12話 俺はリナを信じるよ……
あああああああああああああ!!!!!
狂う~~~~~~~!!!!!!!
俺は発狂する脳を封じ込めるため、全力で口をつぐんだ。
一ミリでも解放すれば、きっと俺の全てが決壊する。
たぶん、今の俺は誰がどう見てもおかしなやつだ。
涙を滝のように流しながら、微動だにせず口を固く閉ざしている。
うさぎは身の危険を感じると動作が止まる。
蛇に睨まれたカエルは、マジで本当に動かなくなる。
俺もそうだ。
リナを前にした俺は、根岸に対して怒りを噴出したのに対し、情けないほどに無力だった。
「優くん……? どうしたの? 具合悪いの?」
「んんんん~…………!!!!!」
俺は口から溢れそうになる全てを必死になって抑える。
俺はどうすればいい?
リナを許すのか? それとも、責めるのか?
そのどちらとも付かないうちは、この口の中で暴れるものは外には出せない。
きっと、覚悟が決まらないうちに発言すれば、ことは拗れるし、後悔もするから。
「優くん、私怖かった……。優くんがいなくなってから、町は大混乱で、みんなが暴動を起こして、プレイヤーキルまで起きて……。でも、優くんが着てくれたから、私もう怖くない! 優くん、来てくれてありがとう」
そういってリナは俺に抱きついてきた。
「~~~~~ッッッッッ!!!!!!!」
俺は白目を剥き、目の端から赤い涙を流す。
嘘吐きやがれクソ女~~~~~~!!!!
さっきまでそこの男たちに囲まれて、どう見ても楽しそうに酒飲んでたじゃねえかああああ!!!!!!!!
そう心の中で思いながらも、それはこの状況でリナを一人にした俺の不甲斐なさが元凶なんじゃないかとも思い、二つの思いが俺を両側から串刺しにする。
俺の苦悶の表情を見た姫乃は顔をしかめ、リナに声を掛ける。
「その……リナ嬢よ。優ちゃんが苦しそうじゃから、少しだけ離れたほうがいいのではないかの……?」
「あ、そうだね! ごめんごめん! 私、本当にドジだから……」
そう言ってリナは離れ、姫乃は俺の背をさする。
まま~! 世話焼き狐の姫乃さま~!!
辛いよ~!!! こわいよ~!!!
もう、リナが言ってることが何も分からない。
どこからどこまでを信じればいいのか分からない。
だけど、どうしてかな……。俺はリナを見ると無性に悲しくなる。
リナの笑顔を見ると、今までの記憶が蘇ってくるんだ。
凄く可愛い、天使のような笑顔に、俺の心が持って行かれてしまうんだ。
ああ、ああああああ
リナ、お前はなんでそんなに可愛いんだよ。
お前がもっと俺の好みから外れた女だったら、俺はお前のことでこんなに苦しんだりしてねえのによ……。
「優くん、私あれから頭を冷やしたの。浮気……ごめんね? 私のことを本当に好きでいてくれるのは優くんだけ。そのことに気付いたの。だから、本当にごめんなさい……。私、優くんと一緒じゃなきゃ生きて行けない……」
そういって、リナは俺の手を握る。
やめろ……
やめろやめろやめろやめろ……
やめてくれ……
「優くんは凄く優しいし、カッコいいし、私のこと想ってくれる……。だから、私優くんに恩返ししたいの。優くんが辛い時には、私が優くんのために頑張りたいの。もう一度、二人でやり直そう……?」
「……本当か?」
俺は、泣きながら口を開いていた。
リナの心のこもった、心からの謝罪に、いつの間にか心を開いていた。
「信じて……いいのか?」
「うん。信じて、優くん。私はどんな時でも優くんと一緒にいたいから」
それを聞き、俺は再び涙を流した。
俺は馬鹿だ。
リナは本当はこんなにも優しい子なんだ。
それを俺はたった一度の過ちくらいで怒りに狂い、憎悪に燃え、リナを突き放そうとさえしてしまった。
「ごめんリナ……。俺、リナのことちゃんと分かってやれてなかった……。リナ、俺のほうから言わせてくれ。……もう一度、俺と一緒にやり直してくれるか?」
「うん……!! 優くん……!!」
リナは俺に抱きついてきた。
それを俺は受け止め、強く抱きしめた。
見ろ。
リナはこんなに純心でいい子なんだ。
こんな天使みたいな子を、なぜ俺は信じてやれなかったのか。
なぜ、浮気をさせてしまうほど追い詰めてしまったのか……。
俺は胸に誓った。
もう、絶対にリナを一人にさせない。
寂しいなんて思わせない。
リナのために、俺は全てを尽くして、最高の彼氏としてやり直す。
「優くん、大好き!!」
「ああ、俺も大好きだよ。リナ!!」
リナと仲直り出来て本当によかった……!!
小さい頃からずっと一緒だった俺たちが、こんなことで離ればなれになんてなるはずがない!!
本当に愛し合う二人には、色々な困難が立ちはだかるだろうけど、俺はそれでも絶対に挫けない!!
この時の俺は、本気で、本心でそう思っていた。
そう。
一度裏切った浮気者は、何度だって浮気するのだ。
肉愛は純愛を凌駕する。
ああ、つらいつらい物語が、もう一度始まってしまう。
リナ、本当に愛しているよ。
そして、俺の透明で純粋な心よ。
さようなら。
永遠に……。