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20話 ああああああアアアアアア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 俺は混乱しながら、ひとまずポシェットから回復薬を取り出した。

 まずは回復しなければどうしようもない……。


 俺が取り出した回復薬を、リナは取り上げた。


 俺は失血のせいで力がでない。

 朧気な視界の中、リナが回復薬を向こうへ投げたのが見えた。


「リナ……なんで……」


「ひぐ……ぐすっ……。優くん、分かって……。私もこんなことしたくないの……」


 じゃあすんなよマジで……。

 理解出来ねえよ。本当に理解出来ねえよ……。


「リナ……お前、頭おかしいよ……」


「酷いよ優くん……何で、なんでそんなこと言うの……?」


「なんでって……」


 俺はヘラのほうを見た。

 ヘラはガタガタ震えながら目を逸らし、それから手で顔を覆った。

 隙間から流れる透明の滴は涙だろうか。あまりの状況に泣いてしまったらしい。


「顔が良ければそれでいいのか……? 性格とか、想い出とか、尽くしてくれたりとか……そういうのはどうなんだよ……」


「でも゛……! だっでぇ゛……! うわぁあああああああんん!!!!」


 泣き出すリナに俺は身体の冷えを感じながら何も言えずにいる。

 もう失血が激しくて助かりようがない……何とか回復しないと……。


「リナ、分かった。泣かないで……」


 俺はリナに交渉を持ち込むことにした。


「俺はリナが浮気しても、もう気にしないよ……。リナの好きなようにしていい。リナが好きな人と付きあえばいい。夜、誰と寝ようが俺はもう何も言わないから……」


「ぞれ゛じゃ゛嫌゛ッッッッッ!!!!!!!!」


 リナが号泣しながら絶叫した。

 絶叫というよりはもはや咆吼だ。

 その咆吼に隣のヘラはビクリと肩を揺らし、それから嗚咽を漏らし始めた。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……もう悪いことしません……もう核撃ちません……もう電磁波照射(EMP)とかサテラタワー襲撃とかしません……。VRジャックしてごめんなさい……悪いことしてごめんなさい……」


 震える声で泣いているヘラの横で、俺はリナの思考回路のワケの分からなさに絶望していた。


「なにが嫌なんだよ……」


「だっで!! ぞれ゛じゃ優゛ぐんが私゛に興味ない゛みだいじゃんッッッ!!!!」


「おお……マジかよ…………」


 これもう打開策ねえな……。

 リナは俺以外の顔がいい男と寝たくて、でも俺はそれを認めちゃダメで、嫉妬しなきゃいけない。

 リナは不倫するために俺を刺すし、俺はそれを拒絶しても受け入れてもダメ……。


 俺は血が抜けて回らない頭の中に、ただ一つの単語を思い浮かべる。


 『絶望』


 もう、本当にもう無理だ。

 この気狂い女の前では俺は何も出来ない。

 こんな奴に惚れたのが間違いだった。

 一度でも信用したのが馬鹿だった。


 なにがリナは性根から腐ってるワケじゃない。俺は信じる。だ。

 信じた結果がこれじゃあ世話ねえよな……。


 俺は全てを諦めて天井を眺めた。

 もう、あと少ししたら俺は死ぬ。

 後のことは、もうどうにでも……


「うぅおぉおおおおおおおおおおおおあああああああああアアア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 刹那、絶叫が聞こえた。

 目の前のリナが吹き飛ばされ、拳を振り下ろした姫乃の姿が俺の目に映る。


「……姫乃!?」


 俺は真っ黒なドレスから大量の血を滴らせる姫乃を見上げ、何が起きているのか混乱していた。

 姫乃は俺に回復薬を投げ渡す。さっき、リナが投げたものを姫乃が回収していたのだ……。


 だけど……


「姫乃……ダメだ!!!」


 これは、俺が持っていた最後の回復薬なのだ。

 姫乃が血だらけで這っていたということは、彼女ももう手持ちの回復薬が無いということ……。


 姫乃も傷付いているのに、この薬を使わずに俺に手渡した。

 そして、彼女は出血も厭わずに立ち上がったのだ……。


「ぁああああアア゛ア゛!!!!!!!!!!!!!!!」


 姫乃は絶叫し、倒れたリナに突撃し素手で殴りにかかる。

 そうだ、姫乃は回避盾に特化するために武器に回す資金まであの血塗れのドレスに賭けたのだ。

 だから彼女がダメージを出すためには、その身一つで戦うしかない。


「あなた……優くんを取ろうとして!! この、女狐が!!」


「ぅうああああああアア゛ア゛ア゛!!!!!!!!!!!!」


 リナがナイフで喉を裂く。それでも彼女は攻撃の手を止めない。

 もはや言葉を発することさえ姫乃には出来ない。彼女はただ、俺を助けるためだけに死ぬ覚悟で、獣のように自らの命を投げ出したのだ。


「やめてくれ……頼む……姫乃ぉ……ッ!!」


 俺は回復薬を握り締め、彼女のほうへと這っていく。

 これを俺が使うわけには行かない。

 俺はもうここで死んでも構わない。

 苦しいことも悲しいことも、もう沢山なんだ。

 これ以上嫌な思いをするくらいなら、もういっそ死んだほうがマシだ。


 ……だけど姫乃は違うだろ!!!


 俺はリナに滅多刺しにされながら、それでも彼女を掴んで離さない姫乃に目を向け、泣き叫びながら這って行く。

 姫乃は腕を斬られ、腹を刺され、喉を裂かれ、それでも執念だけでリナの首を絞めている。

 眼球にナイフが突き入れられ、それを勢いよく深々と突き刺し、リナは自らの勝利を確信する。


「ぅううううぐううううう!!!!!!!!!!!」


 それでも姫乃は止まらなかった。

 リナは彼女のあまりの執念に恐怖し、ナイフから手を離し、自分の喉を絞め続ける姫乃の手を掴む。

 外そうにも、彼女の全てを賭けた力に為す術もない。

 リナはこちらを見て叫んだ。


「優くん!!! 助けて!!! 私コイツに殺されちゃう!!!」


「知るかクソ女ぁああああッッッ!!!! 姫乃……!! もうやめてくれ!! このままじゃ死んじまう……。もしお前が死んだら……俺はもう耐えられない!!!」


 俺は泣きながら這っていく。

 だけど、もう間に合わない。


「はぁ……はぁ……どうして……俺は……」


 こんなにも……無力なんだ……。

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