16話 もう生きたくない……これ以上俺を悲しませないでくれ……。諦めても、いいかな……これだけ、頑張ったんだから……
俺の瞳からはボロボロと涙がこぼれた。
ONE PIECEの登場人物が泣く時くらい……いや、それ以上に激しく泣いた。
俺はONE PIECEを読んだことがないけど、だけど、たぶんエースが死んだ時のルフィくらい悲しんでいると思う。
「くぁwせdrftgyふじこlp!!!!!!!!!!!!」
俺はもはや発声不可能な絶叫を上げ、獣のように咆吼した。
「ぃぃぃぃぃぃぃ…………!www」
悲しすぎて、もう、どうにもならない。
「イヒヒヒヒヒヒ……wwww リナぁ~!!! いひひ、イヒヒヒ……」
俺の脳は、もう完全に壊れていた。
「艦長! 優くんの脳の損傷率が90パーセントを超えました!」
「狼狽えるな! まだ希望はある……!」
「まさか……ですが艦長! あれを使ったら……」
「分かっている……。しかし、この戦いには世界がかかっているのだ!!」
「……ッ!! 分かりました。ですが艦長……最後までお供しますよ!」
「お前達……!」
俺は脳の最後の領域に全エネルギーを供給し、壊れていく肉体に、千切れた筋肉に力を込める。
「艦長……このままでは大量の出血によって肉体が持ちません……!」
「構うな! 奴らに反射衛星砲を撃たせるわけにはいかんのだ!!」
「腹部神経系より入電! 支給、回復薬の増援を求む!!」
ああ、そうか……回復薬……。
俺はポーチから回復薬を取ろうとして気付く。
リナ……お前、それ持ってくかよ……。
「先ほどの被弾時に全回復薬、奪取されました!!」
「仕方がない……。優の全生命を賭けて、この戦いに挑む……!!」
「ですが艦長! それでは原始なる滴は……」
「姫乃に託すのだ……」
俺は血だらけになりながら立ち上がる。
呼吸をするたびに血が漏れて、脳がぼんやりする。
「システム、最低出力……」
「それでも、立った。立ったのだ……」
俺は槍を構え、目の前に立つ二つの人影に対峙する。
もはや、どっちがどっちだか分からない。
だけど、やらなきゃならない。
ここで俺が負けたらNZOプレイヤー数万人の命が消えてしまう。
それだけじゃない……世界中の電子機器が、電磁波照射によって破壊され、文明という文明がガラクタに成り果ててしまうのだ……。
「思考能力、微弱ながら生きています」
「敵はトップランカーでは無い……。一縷の望みを賭けるとするなら……」
俺は姫乃ほうに視線を送った。
姫乃がどんな表情をして、何をしたのか、分からない。
だけど、俺は彼女を信じるしかない。それしか、生きる道は……。
「エンジン出力最大! 総員、衝撃に備えよ!!」
「本艦はこれより……最後のワープを行う!!」
「繰り返す! 本艦は……最後のワープを行う!!」
そうだ、奴に勝つためには……。
俺は"緊急離脱"を発動した。
歩くことは難しくても、スキルによる強制ワープなら耐えられる。
それから俺はぼやけた視界の中、目の前の敵にトライデントを振るう。
敵の槍に弾かれた。よかった、敵はリナじゃくて山岸だ。
俺は再度"緊急離脱"を発動した。
山岸の背後へと回り、全力でトライデントを刺しに行く。
そして、槍は思いのほか簡単に刺さった。薄れ逝く意識のなか、悲鳴のような何かが聞こえた。
敵の反撃を読み、最低限の動きで槍を弾き、袈裟斬りに両断する。
まだ足りない。確実に殺すには……
俺は三回目、本当に最後の"緊急離脱"を発動し、再度山岸の背後へとワープする。
「ひ、ひ、ひぃいいいい!!!」
「ごめん、姫乃……ごめん、みんな……。リナ……どうして……」
俺は槍を振り下ろし、目の前の男の頭蓋骨を粉砕した。
同時に俺の身体は限界を向かえ、地面に倒れ伏した。
「リナ……お前のことは、もう、諦める……。だけど、この世界だけは……みんなの命だけは……」
俺の元に駆け寄ってきた人影に、俺は最後の言葉を伝えた。
「姫乃……原始なる滴は、お前が壊してくれ……」