21話 激闘の末に……
次に俺が目覚めた時、何もかもが終わっていた。
俺の腹の傷は治っていて、傷口には黒い布が巻かれていた。
そしてすぐ傍らには回復薬の空き瓶が転がっている。
顔を上げると、そこには気を失ったリナが倒れていた。
NZO第二ワールドでは、死ねばプレイヤーは消滅する。
つまり、彼女は気絶しただけということだ。
「姫乃……?」
俺は立ち上がり、辺りを見回す。
リナに何度も刺されたせいで腹が痛む。
神経がやられたのか、左腕の肘から先が動かない。
だが、今はそんなこと気にしていられる状況じゃない。
「姫乃……いるんだろ? どこだよ……姫乃! 返事をしてくれ!!」
俺が叫んでも、誰も返事をしてくれない。
ただ虚しく残響がこだまするだけだ。
「姫乃……」
俺は自分の傷に巻かれていた黒い布をはずした。
それは血に濡れたぼろぼろのドレスだった。
リディアの街で一緒に買った、あのドレスだ……。
俺は膝から崩れ落ちた。
「なんだよ……畜生……ぐぅぅうう……ッ!!!」
俺は地面を殴り、それから部屋の隅で泣いているヘラのもとへと歩み寄り、その肩を掴んで勢いよくこちらに引っ張った。
「ご、ごめんなさい! ごめんなさい!」
「おいてめえ!! 起きてたんだろ? あれから一体何があった? 姫乃はどこに行った生きてんだろそうだろなあ!!!」
「……ッ!! う、ぅ……あれから、リナさんが姫乃さんのあまりの気迫に気絶してしまい、それから……回復薬と自分のドレスを……それで、あとは……ごめんなさい……もう言えま゛ぜん゛!!」
「クソがよッッッ!!」
俺はヘラを蹴飛ばし、それからリナのもとへと歩んでいく。
クソ女は意識を失っている。ここでぶっ殺さねえと姫乃が報われない。
「……クソが」
俺はポーチから縄を取り出し、リナを縛り上げた。
それからヘラをぶん殴り、気絶させてコイツも柱に縛ってやる。
「これでパンデモニウムには、満身創痍の俺しかいないってわけか……。残り10層……」
俺はこのクソみてえな塔の上を見上げる。
塔は上に行くに従って先細りしている。
そして恐らく、ここから上にはダンジョンがない。
「10連続ボスラッシュ、アタッカー単機でのノーミスクリア縛りか……。いくらトップランカーでも流石にキツいよな……」
俺はヘラの持ち物を漁り、使えそうな武器や道具を軒並み自分の持ち物に加えていく。
そして姫乃の血だらけのドレスを左腕に巻いた。
このドレスには視線誘導効果がある。
もう使い物にならない左腕だ。
接近戦で少しでも優位に立つために、左腕は使い捨てる。
「姫乃、俺はお前に助けられてばかりだったな……」
よく考えれば、俺はリナじゃなくて姫乃を選ぶべきだった。
アイツは、いつも俺のために頑張ってくれて、趣味もあうし、最高の友達だった。
「……恋人に気を取られて、友達を蔑ろにしてたのか。俺は……」
本当に、糞野郎だ。
俺はリナを縛り上げた縄を掴み、それを引きずって91層へと登っていく。
コイツは、100層で痛めつけて、塔から落とす。
そして最後に原始なる滴を破壊してゲームセットだ。
「さあ行くぞ、クソ女……」
トライデントを背負い、俺は後悔と共に前に進む。
「待ってろよクソ共が……。全部まとめてぶっ殺してやるからよ……」