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19話 リナ

「姫乃! リナを頼む……!」


「分かったのじゃ!」


 俺はサソリの群れを蹴散らしながらヘラとの間合いを詰めに行く。

 しかし敵は自らの眷属を巧みに操りこちらを寄せ付ける隙を与えない。


 ヘラの四本ある腕のうち、背から生えている巨大な二本が大きく振りかぶる。


「姫乃……ッ!!」


 その腕が振り下ろされ、中に握られていた岩石が二人がいた場所を粉砕した。

 すんでのところで回避した姫乃はリナを抱え、そのまま物陰へと逃げ込んだ。

 追い縋るサソリを尻目に、俺は舌打ちしヘラのほうへと向き直る。


「リナたちは関係ねえだろ……」


「一人でも生き残られると何が起きるか分からないからねえ……」


 ヘラの腕がサソリの群れごとダンジョンを薙払い、俺はそれを回避し壁にトライデントを差し込んだ。

 もはや相手は自分の仲間も気にせずこちらへと攻撃を仕掛けてくる。


 それも当然、核で世界を滅ぼそうと目論む奴の発想だ。

 常識なんて通用するはずもない。


 俺は壁からトライデントを抜き地面に着地する。

 タイミングを読んでいたヘラの一撃がその場を砕くが……


「何!?」


「そうだよな……お前は俺のスキル見てねえんだったな……!!」


 "緊急離脱"により背後を取った。

 そのままトライデントの石突でヘラの脇腹をぶん殴り、追い打ちに回し蹴りを叩き込む。


「ガッ……は……ッ!!」


「おいおいNZOは初心者かぁ!? 俺は満身創痍だぞ……これなら根岸のほうが百倍増しで強かったぜ……!!」


 迫り来る大腕を薙払い、切断する。

 二本の巨腕が地面に転がり、驚愕の表情で俺を見上げるヘラの怨恨。

 このままトライデントを突き下ろせば、何もかもが決着する……!!


「うぐ…………あっ……!」


 勢いよく刃が突き立てられ、腹を破り、口元から血が流れ出す。

 流れ落ちる鮮血が、赤く地面を濡らしていく。

 これで全部終わった。


 そう思ったのに……。


「なんだよ、これ……」


 俺はあまりの激痛に奥歯を噛んだ。

 滴る血は俺の血だ。破れた腹も、この激痛も、全部俺のものだ。


 俺はヘラにトドメを刺す直前に、背後から何者かに刺されたのだ。


 身体から力が抜け、トライデントを差し込めずに、俺はその場に仰向けに倒れた。

 視界に映るのは、血に濡れたナイフを握るリナの姿だ。


「なんでだよ……おかしいだろ……」


 根岸も山岸も殺した。

 リナの不倫相手はもう全員始末したのだ。

 リナは俺のことを好きだと言ってくれていた。

 それなのに、なんで今このタイミングでリナが俺を刺すんだよ……!!!


「ごめん優くん……! ごめんなさい……! 本当にごめんなさい!!」


「リナ……何が起きたんだ? なんで、俺を……」


 リナは号泣しながら俺の手を握った。

 温かい涙が俺の頬に落ちてきて、そのまま地面へと垂れていく。


「私だって優くんを刺したくなかった……でも、ごめんね、優くん……うわぁああああん!!!」


 泣きじゃくるリナに俺は困惑する。

 今この時も、俺の腹からは血が漏れて意識が朦朧としていく。

 だけど、たぶんリナは何か考えがあって俺を刺したに違いない。


 そうだ……。

 あのタイミングは、確かにその可能性が高い。

 ヘラにトドメを刺す直前……何かの罠があった可能性も……。


 俺はリナの顔をそっと撫でた。

 リナはその手をぎゅっと握り、こっちに涙で濡れた顔を見せてくれた。


「リナ……最後に教えてくれ……。何で……俺を刺したんだ……?」


 リナはその言葉に泣きながら、答えてくれた。


「ひっぐ……えぐ……ぐす……。この人のほうが……この人のほうが……うぅ……がっごよがっだがら゛ぁ……っ!! ごめ゛ん゛ね゛優゛ぐん゛!! うぁあああああああん!!!!!!」


 リナは堰を切ったように号泣する。

 俺はリナが刺した理由を聞き、何も言えずにヘラのほうを見た。


 ヘラは怯えたような顔でリナを見て、それから何が起きているのか問いかけるように俺のほうを見た。

 知らねえよ……こっちが聞きてえわ……。


「リナ……はぁ、はぁ……。ワケが分からないよ……」


「優ちゃん! ……逃げろ! 逃げるんじゃ!!」


 俺がリナに問うた瞬間、姫乃の叫びが聞こえてくる。

 声のほう、建物の物陰へと視線を移すと、そこには血だらけで倒れている姫乃が、こちらへと這いながら、必死に俺に向けて叫んでいる。


「リナ嬢が……物陰に入った瞬間わっちを刺したのじゃ……。リナ嬢は敵じゃ……!!」


「違うの優くん! 私を信じて! 私は優くんのことが大好きなの……!! だけど……だけどその人がイケメンだったから……っ!!!」


「ひ、ひぃ……っ!!」


 リナの言葉にヘラが涙目で俺のほうを見てくる。

 助けてくれと言わんばかりの視線に、俺は自分の腹に視線を落とす。


 血に濡れ、貫通した俺の腹を見てヘラは絶望した。

 俺は息絶え絶えになりながら、混乱する頭で状況を整理する。

 そして、リナは俺に対し号泣しながら謝り続ける。


「優゛ぐん゛……ごめ゛ん゛ね゛ぇ゛! 本当に゛……ごめ゛ん゛ね゛え゛!!!!!」

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