26話 それでも俺は、絶望の中を往くしかない
俺は94層のゲツヴォァヌリウスを撃破し、続く95層、96層、97層の敵も撃破した。
各層の敵は95層「巨人ディアニス・ソソス Lv1000」、96層「灰忌竜 Lv1000」、97層「歌姫ウンディーネ Lv1050」だった。
どれも条件はゲツヴォァヌリウスと同じで、第一ワールド製のモンスターかつ、イン・スト以下の相手だったので、ノーダメでここまで登ることが出来た。
しかし、次の相手はそうも行かないようだ。
インペリアル・ストライカー・ゴーレム(Lv1500)
弱点属性:炎
弱点部位:右腕
俺は既に、この表示を十回以上見直している。
「マジで……?」
91層で戦った「イン・スト」が、501もレベルが上がって帰ってきた。
セブンイレブンのかさ増し弁当が「食べやすいお手頃サイズで帰ってきた」どころの騒ぎではない。
俺はゲツヴォァヌリウスは簡単に倒せた。
巨人ディニス・ソソスは少しだけ苦戦した。灰忌竜も苦戦し、ウンディーネと戦う時には苦痛を感じていた。
それは何故か……?
「コイツも……弱点属性と弱点部位が変わってやがる……」
階が上がるごとに、魔物の行動の規則性が失われていくのだ。
94層より95層が、95層より96層が、96層より97層が……徐々に、第一ワールドと違う行動パターンで魔物が動くようになっていく。
つまり、同じ名前でも全く別の魔物と考えたほうが話が早いというわけだ。
それでもウンディーネまではまだ戦えた。
だが、これからは今まで使ってきた攻略技が使えなくなり、正面戦闘を余儀なくされる。
しかも敵のレベルはここに来て1500ときた。
「戦いながら傾向を探って、攻略法を見つけるか、普通に頑張って倒すか……」
どちらにしても、絶望的だ。
俺はリナのほうに歩いて行く。
気絶したリナを叩き起こし、なけなしの魔力で回復をかけさせるのだ。
「オラ起きろ雑魚!!」
「ん……あ、ぅ……」
リナは目を覚ますと、俺を見て怯え出す。
「か、回復します……! 回復するから……もう叩かないで……! お願い……!!」
「だったらとっとと掛けろ!!」
リナは回復魔法を俺にかけ、俺は右腕の痺れが僅かに緩和する。
「これっっぽっちか……?」
俺の問いにリナはビクリと肩を揺らし泣き始めるが……。
こんな状態じゃ、Lv1500の新イン・ストに勝てるかどうか分からない。
「リナ、この戦いはどうしても勝たなきゃならないんだ……。100層に辿り着いたら、お前のことも解放してあげるから、あるだけ全部、俺への回復に回してくれ。俺だって辛いんだ……。もう腕が痺れて感覚が無いんだよ……。頼むから……」
解放するくだりは嘘だが、それ以降は全部本当だ。
このパーティにはタンクがいない。姫乃が死んだからだ。
だから、俺は敵が回避不能技を出すたびにトライデントで受けるしかない。
しかも、俺の左腕はとっくの昔に動かなくなっている。
全ての負担が、右腕にかかっているのだ。
「ぞん゛な゛ごど言っだっで!!! 無いもん゛……!! 無いの゛ぉ゛!! も゛う゛許じでええ!!!!」
泣きわめくリナに俺は何も言えずに俯いた。
リナは嘘を言ってない。
この短時間で、リナの装備やプレイスキルから逆算すると、この回復量は全て辻褄があうのだ。
あってしまうのだ……。
「もっと早く、回復時間を早める方法を取るべきだったな……」
俺はここまでリナを気絶させ続けた。
それは、リナが裏切って、全ての魔力を自分の回復に使うことを恐れたからだ。
リナを信用していれば、もう少しは回復出来たはずだ……。
「でも……」
俺はリナのほうを見る。
リナは泣きながら、ずっと俺に対して謝っている。
コイツの謝罪が本心かどうかすら怪しいのだ。
信用するなど……。
「仕方が無い。リナ……今回はこの回復量で許すが、次はもっと回復させろ。出来なければ殺す」
「む、無理だよぉ!! だって、だって私回復効率のことなんて何も知らないよぉ!!」
「今俺が教える。だから、気絶はさせない。今ここで全部頭の中に叩き込んで、最高効率で魔力を充填しておけ!!」
俺の命令にリナは泣きじゃくる。
俺はそれを殴って黙らせ、顔を掴んでこちらに向かせた。
「いいか、今から教えるぞ……。俺がこんなになって戦ってるのは、お前が姫乃を殺したせいなんだからな……。姫乃のぶんの穴埋めはしっかりとしてもらうからな……」
俺は手を離し、涙をこぼすリナに、ヒラの基礎から応用まで、全てをここで叩き込むことにした。
そうして全てをリナに教え込み、俺は門を開く。
このNZOがヘラの怨恨の手中にあるという事実は、未だ以て何も変わらないのだ。
刻一刻と人々は死に、世界の危機は迫っている。
いつ、あいつらが新たなヘラを送り込んでくるか分からない。
「一秒でも早く、原始なる滴を破壊しないと……」
俺はトライデントを背から下ろし、震える手でその三叉槍を担う。
扉が閉まり、次々と松明が灯り、その最奥にはインペリアル・ストライカー・ゴーレムの巨躯が佇んでいる。
「行くぞ……ッッッ!!!!」




