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15話 パンデモニウム

 そうこう言っているうちに、俺たちは第二ワールド最奥にある巨大な塔、パンデモニウムへと到着した。

 周囲の魔物を狩りながらやってきたため手持ちのアイテムは多いが、残念ながらこれを売却して金にすることも、新しい武器防具にすることも出来ない。


「回復薬の錬成終わったのじゃ」


「毒消し薬も終わったよ~!」


 姫乃とリナに頷き、俺は要らないアイテムの整理を終わらせた。

 回復系、デバフ解除系のアイテムを主として、僅かながらのバフ系アイテムをそれぞれの手持ちに加えていく。


 タンクの姫乃とヒラのリナには回復アイテムを多めに分配し、バフ系はアタッカーの俺が多めに持つ。

 ここでの戦いが第二ワールドでのデスゲームを終わらせる鍵であるため、出し惜しみはしない。


「アイテムは全部使い切るつもりで挑んでくれ。ここで勝てなきゃ、何もかもが終わりだからな……」


 俺の指示に二人は頷き、三人でパンデモニウムへと侵入する。


 第一層、第二層、第三層を高速でクリアしていき、一度も振り返らずに俺たちは駆け抜けた。

 この塔の向かい側ではこのデスゲームの主犯、ヘラの怨恨から送り込まれたテロリストたちが、俺たちと同じように「原始なる滴」を狙っているのだ。


「止まらずに行くぞ!!」


 タッチの差がコンマ一秒でも遅れれば、サテラタワーの反射衛星砲はヘラの怨恨の手に落ちる。

 そうなればこの世界のあらゆる国、あらゆる地域が彼らの攻撃の射程範囲だ。

 電磁波照射(EMP)は電磁波攻撃だ。ミサイルを始めとする実弾兵器とは違い、これを迎撃する手段は現状の科学技術では存在しない。


 つまり、テロリストにこれが渡った時点で、世界中のあらゆる電子機器が破壊され、下手をすれば文明は百年単位で後退する可能性があるということ……。


 俺は魔物を斬り刻み33層を攻略する。

 姫乃とリナは息を激しく切らし付いてくる。


 彼女らの負担を少しでも減らすために被弾は避けてここまで来たが、最上階の100層までは持ちそうにない……。


「優くん……待って……苦しいよ……」


「リナ……ここで止まったら何もかもが終わりなんだ。あと67層だけだ……頑張ってくれ……」


 どうしても付いて来れないようなら……俺一人でも100層まで登り切り、原始なる滴を破壊するしかない。


 そう思った矢先、俺は背後からの一撃を叩き斬った。


「雷撃魔法……ケラウノスの槍手か!!」


「ハハハハハ!!! よく我が槍の一撃に反応してみせた!! 褒めて遣わすぞ、トライデントの槍手よ!!」


 物陰から表われた男に俺は鑑定スキルを発動する。


 プレイヤー名「Mountain/Knight」

 ジョブはアタッカー、そして担う武器は最強の槍「ケラウノス」


 俺は三叉槍トライデントを構え、姫乃は俺の横に並び立つ。


「俺たちを付けていたのはお前か……!」


「正直に答えるのじゃ!!」


「ハハハハハハ!!! いかにも! 俺はこのケラウノスの切れ味を試すために、お前……第一ワールドのトップランカーである貴様を討ちに来たのだ!!」


 仰々しい言葉遣いのMountain/Knightは槍を振るい、雷撃を放つ。

 姫乃が回避すると同時に雷撃に対し誘導効果を発動し、ケラウノスの遠隔攻撃から俺たちを守ってくれる。


「目障りな目狐だ……まずはお前から消し済みにしてくれようか……」


「させるかよォ……ッ!!」


 甲高い金属音が爆ぜ、ケラウノスとトライデントが互いの刃を削りあう。


「どうやら、姫乃の挑発スキルはプレイヤーにも効果アリのようだな……」


「小賢しい真似を……死ねぇ!! Root_Kniht!!」


 その叫びと同時、目の前で激しい放電が放たれる。

 俺は即座に回避したが被弾は免れず、回復薬を消費しMountain/Knihtと対峙する。


「……ん?」


 いや待てや。

 今コイツなんて言った?


「お前……俺のことなんて言った?」


「Root_Knight!! 俺のリナに手を付けた忌々しい闇の騎士よ……!!」


「…………オイ待てやてめえ。まさかお前山岸だな?」


「いかにも!!」


 俺は全力で地面を殴り付けた。

 山岸は肩をびくりとさせ、俺のほうにおずおずと聞いた。


「な、なんだ……いきなり地面など殴って……」


「俺は優だよ!!! 根岸じゃねえ!!!!」


「優……?」


「リナの彼女だって!!!」


「え……ぁ…………あの時の……」


 山岸は少し考え込んでから思い出したように手を叩いた。


「あの時は焦って逃げてしまったが……よくよく考えてみればお前が悪い!!」


「んだとコラ。殺すぞ」


「リナは俺を愛しているのだ!! それなのに……貴様は何様のつもりだ!!」


 山岸の叫びに俺は彼を見下すようにして答える。


「はあ、わけの分からないことを言う奴だ。なあリナ、お前は俺と一緒にいたいと言ってくれたよな」


 俺は背後のリナに問いかける。

 リナはそれを聞き、俯いた。


「リナ……?」


 そして、リナは俺に抱きついてきた。

 ほら見ろクソ野郎!!

 リナは俺の彼女で幼馴染みだ!!

 俺とリナの過ごしてきたこの十数年は、お前みたいなクソ野郎には追いつけないほどに固い絆で結ばれてるんだよ!!!

 分かったらすっこんでろゴミクソ浮気間男めが。リナを惑わしやがって……次、面見せたらただじゃおかねえからな……ゴキブリ男が。


「リナ、やっぱり俺のことが……あ?」


 俺は腹部の違和感に気が付く。


「痛……え? あれ、え? なんだ……?」


 俺は貫くような痛みを感じる腹に手を当て、その手を顔の前へと持ってきた。


 俺の手は赤く染まっていた。


「え? リナ……?」


 リナはそれを勢いよく引き抜き、もう一度俺の腹に突き立てた。

 切っ先が腹を抉り、激痛が脳を冒す。

 いや違う……俺の脳は、今起きている事象そのものに犯されているんだ……。


「ふんっ!! ふんっ!!! ふ゛ん゛!!」


 リナは俺の腹に何度も何度もナイフを差し込み、俺はその場に崩れ落ちた。


「優ちゃん!! ……ッ!?」


 俺のもとへと駆け寄ろうとする姫乃を山岸のケラウノスが止める。


「リナ……? なんで……」


 俺はリナの顔を見上げ、問う。

 リナは俺を見下し、ただ一言、こう言った。


「山くんのほうが、顔がいいから……」

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