……?


「リナぁああああああああああああ」


 森の中にこだまする絶叫。

 愛が怒りに生まれ変わり、俺の中の何かが決壊していく。


 誰も俺の気持ちなんて分からないだろ。

 いいんだ、分かってくれなくて。


 俺はリナのことを分かった気でいて、実のところ全く分かってなかったんだから。

 人間、所詮そんなものさ。


 愛なんていらない。

 愛があるからこうなっちまう。


 だから、俺は今決めたんだ。


 人間をやめるって。


「キィイイイイイイイイイイイ!!!!!!!!!!!」


 超高速で脳が崩壊していく。

 理性が蒸発する音が聞こえる。


 よだれを撒き散らして叫ぶ俺の姿は本能に身を任せた獣そのものだ。


「リナァアアアアアアアアッッッッ!!!」


 叫ぶ俺の姿を見て、姫乃は怯えながらこう言った。


「こわい……」

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