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18話 ヘラの怨恨

 俺たちは満身創痍になりながらも、なんとかパンデモニウムの90層へと辿り着いた。


「あと……10層か……!」


 俺は息を切らせながら呟く。

 回復したとは言え一度は致命傷を受けた体だ。

身体中が痛くて怠いし、頭もぼんやりしていて、上手く槍を扱えない。


 姫乃のフォローがなければ確実に三回は死んでいた。


「89層のボスモンスターは手強かったの……」


 姫乃の言葉に俺は汗を滴ながら奥歯を噛む。

 本来なら50人規模のパーティでのクリアが前提だと、ダンジョンの入り口付近のUI表示に注意書きされていた。


 俺と姫乃のトップランカーの力と、ユニークスキルとトライデントが合わさって、ようやくギリギリクリア出来た。


「優くん大丈夫……?」


「あぁ、もう行こう……。休んでるわけにもいかないからな」


 このゲームをクリアさえしてしまえば、俺たちは現実世界に帰れるのだ。そうしたら、この身体に受けた傷も全てはこの世界に置いていける。


「身体もアイテムも何もかも、残りの10層で使い果たすつもりでかかるぞ……!」


「足りんなぁ……それではまだ足りんなぁ……」


「誰だ……と聞くのも野暮だな。お前がヘラの怨恨か……」


 俺は背後の声に振り返る。


 黒いフードに顔を隠した男が、無数の"さそり"を引き連れて姿を現す。


「ギリシア神話で、女神ヘラは傲り高ぶったオリオンを殺すために毒さそりを放ち、彼を殺すことに成功する……随分と凝った演出じゃないか?ええ?」


 俺の言葉にヘラの怨恨は笑い、フードを外す。

 顔を見せたのは彫りの深い外国人風の男だった。


「ふふ……君は原始なる滴を破壊し、この世界で英雄を気取ろうとしているようだが……ヘラの放ったさそりの毒は英雄さえも殺してしまう」


 男は徒手空拳だ。

 しかし、彼の背からは怪物染みた白い巨大な腕が二本、人間の腕とは別に生えている。


 つまり、奴の武器は周りに控えたさそりの群れと、四つの拳というわけだ。


「さあ、ここで君たちを殺して、世界を混沌の中に陥れてやろうじゃないか。その前に、ここまで来た君たちに僕たちの真の目的を教えてやろう……」


「僕"たち"だと……?」


 俺は嫌な予感に襲われ、鑑定を発動した。


 さそりだ……このさそりはNPCじゃない。

 全て、ヘラの怨恨から送り込まれたプレイヤーたちだ……。


「ハハハ! 驚いてくれたようで何よりだよ。僕たちの目的を聞けばそれ以上の驚きを見られるだろうがね……」


 ヘラは両手を広げ、語りだす。


「僕らがサテラタワーの電磁波照射(EMP)で世界中の電子機器や電力インフラストラクチャーを破壊しようとしていることは既に君達も把握しているところだろう」


 そうだ。

 そのEMPの発射コードが、俺たちが現状破壊しようとしている原始なる滴の正体だ。


 だが、それ以上にこの男たちは何をしでかそうとしているのか……。


 男はニッと笑い、声高らかにその目的を宣言した。


「核……。核だよ! 核!!」


 その言葉に俺は思わず目を見開いた。

 その反応に男は嗤う。


「今も、先進国の軍備は拡張を続けている。核戦争を前提に、他国からのミサイル攻撃に備え……大国のほとんどが、それに対する迎撃手段を備えている……」


 男はさらに続ける。


「仮に核戦争が起きたとして、世界の全てを滅ぼすにはまだ足りない。先進国の防備態勢は整い過ぎているんだなぁ。しかし、EMPによって世界中の精密機器を軒並み破壊して回ったらどうだ? イージス艦も何も機能しなくなる。そうなれば核の驚異は最大限に発揮される!」


「なぜ……そこまで……」


「その理由を明かすのはまだ早いなぁ」


 俺たちの周りにさそりたちが近付いてくる。


「さあ! 終わりの始まりだ……!!」

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