表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

26/32

26話 それでも俺は、絶望の中を往くしかない

 俺は94層のゲツヴォァヌリウスを撃破し、続く95層、96層、97層の敵も撃破した。


 各層の敵は95層「巨人ディアニス・ソソス Lv1000」、96層「灰忌竜 Lv1000」、97層「歌姫ウンディーネ Lv1050」だった。

 どれも条件はゲツヴォァヌリウスと同じで、第一ワールド製のモンスターかつ、イン・スト以下の相手だったので、ノーダメでここまで登ることが出来た。


 しかし、次の相手はそうも行かないようだ。


 インペリアル・ストライカー・ゴーレム(Lv1500)

 弱点属性:炎

 弱点部位:右腕


 俺は既に、この表示を十回以上見直している。


「マジで……?」


 91層で戦った「イン・スト」が、501もレベルが上がって帰ってきた。

 セブンイレブンのかさ増し弁当が「食べやすいお手頃サイズで帰ってきた」どころの騒ぎではない。


 俺はゲツヴォァヌリウスは簡単に倒せた。

 巨人ディニス・ソソスは少しだけ苦戦した。灰忌竜も苦戦し、ウンディーネと戦う時には苦痛を感じていた。


 それは何故か……?


「コイツも……弱点属性と弱点部位が変わってやがる……」


 階が上がるごとに、魔物の行動の規則性が失われていくのだ。

 94層より95層が、95層より96層が、96層より97層が……徐々に、第一ワールドと違う行動パターンで魔物が動くようになっていく。


 つまり、同じ名前でも全く別の魔物と考えたほうが話が早いというわけだ。

 それでもウンディーネまではまだ戦えた。

 だが、これからは今まで使ってきた攻略技が使えなくなり、正面戦闘を余儀なくされる。


 しかも敵のレベルはここに来て1500ときた。


「戦いながら傾向を探って、攻略法を見つけるか、普通に頑張って倒すか……」


 どちらにしても、絶望的だ。


 俺はリナのほうに歩いて行く。

 気絶したリナを叩き起こし、なけなしの魔力で回復をかけさせるのだ。


「オラ起きろ雑魚!!」


「ん……あ、ぅ……」


 リナは目を覚ますと、俺を見て怯え出す。


「か、回復します……! 回復するから……もう叩かないで……! お願い……!!」


「だったらとっとと掛けろ!!」


 リナは回復魔法を俺にかけ、俺は右腕の痺れが僅かに緩和する。


「これっっぽっちか……?」


 俺の問いにリナはビクリと肩を揺らし泣き始めるが……。

 こんな状態じゃ、Lv1500の新イン・ストに勝てるかどうか分からない。


「リナ、この戦いはどうしても勝たなきゃならないんだ……。100層に辿り着いたら、お前のことも解放してあげるから、あるだけ全部、俺への回復に回してくれ。俺だって辛いんだ……。もう腕が痺れて感覚が無いんだよ……。頼むから……」


 解放するくだりは嘘だが、それ以降は全部本当だ。

 このパーティにはタンクがいない。姫乃が死んだからだ。


 だから、俺は敵が回避不能技を出すたびにトライデントで受けるしかない。

 しかも、俺の左腕はとっくの昔に動かなくなっている。


 全ての負担が、右腕にかかっているのだ。


「ぞん゛な゛ごど言っだっで!!! 無いもん゛……!! 無いの゛ぉ゛!! も゛う゛許じでええ!!!!」


 泣きわめくリナに俺は何も言えずに俯いた。


 リナは嘘を言ってない。

 この短時間で、リナの装備やプレイスキルから逆算すると、この回復量は全て辻褄があうのだ。

 あってしまうのだ……。


「もっと早く、回復時間を早める方法を取るべきだったな……」


 俺はここまでリナを気絶させ続けた。

 それは、リナが裏切って、全ての魔力を自分の回復に使うことを恐れたからだ。


 リナを信用していれば、もう少しは回復出来たはずだ……。


「でも……」


 俺はリナのほうを見る。

 リナは泣きながら、ずっと俺に対して謝っている。


 コイツの謝罪が本心かどうかすら怪しいのだ。

 信用するなど……。


「仕方が無い。リナ……今回はこの回復量で許すが、次はもっと回復させろ。出来なければ殺す」


「む、無理だよぉ!! だって、だって私回復効率のことなんて何も知らないよぉ!!」


「今俺が教える。だから、気絶はさせない。今ここで全部頭の中に叩き込んで、最高効率で魔力を充填しておけ!!」


 俺の命令にリナは泣きじゃくる。

 俺はそれを殴って黙らせ、顔を掴んでこちらに向かせた。


「いいか、今から教えるぞ……。俺がこんなになって戦ってるのは、お前が姫乃を殺したせいなんだからな……。姫乃のぶんの穴埋めはしっかりとしてもらうからな……」


 俺は手を離し、涙をこぼすリナに、ヒラの基礎から応用まで、全てをここで叩き込むことにした。

 そうして全てをリナに教え込み、俺は門を開く。


 このNZOがヘラの怨恨の手中にあるという事実は、未だ以て何も変わらないのだ。

 刻一刻と人々は死に、世界の危機は迫っている。

 いつ、あいつらが新たなヘラを送り込んでくるか分からない。


「一秒でも早く、原始なる滴を破壊しないと……」


 俺はトライデントを背から下ろし、震える手でその三叉槍を担う。


 扉が閉まり、次々と松明が灯り、その最奥にはインペリアル・ストライカー・ゴーレムの巨躯が佇んでいる。


「行くぞ……ッッッ!!!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ