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24話 姫乃……もう少しだけ……君を連れていくよ……

 93層のボスは、俺の知らない魔物だった。


 夜叉-ヤクシャ-(Lv999)

 弱点属性:不明

 弱点部位:眼球


「ここに来て第二ワールド製のボスが来たか……」


 弱点属性については、もう今さらどうしようもない。

 問題は弱点部位が眼球という点だ。


「ヤクシャ……インド神話の鬼神の名前か……これは手強そうだな」


 俺はリナのもとへと行き、勢いよくリナの腹を蹴飛ばした。

 リナは噎せ返り苦しそうにこちらを見上げる。


「酷いよ優くん……あんまりだよ……」


「俺を回復しろ」


「無理だよ! もう魔力がすっからかんだよ!!」


 俺は再度リナの腹を蹴った。

 リナは泣きながら喚くが、そんなことはどうでもいい。


 俺の身体はコイツのせいでボロボロなんだ。普通ならボスラッシュどころか、中級ダンジョンすら生き残るのが難しいくらい俺の身体は疲弊している。

 そんな身体での初見ボス狩り……しかも「魔天」や「イン・スト」並みの相手と戦うなんて、到底正気の沙汰ではないのだ。


 だが、俺は今からそれをしなくちゃならない。

 俺がこのヤクシャとかいう奴を倒して、その上の残り7体のボスを倒さないと、NZOプレイヤーが全員死ぬ。

 いや……それだけで済むならまだマシだ。

 この戦いには日本……いや、全世界がかかっているのだ。


「無理じゃねえ。魔力がすっからかんだぁ? よく言うぜ、俺がボス二体倒している間に多少の魔力は貯まったはずだ。それを全部吐けって言ってんだ……」


「酷いよ……私を怪我させて、それを回復させるぶんの魔力も取るって言うの……?」


「お前は自分の怪我と、NZOプレイヤー全員の命……どっちを選ぶんだ?」


「………………」


 リナは奥歯を噛み、顔を伏せる。


「選択肢は与えたが、選択権はねえぞ。NZOプレイヤーの中にはお前も含まれるんだからな……」


「分かったよ……」


 リナはあるだけ全ての魔力を俺の回復に使った。

 本当にカスみたいな回復量だが、この回復のお陰で頭痛が少しだけ引いた。


「無いよりマシか……俺が戻ってくるまで、一ミリも魔力は使うなよな」


 俺は扉へと向かおうとして、気が変わってリナの後頭部をトライデントで殴り付けた。


「気絶させとかねえと信用できねえからな……」


 俺は門を開き、中へと入る。


 真っ暗闇の部屋の中、門が閉まり世界は漆黒に包まれる。

 和風のBGM……能のような音楽が部屋中に響き回り、部屋の中央に一本のロウソクが灯る。


「なるほど……」


 畳の上を行き、ロウソク越しに敵を見据える。

 鑑定しても大した情報は得られないが、一応万全を期して視ておく。


 しかし、その情報は異常だった……。


「HP1だと……?」


 夜叉-ヤクシャ-は能面を付けた鎧武者だ。

 そして、その右目は煌々と青く輝いている。


「一撃でも攻撃が入れば勝ち……つまり、それだけ強いというわけか……」


 敵は一本の大太刀を鞘から引き抜く。


 瞬間、俺とヤクシャは激しく火花を散らして鍔迫り合う。


「……ッ!!」


 俺は足を踏ん張り、敵の斬撃に槍を押し付ける。


 一の太刀、二の太刀、三の太刀と続き、四の太刀……。

 全ての攻撃が必殺と言っていいほどの剣捌き……。


 俺は敵の剣を弾き、ひとまず間合いを開ける。


「クソが……プレイヤーより強いじゃねえか……」


 ヤクシャは跳ねながらこちらへと間合いを詰める。

 敵は恐らく剣技に特化した魔物だ。

 しかしいつ変化球を出してくるか分からない。

 こいつがイン・スト並みの敵だと言うなら、油断をすれば一瞬で死ぬ可能性があるからだ。


「はぁ――ッ!!」


 俺は敵の初動を見抜き、死角へと潜り込んだ。

 槍を突き上げ右腕の付け根、肩の辺りに致命傷を与える。


「勝った……! 何!?」


 俺はヤクシャの腕を吹き飛ばし残心を取りながら距離を取るが、直後、俺の視界には斬ったはずの腕がヤクシャの肩に引き寄せられるのが映る。


 ヤクシャは引き寄せた腕を元通りに戻すと、こちらを挑発するように大太刀をゆらりと回す。


「これは……弱点以外はダメージゼロってことだな……」


 つまりだ、この敵を倒すには、神憑った剣技を躱しつつ、敵の弱点である右の眼球ただ一点を正確に突かなければならないわけだ。

 しかも相手は機動性に富み、こちらは左手が使えず、かつノーダメでクリアするという縛りがある。


「姫乃さえいればな……」


 俺はぼやきつつ、瞬時に最善解を導き出す。

 それはどう考えても無茶な作戦だったが……今の俺には、装備もアイテムも仲間もいない。


「行くぞ……かかってこい、目ん玉野郎……!!」


 俺が踏み込んだ瞬間、ヤクシャは俺を越える速度で跳躍し、その間合いをゼロへと詰める。


「ッ!」


 激しい一撃を右手だけで受け止め、そのままトライデントを振りかざす。

 牽制に牽制を重ね、致命傷を入れる隙をどうにか作ろうと苦心する。

 しかし、ヤクシャはその隙を与えない。


「畜生……クソアタッカー一位並みじゃねえか……!」


 根岸の動きはタンク一位の姫乃だからこそ対応出来た。

 その後のトドメは、硬直状態の根岸をユニークスキルとトライデントで一方的に虐殺したに過ぎない……。


 トップランカーと言えど、俺は器用貧乏で、何か一つに特化した相手には圧されやすい。

 だが……


 俺は左腕をヤクシャへと突き出す。

 あまりにも無防備な一撃。しかも、素手であるためノーダメに近い。


 ヤクシャはこれを確実に斬り落としにかかる。

 コンマ数秒の最中、ヤクシャの大太刀は空を斬り、その瞬間、相手は死を悟っていた。


「そうだよな……姫乃……。お前は、まだ俺に力を貸してくれているんだよな……」


 俺は左手で殴りにかかったワケじゃ無い。

 視線誘導効果のある、姫乃のドレスを使って、隙を作っただけだ。


「うぅおおおおおおおお!!!!!!!1」


 俺は全力で左手を退き、その反動を利用して、右手のトライデントでヤクシャの目を貫く。

 次の瞬間、俺はイン・ストの自爆を想定し、"緊急離脱"を発動し門の手前へと退く。


 刹那、ヤクシャは俺の想定通りに、神技染みた剣技を縦横無尽に繰り出したと思うと、そのまま砂になって崩れ落ちた。


「足掻くタイプは初見殺しすぎるからな……」


 俺は左手に纏った姫乃のドレスを撫で、その場に崩れるようにして座り込む。

 今の敵は神経を使うタイプだった。

 気力を使い果たし、立てなくなったのだ……。


 もう暫くして気が回復したら、門の外に出よう。


「姫乃、ありがとう……。それにしても……」


 まだ、93層か……。

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