25話 ううぅうううう……ぐるじぃいいいいい!!!!!!!!!!!!!!
俺は気絶したリナを引きずりながら94層へと辿り着く。
ヤクシャは強敵だったが、幸いなことに身体的なダメージはゼロに等しい。
あれもこれも、全ては姫乃のお陰だ。既に彼女は死んだというのに、俺は未だに姫乃におんぶに抱っこの状態だ。
「はぁ……はぁ……」
門の前で、俺は切れる息を整える。
ノーダメとは言え、気力と体力は順当に消耗している。
最低限以下の回復しか期待出来ない糞ヒラのリナがいるとはいえ、タンクも無しに、アタッカー一人でここまで来られたのは半ば奇跡に近いものを感じてしまう。
俺は敵の情報を確認し、絶望し、呆然とその場に立ち尽くした。
海竜ゲツヴォァヌリウス(Lv1000)
弱点属性:なし
弱点:不明
ゲツヴォァヌリウスは第一ワールドのボスモンスターだ。
大した相手ではなかったが、俺が絶望したのはこのモンスターそのものにではない。
「Lv1000って……このゲーム、Lv999が上限だろ……?」
さっきまでの敵とたった1レベ違いじゃないか。
大した違いはないだろう?と思うかもしれないが、確かにそうだ。
確かにそうなのだが……。
「ここ、94層だよな……」
この上には……95、96、97、98、99、100層がある。
ここから上の六体は……一体レベルがどうなっているのか想像も付かないということだ。
俺は震える足をなんとか収めようとするが、どうしても言うことを聞いてくれない。
仕方が無いから座り、俺は敵情報のプレートを眺め、泣きそうな顔で空を見上げた。
「疲れた……本当に疲れた……。泣きたい……つらい……」
俺はぽろぽろと涙を流し、これまでの戦いを振り返る。
つい昨日戦ったアタッカー一位の根岸
ついさっき33層で戦ったケラウノス持ちの山岸
90層で戦ったヘラの怨恨
91層のインペリアル・ストライカー・ゴーレム
92層のマーキュリー・テンペスト・ウィザード
93層の夜叉-ヤクシャ-
こうして見てみると、俺は昨日の今日で凄まじい激戦を繰り広げ過ぎている。
たった二日で、ラスボス級の相手を三体、トップランカーを一人に、糞野郎を二人潰した。
だけど、よくよく考えてみれば、今俺が苦しんでいるのは、全部リナのせいだ。
精神的にもそうだし、肉体的にもそうだ。
俺の記憶が正しければ……俺は、リナ以外からは一度もダメージを受けていないのだ。
俺がこれだけの致命傷を受けて、こんなに死に物狂いで戦っているのは、全部リナにナイフで滅多刺しにされたことが原因なのだ。
「はぁ……はぁ……。糞過ぎる……! 糞女過ぎるぅ……!!」
俺は涙を流しながらリナのほうを見る。
コイツ一人いなければ、俺はこんなに満身創痍にならずに済んだし、姫乃も死なずに済んだのだ。
山岸もヘラの怨恨も、本当は大した相手ではなかったのだ。
なのに、俺は、コイツのせいで……。
「うぅううう~……!!!! ぐるじいぃいいい!!!」
胸を押さえ、俺は泣く。
信じていた嫁が、最も付き合いの長い幼馴染みが、昔からの大親友が、あのリナなのだ。
それが、俺を最初に裏切ってから、まだたったの二日しか経っていない……。
「なんでこんな酷い目に遭わなきゃいけないんだよ……」
俺は立ち上がり、門を開いた。
あれ以上リナの傍に居たくなかった。
戦いの中に身を置いていたほうが、悲しいことを忘れられて気が楽だ。
「身体は死ぬほど痛いし辛いけど……でも、俺はみんなを助けなきゃいけないから……」
俺はガタガタ震えながら海竜ゲツヴォァヌリウスと対峙する。
別に、コイツの攻略法は「魔天」や「イン・スト」と同じく頭の中に叩き込んである。
ノーダメでクリアするのは容易いだろう。
だけど、この上でどんな絶望が待っているのか分からない以上、俺はこの恐怖を背負いながら戦うしかない。
絶望と、苦しみと、悲しみと、孤独と……
あらゆるものを背負い、俺はLv1000のゲツヴォァヌリウスに、トライデントを構えた。