27話 人事を尽くして天命を待つ
俺はイン・ストの攻撃を全て躱し、敵の懐に飛び込んだ。
突き刺した槍は強固な鎧に弾き返され、俺は即座に退いて敵の斬撃を回避する。
続く斬撃を跳ねて回避し、その次を身を捩って回避し、さらに続く攻撃を、敵の剣の峰をギリギリで蹴って回避する。
「畜生め……!!」
戦闘が始まってから15分、俺とインペリアル・ストライカー・ゴーレムの拮抗は未だ保たれたまま、互いに致命的な一撃は加えられずに、俺たちの戦いは小競り合いに終始していた。
敵の攻撃パターンは把握した。
防御の固さも理解した。
だけど、攻略法が見つからない。
「はぁ!!」
敵の刃を躱し、地面から現出する砂の蛇を両断し、俺は次に来る一撃をすんでのところで躱し、その剣の刀身を蹴って一度に間合いを詰めた。
「これで――!!」
俺は敵の右腕を薙払い、イン・ストは悲鳴を上げる。
このやり取りを既に30回はしている。
門の情報にはコイツの弱点は右腕とあった。
しかし、あれは真正面から攻略する際のための情報であって、俺みたいな単機で挑む気狂いのことなど考慮していない。
本来、インペリアル・ストライカー・ゴーレムは、高位ギルドが30人で組んで挑むレイドボスなのだ。
それを単機で倒すだけでも褒められていい偉業だと思うのだが、コイツの場合、その本来の姿よりも700近くもレベルが高い。
攻略技が無ければ、俺の与えるダメージなど些細なものだ。
「腕が……っ」
右腕の限界が近い。
俺はイン・ストのあらゆる部位にダメージを与えているが、多段ヒットが見つからない。
「運営め……俺に気付いて調整しやがったな……」
真下からの突き上げ、あの部位に、多段ヒットが発動しないのだ。
イン・ストは炎を巻き上げ、俺はトライデントを回して防御する。
「ぐぅうううああああああ!!!」
一定時間ごとに回避不能技が来る。
これが来るために俺は持久戦という作戦が取れない。
腕がイカれてしまいそうだ。
だが、俺は敵の炎が収まったと同時に、駆ける。
回避不能技はプレイヤーに一方的に負担を押し付ける技だ。
だからこそ、この大技の直後にはバランス調整のための硬直時間が用意されている。
「ぁがああああああああ!!!!!!」
俺は敵の右脇腹を突き刺しに行く。
既に敵のあらゆる部位を突き刺し尽くしている。
あそこに多段ヒットが無ければ……
俺は死ぬ!!!!!
「うるせえ!! 死ぬのは、てめぇだ!!!」
俺は全力を以て、自分の何もかもを賭けた究極の一撃を放った。
そして、そこに奇跡は在った……。
三段……いや、四段ヒット……。
イン・ストは一定ダメージ毎に発生する大きなよろめきモーションを発し、俺はこの機を逃さず二度、三度、四度とトライデントを全力で突き刺し、薙払い、斬り捨てる。
新イン・ストはこの部位にしか弱点がない。
だから、この脇腹を攻撃できるタイミングに全火力を集中し、それ以外は全て耐えるのだ。
俺は敵の体勢立て直しギリギリまで脇腹を削り続け、その瞬間に背後へと跳んだ。
巨大な剣が辺り一帯を薙払い、その直後に薙払い範囲に火柱が立つ。
新イン・スト特有の新技だ。
俺はその攻撃を確実に躱し、続く連撃を回避する。
次に脇腹をさせるタイミングは、回避不能技の直前だ。
そのタイミングで勝てなければ……。
「行くぞ……」
俺は構え、そのタイミングを見逃さないように全神経を集中する。
ダメージ計算は出来てない。あらゆる部位を攻撃していたから。
だから、あとは神に祈るのみ……。
「人事は尽くす……だから……」
天命よ、俺には待つ暇が無いんだ……。
駆け、敵の剣を紙一重で回避し、懐へと飛び込む。
目前の脇腹に怒濤の連撃を放ち、俺は右腕が壊れる勢いで全てを賭ける。
「死んでくれえぇええええ!!!!!!!!」
全部、一切合切を賭けたその猛攻撃にイン・ストはよろけ、俺はさらに追加の「全て」を叩き込む。
「ぅううううおおおおおおお!!!!!!!」
そして、イン・ストは沈黙した。
俺は勝利を悟り、こう呟いた。
「緊急……離脱!」




