5話 リナ、お前のせいで俺の脳はボロボロだ……。
脳が壊れた俺はあれからすぐに姫乃とNZOの第二ワールド「対天使都市アポロニア」へと移動した。
ネットワーク対戦系ゲームで上位プレイヤーをやっている人間なら実感があるだろうが、どのジャンルにしてもオンライン対戦とは其れ即ち"情報戦"だ。
βテスターが一般プレイヤーよりも上位に食い込みやすいのは、他プレイヤーより早期にそのゲームに触れ、より多くの情報を持っていることに由来する。
そういうわけで、俺たちは善は急げとアポロニアへやってきたはいいものの、第一波のプレイヤー陣は想定外の出来事に皆混乱していた。
全ステータスが初期化している
というより、第二ワールドにはステータスという概念自体が存在していない。
レベルがなければSTR、DEF、VITなどのVRMMOお馴染みのステが全くない。
「モンスターハ○ターみたいだな」
「わっちらの生まれる前のゲームじゃな」
つまり、第二ワールドは第一ワールドとは全くの別ゲーである可能性が高い。
敵の種類、武器防具の性能調整、戦闘のセオリー、その他システム諸々……。
そういった各要素がどれだけNZOを継承しているのか。
何が優位で何が悪手か。
それを経験と勘、推測と実験で探っていかなければならない。
大抵のプレイヤーはこの段階で尻込みをして無難な選択肢を取りに行く。
しかし俺と姫乃は違った。
俺は半分壊れているし、姫乃は地頭がいい。
みんなが町へと向かう中、俺と姫乃は互いにどつきあっていた。
フレンドリーファイアは存在するのか
これを把握しているかどうかで戦闘の全てが変わってくる。
遠距離支援の射線に対する意識が変わるし、パーティの構成や使用武器の選択、戦術立案から個人の戦闘スタイルまで、本当に何もかもが変わってしまう。
「フレンドリーファイアは有り。ただし与ダメージは五割減……と」
「まあ予想通りだな。オープンβすら無かったし」
最新ゲームの初日はシステム障害やらサーバ負荷でてんやわんやのメンテ祭りになりやすい。
そこを無視して強制的に全プレイヤーをぶち込んだということは、第二ワールドはテストなんかせずとも安定して運用できる作りになっているということ。
つまり、第二は第一の焼き直しだ。
単純な話だ……基本的な骨格は同じものを使っているから安定していられる。
「初期勢を取り込むための施策かな」
「なぜそう思うのじゃ?」
姫乃の問いに俺は頭良さそうなフリをしながら答える。
「NZOの初期勢と新規勢の間にはどうしても越えられない壁がある。ステータスはプレイ時間に比例するからな」
「つまり、ステータスが存在しないワールドを作れば新規でも伸び伸びと遊べる……というわけじゃな?」
「それ……正解! ……はぁ。そういう住み分けを狙って作られたワールドだとは思う」
浮気のせいで若干感情の浮き沈みが激しいが、まあ会話くらいならなんとかなる。
姫乃は俺の様子に首を傾げるが、気にせず会話を続ける。
「まあ、当時の運営が何を考えていたにしろ、今のここはデスゲーム会場でしかないがな」
「その「デスゲーム」ってのやめんかの。とっくの昔に流行りが過ぎておるわ」
「ちなみに今の流行りは何なんだ? 創作系の話題には疎いんだが……」
「復讐系じゃの。ちょっと前には幼馴染みに復讐するとかいう妙に細分化された作品群が目立っておったな」
「…………ん?」
なんだそれ。
俺、ちょっとそれには興味があるぞ???
「生きて帰れたら少し読んでみるか~~~」
「それならオススメを教えてやってもいいぞ!!」
となりの巫女狐はなぜだか少し嬉しそうだ。
俺と姫乃は適当な世間話をしながら、他のプレイヤーたちとは真逆の方向へと進み続け、やがてひとつの森へとやってきた。
アルスラの森
「ここが近場の直近ダンジョンか……」
「わっちらが一番乗りじゃの!!」
NZOは無限のやり込みと無限の探求をウリにしている。
それは俺がリナに貢いだ「ハエの王の羽根」のような、入手難度が高くプレイヤー全員が手に入れられるわけではないレアアイテムが継続して追加され続けるからこそ可能なやり方だ。
つまるところ、これは「一品物」が存在するゲームなのだ。
「さあ、根こそぎ持っていこうか……」
町のような安全な場所ではクエストも貴重なアイテムも手に入らない。
町に行った奴等には悪いが、こっちも他人に気配り出来るほどの心の余裕は持っていないのだ。
「アルスラの森、わっちら二人で荒らしてやろうぞ!」
「おう!!」