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28話 行くか……

 99層……。

 俺はリナを引きずりながら、このワールドで最も高い構造物、パンデモニウムを登っていく。


 既に雲は遥か眼下に見下ろす距離にあり、薄い空気の中、俺はひたすら修行僧のように苦しみながら、糞女を引きずっている。


「着いたぞ……」


 ここを越えれば、最後にあるのは原始なる滴の配置された100層だけだ。

 その100層に魔物がいるのか分からないが、俺は、いないでほしいと心の底から祈っている。


「リナ、俺に回復を……」


「はい……」


 リナは既に大人しくなっている。

 ここまで来たら、もう騒いでも仕方が無いと悟っているのだろう。

 馬鹿な女だが、さすがに状況を理解したらしい。


 リナは俺に回復を掛け、俺はその回復量の少なさに眉根を寄せた。


「本当に、これだけか……」


「本当です……頑張ったんです……。でも、それだけで……」


「これなら、回復薬のほうがマシだ」


 俺は痺れる右腕を開けて、閉めて、開けてを繰り返す。

 98層に登った時と状態は同じだ。

 確かに、98層を攻略した直後よりは断然マシなのだが……。


 仕方が無い。

 まずは、相手の力量を把握してからだ。

 それで、勝てるかどうか考えよう。


 俺は門の前に立った。

 そして、その刻印のあまりの途方も無い内容に膝が笑い、尻もちをついた。


 インペリアル・ストライカー・ゴーレム(Lv3000)

 弱点属性:無し

 弱点部位:無し


 98層のイン・ストの倍……91層のイン・ストの三倍以上だ。


「馬鹿だろ……これ考えた奴……」


 俺はあまりの絶望に目眩を起こし、目を瞑ってその場に仰向けに倒れた。


「俺はキリトでなければ、司波達也でもねえんだぞ……」


 司波達也はVRMMOに一切関係ないが、まあ、いてくれれば外部から何とかしてくれそうだ。

 俺はそんな現実逃避に脳のリソースを無駄に割きつつ、これからのことを考える。


 俺はイン・ストを倒せるのか。

 この上にもさらに強いイン・ストはいるのか。

 そもそも、100層に魔物はいるのか。

 出来ればいないでほしいな。


 なんて事を考え、それから身体を起こす。


「優くん……」


「喋るな」


「頑張って……」


「喋るな」


「……」


 リナはこちらをずっと見詰めているが、どうでもいい。

 コイツは俺を二度も刺し、何度も裏切り、姫乃を殺した。

 殴ってる最中、俺はコイツを少し可哀想だと思ったが、それでも俺はコイツに同情しないと決めている。


 確かに、コイツがいなければ、ここまで来れなかった。

 回復量は微々たるものだが、その積み重ねが無ければ、俺は98層で死んでいた。


 だけど、そもそもの俺の怪我の原因もコイツなのだ。

 左腕さえ動けば、俺はもっとラクに戦える……。


「行くか……」


「優くん……優くんなら、勝てるよ……」


「……喋るなよ」


 俺は立ち上がり、門を開いた。

 中に入ると、目の前には91や98層とまるで同じ光景が広がっている。

 ここまで同じものを見せられ続け、絶望が極まってくると、ループものの主人公がどれだけ苦しいのか実感出来る。


「俺はコイツと対面するのが三回目なぶん、まだマシなのかもな……」


 もっとも、俺は一度でも死ねばアウトどころか……怪我すら出来ない縛りプレイ中だが……。


「さあ、流石にお前もここより上にはいないんだろう……?」


 松明が灯っていき、暗闇が僅かに明かりを受け、その最奥にレベル3000のインペリアル・ストライカー・ゴーレムが輝いている。


「決着付けようぜ」


 俺は背からトライデントを下ろし、敵に向けてそれを構えた。


「糞野郎がよ」

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