6話 ゲームに打ち込んでいる間は、嫌なことを忘れられるんだ……
俺と姫乃はアルスラの森へと侵入した。
即席パーティではあるがバランス自体はしっかりと取れている。
第一ワールドでは上位タンクだった姫乃に剣士の俺。
回復役がいないのが少し不安要素だが、初期パーティとしては申し分ない。
ひとまずは雑魚相手にダメージ計算式の割り出しや戦闘モーションの確認を行い、連携のリズムを取ってからさらに奥へと進んでいく。
道中で倒した雑魚からドロップアイテムと回復薬をいくつか入手、あとはお金もちょっとだけ手に入れた。
アイテム整理をしていて気付いたのだが、第一ワールドで持っていた全てのアイテムが持ち物から消失している。
現在装備中の武器防具類以外は、お金も含めて全てだ。
なんなら今装備中の武器防具類も能力値半減というオマケ付き。
たぶん第二では第二の武器を使えと言いたいのだろう。
「早めに森に入って正解じゃったの。金がないと何も買えんじゃろうし」
「回復薬もありがたいな。このパーティ、ヒラいないから」
そんなこんなで結構奥までやって来た俺と姫乃はとうとうお目当ての物を見つけ出した。
「宝箱じゃ!!」
「色は!?」
「最上級……プラチナじゃ!!」
やはり一番乗りで森に来た甲斐があった。
第二ワールド由来の装備品が手に入るのはとても助かる。
「武器か!? 防具か!?」
「開ける!? 開けちゃう!? 開けちゃっていいんですかぁ~!?!?」
「はよ開けんか!!www」
「はいよ~!!!」
俺が箱を開けると姫乃が中から書物を取り出した。
どうやらスキル取得のための技法書のようだ。
武器や防具類ではないが全然嬉しい代物である。
「スキルか! 第一ワールドのスキルはこっちでは使えないし、これで一歩リードじゃな!!」
「それで中身は何なんだ?」
「いしし……知りたいかぁ~??」
「知りた~い!」
姫乃は書物の題名を見つめ、それを声高らかに読み上げた。
「不倫の書じゃ!!」
……は?
「……姫乃、今なんて言った?」
「"不倫の書"じゃ。そう書いておる」
姫乃が見せてきた書物には確かに「不倫の書」と書き込まれている。
は?
いや、何……?
純粋に何……??
もしかして俺って運営から監視されてたりする?
「はぁ~~~」
さっきまで忘れていたことを掘り返されて最悪の気分だ。
でも確かに思い当たる節はあるのだ。
そう、NZOを乗っ取ったテロリストグループ「ヘラの怨恨」だ。
今時ピエロの格好でデスゲーム開催を宣言するような悪趣味な奴らだ。
悪ふざけでアイテム名を改変していても何らおかしいことはない。
「違うんだよなぁ~。俺はあくまでNZOを遊びたいわけ! 「絶海竜の涙の剣」とか「幻葬竜の瞳の盾」とか、そういうカッコいい名前のアイテムで格好よく無双して気持ちよくなりたいわけなのよ。それなのに、なにこれ「不倫の書」て。かっこわりいよ。気分悪いわ。純粋に」
「ま、まあまあ落ち着くのじゃ……。得られるスキルはまだ分かってないのじゃろう……?」
不倫の書を読み進め、スキルの内容を確認する。
【ユニークスキル・緊急離脱】
取得可能ジョブ・アタッカー全般
一度の戦闘で三回まで、一切の消費なく大ステップを行うことが出来る。
予備動作が無いためあらゆる状況への対応が可能。
「あ、説明文はまともなのね。……てかこれユニークスキルじゃねえか!!!」
ゲーム内で一人しか使えない必殺技のようなものだ。
この場合、三回まで高速でステップ移動が出来るというものらしいが……。
「これアタッカー専用だな……。売って金にでもするか?」
ユニークスキルな上にアタッカー専用。
一緒に見つけたのにタンクの姫乃の前で使うのはさすがに気が引ける。
武器防具類であれば使い回しが出来たのだが……。
「いや、今はパーティの戦力充実が最優先じゃ。お主が使うがよい」
「いいのか?」
「そう言っておる。その代わり、こき使わせてもらうぞ?」
「……ありがとう」
今までリナに与えてばかりだったからだろうか?
こうして誰かから何かを譲ってもらうのは久しぶりだ。
とりあえず不倫の書で緊急離脱を覚え、実際に使ってみる。
使用条件は戦闘中とのことなので、一度姫乃と戦闘状態へと突入し、緊急離脱を発動。
一瞬身体が引き寄せられるような感覚に襲われ、次の瞬間には10メートルほど移動している。
「ほぼ瞬間移動だなこれ」
「10メートルはデカいの。一瞬で近接の間合いに持ち込めるし、発動中は当たり判定もなさそうじゃな」
「回避スキルなだけあって、そこら辺かなり優遇されるっぽいな……」
正直当たり中の当たりだ。
とっとと森に入って大正解だった。
「まだ体力にも余裕はあるし、行けるとこまで行ってみるか!」
「うぬ、わっちのスキルも欲しいしの」
俺と姫乃はさらに森の奥へと進んでいく。
背後から一人の人影が迫ってきていることに気付かないまま……。