23話 死んでくれ頼む……もう何もかもが嫌だ!!リナ!!てめえのせいだよ!!姫乃……なんで俺の前から消えたんだ……!!
俺は続く92層の柱にリナを縛り付ける。
「優くん! これ解いて!! 謝るから!! 私が優くんを刺したことを怒ってるんだよね……? 私、もう二度と優くんにあんなことしないから!!」
「うるっせええええええ!!!!! もうお前の声なんて聞こえませ~~~ん!!!!!」
俺は門の前に立ち、次のボスの情報を確認する。
マーキューリー・テンペスト・ウィザード(Lv999)
弱点属性:炎
弱点部位:箒
「チッ……クソ面倒くせえ敵出しやがって……」
「優くん……!!」
「黙ってろ虫ケラが!!」
俺はリナの腹を蹴飛ばし、ゴミを見るような目で彼女のことを見下した。
天使のような顔を苦悶に歪め、リナはぽろぽろと涙をこぼす。
「優くん……私、本当に反省してるの……。もう、刺したりしないから……裏切らないから……」
「裏切った自覚があるなら、この戦いが終わるまで一人で懺悔していろ……」
俺はリナの泣きわめく声を背に、門を開いた。
俺が部屋に入ると、門が勢いよく閉まり、部屋中の水晶が輝き出す。
「ヒヒヒヒヒ……」
頭上から現れたマーキュリ-・テンペスト・ウィザードを、俺は何もせずにただ見送る。
コイツは第一ワールドの期間限定マップで挑戦者の九割以上を殺した曰く付きの魔物だ。
一部の輩からはインペリアル・ストライカー・ゴーレムより強いとさえ噂されている。
「ま、噂の域は出ねえけどな……?」
俺はトライデントを地面に刺し、その上によじ登る。
「ほらな?」
壁、地面、オブジェクト、あらゆる場所に毒状態が付与され、魔天はこちらに突撃してくる。
俺は手慣れたやり方でトライデントの上をぴょんと跳ね、魔天の突撃攻撃を回避する。
「ってな感じで、50秒おきにこれ繰り返してくるのが怖いだけで、回避方法さえ分かれば怖くないんでちゅよぉ~?」
俺が着地する頃にはマップ内の毒は退いている。
魔天攻略が難しいとされたのは、すべてこの毒が原因だ。
少しでも触れると、5秒おきに体力の一割を持って行かれる。
壁や地面、テーブルの上でさえ回避不可能。ジャンプしても飛んでも、突撃攻撃で跳ねられ毒を受ける。
しかし、あくまで敵はNPCだ。
動きのクセさえ掴めば躱すのはそう難しいことではない。
「ま、九割がそれさえ出来なかったわけですが……」
俺はトライデントを投げ、箒に跨がる魔女を串刺しにする。
「"緊急離脱"……」
突き刺さったトライデントまで跳び、俺は魔天の首根っこを掴み、何度も何度も槍を突き刺してやる。
「オラ死ね死ね死ね死ね死ねやオラ!!」
コイツは当り判定が小さくて飛び回るため、攻撃が滅多に当たらない。
ただ、俺はコイツに掴まって絶対に離さずにひたすら刺しまくる戦法を見つけ出し、このダンジョンを鎖鎌片手に何往復もした。
鎖鎌なんてマイナー装備、誰も使ってなかったし、期間限定ダンジョンだったから俺も攻略サイトに書く時間を惜しんで自分だけでこのクエストを占領していた。
イン・ストよりコイツが怖いと言っている奴は、試行錯誤をしなかっただけだ。
「ほら、雑魚でちゅね~! オラオラ死ねやオラァ!!!」
俺は魔天のHPを串刺しだけで全て削りきり、92層をクリアした。
91層のイン・ストでビビっていたが、92層がこれなら93層以上も案外簡単かもしれない。
「まあ、俺としてはありがたいがな……リナのせいで身体中がいてえし、これ以上ダメージ喰らったらマジで立てなくなりそうだからな……」
門を出て、リナのもとへと向かう。
「優くん……!」
怯えた顔で俺を見上げるリナに、俺は嫌悪を示す。
元はと言えば、お前が三股して、挙げ句俺のことを二度も刺して、姫乃を殺したことが悪いんだろ……!!
「行くぞ……」
「うん……」
俺はリナを引きずって93層へと登る。
地上は遥か遠くに小さく見えるが、ここから上は雲の上になるため、もう下界を見ることは出来ない。
姫乃とはもう会えない。
他のプレイヤーたちも、遥か下の街でデスゲームに怯えて暮らしている。
ここから上には、俺とリナしかいない。
「吐き気がするぜ……」
高層の澄んだ空気を吸い、リナを見て言う。
「もしここで俺が死んだら、お前もまず生きては戻れない。お前は弱いからな……」
リナには何度もヒラの動きを教えた。
強い武器の組み合わせや立ち回り、装備品の重要性……何もかもを教えた。
だけど、リナは別にNZOが好きなわけじゃない。
俺の言ったことは何一つ覚えていないし、コイツの脳内にはイケメンとヤることしかない。
だから、リナが独力で1層まで降りることは不可能だ。
「デスゲームらしくて楽しいなぁ、リナ? ええ? 命が賭かりまくってるぜ? まあ、せいぜい俺がこのボスラッシュで全勝出来ることを祈っててくれや……」
俺は93層へと登り切り、リナを柱に縛り付けた。
「クソ女がよ……」