14話 最終決戦に向けて
翌日。
俺達一行はリディアの町を出て、第二ワールド中心にある巨大な城「パンデモニウム」を目指していた。
「さっきーの言うとおりなら、たぶん「原始なる滴」はあの塔の最上階にあるはずなんだが……」
俺は馬車の揺れを感じながら、移動用アイテム「イカロスの靴」を見て溜息を吐いた。
ワールドを越境した装備は能力が著しく低下する。
このイカロスの靴も第一ワールド性の装備品なので、今はかつてのような飛翔能力を発揮することが出来ない。
こうして大人しくなけなしの移動費を掛けてまで馬車に乗るのは、一刻も早くこのくだらないデスゲームを終わらせるためだ。
『オタっち~! やっほー。進捗はどう(笑)』
耳元にさっきーの声が聞こえてくる。
まだ彼女たちがこちらにアクセスしてきていることは「ヘラの怨恨」たちに気付かれていないらしく、時たまあちらからコンタクトがある。
「呼び名がオタクくんからオタっちに変わってるな……。別にどっちでもいいけど……」
『あだ名で呼んだほうがマブダチ感あるじゃん?(爆笑)』
「今はパンデモニウムに向かってる途中だ。プレイヤーの殆どはリディアの町とアルスラの森の辺りをうろついてるから、この辺りにはNPCしかいないな……」
『って思うじゃん? オタっち以外にも、パンデモニウムに向かってるパーティが二つあってさぁ~』
俺はさっきーの言葉に眉根を顰めた。
この状況下で一般プレイヤーが敢えて危険を冒してまでパンデモニウムを目指す理由がどこにも無い。
俺の嫌な予感を、さっきーの続く言葉が肯定する。
『片方はメインシステムからの新規アクセスっぽいんだよね~。たぶんヘラの怨恨だと思う(笑)』
「最悪じゃねえか……位置は?」
『パンデモニウムを挟んで正反対。距離はほぼ同じくらい(笑)』
つまり、目的地への道すがらで戦闘に陥ることはないということだ。
ヘラの怨恨とは恐らく、原始なる滴を巡る最終決戦で敵対することになるだろう。
そして気になるのは、もう片方の参戦者の存在だ。
「さっきー、パンデモニウムへと向かうパーティはあと一つあると言っていたが……」
『メインシステムの防御が固くてプレイヤー情報は取得出来ないけど、位置だけなら。オタっちと同じ方向から来たみたい。付かず離れずの距離から様子を伺ってるっぽい(笑)』
俺は荷馬車の後方へと移動し、リディア方面を見据える。
視界に映るのは一面の平原だ。ぽつりぽつりと木々が生えているが……隠れられるような場所はどこにもない。
馬車で来ているなら同じ道を通らなくては付かず離れずというわけにはいかないだろう。
何かしらの特種なスキル持ちのプレイヤーが、明確にこちらを付けて狙っているとしか考えられない。
「何か以上があればまた連絡してくれ」
『別にいいけど出来るだけ急いでね(笑) こっちもいつバレるか時間の問題だから(爆笑)』
そう言い残し、運営との通信は切断される。
「姫乃、リナ、後続から追跡者がいるらしい。いつ戦闘になるか分からないから心の準備だけしておいてくれ」
「分かったのじゃ!」
「うん! 優くんのために頑張っちゃうよ!!」
士気は低くない。
姫乃は上位プレイヤーだから心配の必要はないし、リナにもヒラとしての最低限の動きは教えている。
俺はトライデントを握り締め、追跡者のほうを見据えて呟いた。
「誰が何の目的で来ているのか知らないが……死ぬわけにはいかないからな」