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4話 この気分のまま死ぬのは嫌だ

 俺は再度ドアの向こうにリナがいないか確認し、部屋に戻ってLIMEを開いた。


 自慢じゃないが(自慢です)

 俺とリナは毎日欠かさずLIMEをしていた。

 リナが寂しくないようにするのが彼氏である俺の務めだと思っていたし、リナとやり取りする時間は俺にとっても大切な時間だった。


 彼氏Ⅲ(友達が設定した名前「優」)


 いやいや待てやオイ!w

 「彼氏Ⅲ」てなんやねんwwwwwwww


 せめて「彼氏3」とか「彼氏③」じゃねえの?

 Ⅲてなんやねん笑

 Ⅲて笑


 気を取り直して彼氏Ⅲ(俺)をタップする。


「は?トーク履歴消えてるじゃん」


 そう、今日の0時以前のトーク履歴が残っていないのだ。

 眉間に嫌な汗が流れる。


 山岸は?

 根岸とのトーク履歴は?


「マジか……。こいつトーク履歴毎日0時ちょうどに全部削除してるわ……」


 たぶん浮気がバレないため……。

 というかここまで来たら浮気がどうのこうの以前にサイコパスっぽくて怖い。


「とりあえず山岸と根岸の会話だけ見るか……」


────────────────────

リナ<山くんちゅきちゅきー!!

山岸<俺もだよ、リナ

リナ<今度いつ会えるの-?

山岸<じゃあ今日行くわ

リナ<やた!山くん大好き!チュ!

────────────────────


「……」


 次行くか。


────────────────────

根岸<今日のドロップ雑魚

リナ<またNZO?前あげたハエのなんたらで強くなったんじゃないの?

根岸<あれオクで現金化したわ

リナ<いくら?

根岸<1千万

リナ<やばw

────────────────────


「………………は?」


 これアレだろ。

 「ハエのなんたら」って、「ハエの王の羽根」のことだろ。


「……………………」


 あれはリナが喜んでくれると思ったからあげたものだ。


 正直、リナのためとは言え手放すのは死ぬほどしんどかった。

 なにせ世界で10人しか持てない超激レアアイテムだ。

 しかも自分で入手したという愛着もある。


「……………………」


 今まで現実逃避でやり過ごしてきた怒りが沸々と湧き上がってくる。


 あー、、、ほん

 ッッッッッッッッッッッとに辛いわ。

 クソ苛つく~~~。


 なんで俺がこんな目に遇わなきゃならないんだ?


 大切なものを奪われて、大切な人を奪われて、その思い出にも泥を塗られて……。


「なんで俺が耐えなきゃならねえんだ??」


 いまだに納得がいかない。

 というか、今になってようやく自分がされたことの実感が掴めてきた気がする。


「……一旦ログアウトするか」


 メニュー画面のログアウトボタンを押して、現実世界に戻ろう。

 そして何か別のことでもして気分を紛らわせて、リナに会うのはそれからだ。


 あーーーーーーーーー、

 久々に映画でも観に行くか~~~。


「……あれ?」


 メニュー画面を閉じ、もう一度メニュー画面を開く。


 ……無い。

 ログアウトボタンが無い!!


「なんだ?ひとまず運営に報告するか……ってそのボタンもねえな……?」


 そうこうしているうちにNZOは強制的にマップロード状態に移行し、次の瞬間には"中央広場"へと転移していた。


「なんだ……?」


「あ! さてはその声、お主……優ちゃんではあるまいか!?」


 肩を叩いてきたのは狐耳を生やした巫女服の少女だ。


「姫乃か。相変わらず凄い装備だな……。その髪飾り、魔法防御系チャームの最上位装備「幻想灯の欠片」だろ? ちょっと前に新規で発見されたって掲示番で話題になってたやつ」


 指摘された髪飾りを撫で姫乃は嬉しそうににこりと笑う。


「いしし~さすがはβ版からの猛者よのぉ! よく見ておるわ」


「そりゃあライバルの装備くらいは常にチェックしてるよ」


「……っ! そ、そうかそうか!! フフフ……お主ほどの者にライバルと評されるとは……わっちもそろそろトッププレイヤーの名乗り時かもしれぬな!」


「冗談はよせ、お前ずっと前から防御系最強だったろ。……それより姫乃、なんで俺たちは急にマップ移動なんてさせられたんだ? しかも見た感じ、ログインしてる全プレイヤーがこの中央広場に集められてるが……」


「運営からのアナウンスはなかった筈じゃがな。まあ、たまには酔狂も悪くはなかろう」


 周囲のざわつきの中二人でそんな雑談をしていると、空が歪み、一体の巨大なピエロが現れた。


「なんじゃ、レイドバトルか……?」


「レディーッスエーーーーーーーーン! ジェンンンントルメェエエエエエエエン!!!! NZOプレイヤーの諸君、ご機嫌よう! やあやあ、ご機嫌よう!! ご気分の程はいかがかな~~~??? 最高のNZOライフ楽しんでいるかなァ~~~~???」


「レイドではなさそうだな……」


「運営のセンスは信じておったんじゃがの」


 デスゲーム系でありがちなやつが今目の前で何かを話している。

 今時ここまでテンプレなのは逆に珍しい。


 巨大ピエロは妙なテンションでなぜ俺たちがここに呼び出されたのか解説を始める。


「んー、ごほん。気を取り直しまして、紳士淑女の皆様方! ご機嫌よう、我々『ヘラの怨恨』と申します。単刀直入に申し上げますと、我々『ヘラの怨恨』は現在NZO運営の本社ビル『東京第三サテラタワー』を絶賛武装占拠中です。つまり……皆様のご利用頂いております『サーバー』と『VRヘッドマウントディスプレイ』の機能は、我々『ヘラの怨恨』が全て支配しているということになります」


「妙な趣向のイベントストーリーじゃ。これスキップは出来んのか?」


「無理っぽいな」


「まあ皆様方もお察しの通り、バスジャックやハイジャックならぬ、VRジャックというやつですですねえ。無理にHMDを外したら頭がボンッ!! もちろん、警察や特殊部隊が第三サテラタワーへ突入しても皆さんまとめて脳みそボンッ! 生きて帰るためには、皆さんが独力で、運営が新規で追加を予定していた第二ワールド『対天使都市アポロニア』を攻略しなくてはなりません」


 ()()()()()()()()()()


「このゲームでの死は現実世界での死だと思ってください。説明は以上。あとは皆様方でお楽しみを~!」


 そう言ってピエロは姿を消した。


「……なんだこれ」


「わっちが聞きたいわ」


 なにやら運営が力を入れて開発した新クエストの発表らしいが、今の俺はそんな気分じゃない。

 ピエロは脳みそがボンッ!とか言っていたが、俺はついさっきリナに脳を砕かれてる。


「何だか知らんが、俺は強制ログアウトするぞ。人の事情も知らないで……」


 そう言ってHMD本体の電源を落とそうとした瞬間、姫乃が必死になってしがみついてきた。


「い、今はやめておかんかの……? そうじゃ! わっち、極炎龍のクエストに行きたいのじゃがアタッカーの知り合いがおぬし以外ログインしておらんくてな……?」


「ごめん姫乃、今はちょっと……」


「……」


「すまない、放してくれないか?」


「いやじゃ」


「いや、いやじゃじゃなくて」


「……死んでも放さぬぞ」


「……っ!」


 俺はついイラっとして姫乃の手を振り払った。

 その直後、HMD備え付けの緊急アラートが脳裏に深く突き刺さる。


「え……?」


 振り払った手が、隣にいた男に当たり、その男が倒れた。

 最初、俺は自分のせいでその男が倒れたのだと勘違いした。


 ()()


「誰か! 外部への緊急通報機能を使って救急車呼んでくれ!!!!」


 VRMMOへのフルダイブが当たり前になったこの時代、ゲーム中の体調不良での孤独死が社会問題となっていた。

 だから、現行の全てのHMDには脳波を検出する機能が備わっている。


 脳波に異常が見られると自動で救急へと通報が行われる仕組みなのだが、そのどこかの段階でシステム的なエラーが起きた場合、または救急への通報が行われなかった場合には、周囲のプレイヤーへと救難信号を送る。


 それが緊急アラート。


「だ、だめじゃ……通報機能が制限されておる……!」


「クソ……!」


 俺もHMDから通報を行おうとするが出来なかった。

 VRの世界からでは現実の体に心肺蘇生もAEDもしてやれない。


 通報機能が唯一人を助けられる可能性なのだが……

 その"唯一"が機能しないのだ。


「優ちゃん……」


 姫乃に促され周囲へと意識を向ける。

 目の前の男に気を取られていたが、そこには……


「嘘、だろ……?」


 俺たちと同じような状況に直面する人々が無数……。

 そう、このゲームはたった今、この瞬間、俺たちの生命と直結したのだ。


「……姫乃、止めてくれてありがとう」


 俺は立ち上がり、己の不幸を呪うように空を見上げた。


 嫁に三股された挙げ句、次の瞬間にはテロリストの人質だ。


 ハッキリ言って最悪だ。

 今すぐに死にたいくらいだ。


 だけど……


()()()()()()()()()()()()()


 仕方がない。

 どうにかしてNZOの第二ワールドをクリアする。


 それ以外のことは、助かってから考えよう。

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