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2話 おいリナ……嘘だろ……? 嘘だと言ってくれ……!

 NZOの中では俺は勇者だった。


 絶海竜を一撃で屠る俺の姿に、別の場所から観戦していた中堅プレイヤーたちが拍手と歓声を送ってくる。


 正直この程度の敵なら朝飯前なのだが、これもファンサービスの一環ということで……


「いやあ絶海竜強いね! あとコンマ二秒は縮められると思ってたんだけどなぁ~」


「いや優さん凄いっすよ!! 俺なんて翼竜ですら苦戦するのに……!」


「翼竜は飛び立つタイミング掴まないとキツいからね」


 適当に会話し、適当なところで切り上げる。

 同行の士との会話は楽しいのだが、俺は家に愛するリナを待たせている。


「そういうわけだからさ、俺はそろそろ家に帰るよ!!」


「あ、優さん……」


「ん? まだ翼竜について聞きたいことでもあるの?」


「いや……その………………リナさんとのパートナーってまだ続いてんすか?」


「ん? 続いてるけど」


「ア、そっすか。いや、なんでもないんす。じゃあ、優さんも色々頑張ってください」


 なんだ?

 まあ、大した会話でもなかったし気にすることはないだろう。


 俺は最上級アイテム「イカロスの靴」で帰宅し、自宅の扉を開いた。


「山岸……山岸……!」


「リナ……リナ……!」


 ギシギシギシギシギシギシギシギシ…………


「……なんだ?」


 二階からリナの声がする。

 それに知らない男の声も……。


 山岸という名前は聞いたことがない。

 リナの友達でも遊びに来てるのだろうか……?


 それなら友達のためにお茶でも湧かして持ってくか。

 リナの友達だ。

 俺も仲良くしたいしな。


 俺は一階のキッチンで金鉄塊製のやかんにお湯を入れ、それを火に掛け沸騰するのを待つ。


「山岸……山岸……!」


「リナ……リナ……!」


 ギシギシギシギシギシギシギシギシ……!

 ギシギシギシギシギシギシギシギシ……!


「リナのやつ、何かアイテムでも作ってんのか……? 普段はそんなことないのにやけに騒がしいな」


「山岸……!」


「リナ……!」


「お、沸騰したしそろそろ茶をいれるかぁ~。リナは少し長めに蒸らした味が好きなんだよな~」


「山岸……! 山岸……!」


「リナ……! リナ……!」


 ギシギシギシギシギシギシギシギシ!!!!!


 俺はやかんからティーポットへとお湯を注いでいく。

 入れた茶葉はついこの間栽培した最上級の茶葉だ。


 ギシギシギシギシギシギシギシギシ!!!!!!!!!!


 きっとリナの友達も喜んでくれるはずだ。


「ふぅ……このくらいで抽出は終わりかな」


 茶葉を取り出し、最後の一滴が滴るのを見て俺はふっと笑う。

 ちなみに、紅茶の最後の一滴は「ゴールデンドロップ」と言って、うまみの凝縮された一番美味しい一滴だ。


 俺はお盆にカップとティーポットを載せ、ついでにクッキーやチョコも持っていくことにした。

 彼女の友達だ。

 出来るだけ誠実に、丁寧に接するように心掛けねば。


「山岸!」


「リナ!」


「ふふ、二人はよっぽど仲がいいんだな。よぉ~し行くかぁ!!」


 服の襟元を正し、リナの友達と出会えることを楽しみに階段を上っていく。

 やがて階段を上り切り、リナの部屋の前に着いた。


「山岸……! 山岸……!」


「リナ……! リナ……!」


 コンコン


「……」


「……」


「おーいリナ~! ちょっと扉開けてくれないか? 今手が塞がってて上手く開けられなくて……」


 ドカドカドコガタガタッ!

 ガサガサゴソゴソゴソゴソッッッ!!!!!


 返事がないなぁ。

 仕方がない。

 こっちから開けよう。


「リナ、入るぞ~!」


「……!」


「……!」


 扉を開き、俺はその部屋で信じられない光景を目の当たりにした。


「嘘だろ……リナ……」


 そこには急いで服を着ようとするリナと山岸(?)の姿があった。


「違うの……! これは誤解なの!!」


「ッ!! 誤解……。誤解ってなんだよ、リナ……」


「……っ。そう、そう!!! 相撲を取ってたの!!! ほら、山岸が相撲好きだから!!」


 リナの言い訳に山岸(?)が激しく首を縦に振る。

 首を振るのと一緒に、股間から見え隠れする立派ないちもつが上下に揺れて赤べこのようだ。


「なんで下着まで脱いでるんだよ……」


「そのほうがリアルかと思いまして」


「……? フフッ……? んっっく……ぷふ……」


 山岸の言い分に、何がおかしいのかリナは笑いをこらえている。

 山岸に到っては言った本人であるにも関わらず、頭の上に疑問符を浮かべている始末だ。


 人間、不足の事態に陥ると脳の回路が正常に機能しないらしい。

 俺は山岸に問う。


「山岸、下着を脱ぐと何がリアルになるんだ……?」


「えっと……それは……現実……的な。ここVRMMOだから……」


「VRMMOだから……?」


「……」


「……?」


「……そうか」


 俺はお茶を床に置き、溜息を吐いてベッドに腰を下ろした。


「なんでこんなことになったんだ……?」

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