「不確かな未来」
22話「不確かな未来」
ソフィーの故郷、エルフの里ではその日もソフィーの両親や、その他にも数世帯が自給自足に近い生活をしていた。
その日もイヴァンは自宅の書斎で魔法に関する本を書いていた。未だに印刷技術は発展していない世の中で、本が貴重なのもあり、ベネット家の収入源の1つだ。
外ではリーシャが畑の野菜の世話をしていた。
集中して疲れた目を休めるために眉間を親指と人差し指で抑え、ため息をつく。
すると…
背後の窓を何かがノックした。
振り返ると…
「珍しいな…使い魔か。」
そこにはこの辺りでは見かけない額に角の生えた雀程の大きさの小鳥が居た。
先程のノックはこの小鳥がクチバシでつついた音だった。
首には使い魔を意味する小さな首輪が付けられている。
そして、その足には小さな巻物が括り付けられている。
イヴァンは窓を開けて、小鳥の足の巻物を解いた。
すると、小鳥はすぐに飛び去って行った。
その巻物には、こう書かれていた。
1ヶ月後、ジークフリート・ガイロニアとソフィーベネットの婚約祝宴パーティを開催します。ご親族のお2人も参加されたし。
ガイロニア王国王宮
「あのソフィーが結婚か…孫の姿を見れるのもそう遠くないかもな…」
自分の娘の花嫁姿と、子どもを抱いている姿を想像して、1人でニヤニヤしていたら…
「イヴァン、気持ち悪い。」
部屋の扉の前にリーシャが腕を組んで不快そうな顔で立っていた。
「気持ち悪いって…お前だってソフィーの花嫁姿とか、孫の姿見たいだろ?」
「ふふっ、そうね、楽しみね。」
そう言って、まだ何の保証も無い不確かな未来に思いを馳せて2人は目を合わせて微笑んだ。
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そして1ヶ月後
その日も、いつもの様に、研究室には、レイモンド以外の4人(ジークは王宮を抜け出してきた)が、居た。
相変わらず、研究室のど真ん中に置いてある大きなテーブルには、壁沿いの本棚にしまいきれない大量の本が中央に乱雑に積まれていた。
同じく床にも本や魔導具が置かれており、手の平サイズの魔石も幾つか転がっていた。
更には、マントらしき茶色い布が丸められて、部屋の端に転がっていた。
要するに超散らかっていた!
魔法使いとしても優秀で、ソフィーとアイシャら直系の弟子以外の軍の魔法使い達をまとめる立ち位置にいるアリアの数少ない欠点。
それが、片付けが苦手な所だ。
決して広くはない部屋に対して、本を始め、部屋にあるものが多すぎるのだ。
基本片付けはアリアではなく、ソフィーのアイシャが担当し、数日おきに行っている。
だが、仕方の無い事だが、魔王戦以降は、3人とも忙しかったので片付けが出来ずにいた。
アリアは、テーブルの端で、頼まれていた拘束用の首輪に似た魔導具の試作品の製作に、挑んでいた。
ジークは、部屋の端の方で、椅子に座ってくつろぎながら、隣の部屋から持ってきた本を開いていた。
その近くでは、ソフィーとアイシャは床に円形に複雑な模様や文字が描かれた紙を広げて、向かい合って座っていた。
「それじゃあ、まずは、土の塊で、小さめのを作ってみよっか。」
「わかった。」
「じゃあ、錬成陣に魔力を流してイメージして。どんな見た目にしたいのか。」
ソフィーは、錬成陣の中央に茶色い土の塊を置き、紙に両手を付いて、魔力を流し込み始めた。
すると、複雑な模様と文字が金色に光り始めた。
中央に置いた土が溶けて、液体のようになる。
そして、液体が10個程に分裂し、それぞれが歪な塊になり、1番大きい塊に数珠繋ぎの様に4本が繋がった。
そして、2本が足のように床に立ち、自立した所で金色の光が消えた。
2人が作っていたのはゴーレムだった。
まだ2人の膝のにも届かない小さな可愛らしい大きさの小型犬ほどの大きさの茶色いゴーレムだ。
「か、完成?」
「どうだろ、何か命令してみて。あっ、この子にちゃんと魔力を流してね。」
ゴーレムは創った本人の魔力を記憶に近い形でゴーレム自身がインプットし、その魔力による指示にのみ従う。
高位のゴーレムの場合は魔石を心臓に近い用途で用いて、魔力を流さなくても自律式に近い形で運用も出来る。その場合も創り主に従うのは同じだ。
今回2人は土で作ったが、材質は岩や、金属等、様々な材質でも創ることが出来る。
ただ、創る事の複雑さや錬成陣の準備、複雑な命令をする限度など、課題も少なくなく、王国軍は未だに人間の兵士を用いている。
しかし、田舎の人手が足りない集落では、魔物よけを目的に見張りに配置している所もあるとか…
(命令…何がいいかな…まぁ、とりあえず)
「それじゃあ、2回ジャンプして!」
ソフィーは魔力をゴーレムに送りながら命令をした。
すると、ゴーレムはその場で、二度ジャンプをした。
その重さで着地した時に木の床が軋んだ音を立てた。
その姿を見て、姉妹は目を合わせて無邪気に笑った。
「「出来た!!」」
そして、パチンとハイタッチをして喜びを分かちあった。
「師匠!ゴーレム出来ま…」
「待って、今集中してる!」
その言葉に2人は一瞬で口を噤んだ。
アリアにゴーレムを上手く作れた報告をしようとしたら、彼女はそれを遮ってしまった。
「落ち着いてアリア…そっとよ…そーっと…」
アリアは自分に言い聞かせながら細かい作業をしていた。
そして、最後に首輪にエメラルドに似た翠色の魔石をはめた。
一瞬首輪全体が光り、元に戻った。
「完成…か…?」
見た目は完成だが、首輪をはめないと分からない。
「アイシャ〜これはめて」
そう言って彼女はアイシャに差し出した。
「あ、はい…」
師匠の指示に従ってアイシャは自身の首にはめた。
取り付けた瞬間、正面に来るようにはめた魔石が淡く光った。
「特に、違和感は無いですけど…」
「じゃあ、日頃の恨みを込めてソフィーに何か撃ってみて。」
(え?ちょっと、ししょー???)
「えっと…じゃあ…『火球』!」
本来なら魔法が発動し、轟音と熱を発して高温の火球が手から放たれるはずだが、何も起きず、静けさが訪れ、部屋の中はジークが本のページをめくる音が目立って聞こえた。
「あれ、魔力流したのに…」
アイシャは不思議そうに自身の手のひらを眺める。
その様子を見て、アリアはため息をついて椅子に背中を預けた。
「はぁ…やっと完成だ。アイシャ、それをレイモンドに持って行ってくれ。多分隊長室に居ると思う。」
「わかりま…ひゃっ!!」
突然アイシャが女の子らしい甲高い声を上げて右の頬を抑えた。
その様子を見て、ソフィーとジークが腹を抱えて爆笑していた。
「ソフィー?」
「だって、姉さんが私に火球撃つの躊躇わなかったんだもん。これくらい当然。」
氷の操作が上手く出来たことに若干ドヤ顔気味のソフィーだ。
「それで頬っぺに氷当てるなんて!めっちゃ冷たかったんだけど!」
ソフィーは小さな氷の欠片を作り、それをアイシャの死角となる所を通るように操作し、彼女の頬に冷たい氷を当てたのだ。
ちなみにジークは氷を操作している最中にその悪戯に気づいていたが、あえて黙っていた。
「ソフィー、後でお姉ちゃんとして叱るからね。じゃあ師匠、改めて行ってきます。」
そう言ってアイシャは扉を開けたが、その場で固まってしまった。
「ししし師匠…」
「今度はなんだ?」
アリアは、先程の悪戯から既に呆れ気味だ。
「そ、外に…こ、国王…」
「やぁ、ソフィーちゃん、元気かい。」
アイシャの横から国王陛下が現れた。
(え?え?何これ何のサプライズ???)
「え、陛下どうしたのですか?」
「いや何、そこの未来の夫婦に話があってな。ジークフリートも恐らくここだろうとコルトが言っていたからな。」
(え、何、怖い…怒られないよね。)
「えっと、場所を変えますか?こんな汚い部屋でなんて…」
「構わんよ。熱心に研究している証拠じゃないか。」
(なんか、思ってたより…フレンドリー??)
「では、私たちは席を外しますね。レイモンドに用もありますので…失礼します。」
そう言って、アリアとアイシャはまるで逃げるかの様に研究室から出ていった。
「さてと、座ってもいいかな?」
「あっ、はい、もちろんです。」
ソフィーが部屋の端に置いてあった(転がっていた)椅子を持ってきた。
「どうぞ、陛下。」
「あぁ。」
3人が揃ったところで話が始まった。
「さてと、何用で来たかと言うとな、」
「はい…」
「婚約発表についてだ。」
(あぁ、婚約発表ね…ん?婚約発表…婚約…発表…??)
「こ、婚約発表??」
ソフィーはジークすら聞いたことの無い様な素っ頓狂な声を上げてしまった。
その声にソフィーの隣に座っていたジークが吹き出した。
(あっ、陛下の前だった。)
「すみません、陛下、失礼しました…」
「いや、良いんだ、驚くのも無理ない。王族しかやらない事だからな。簡単に説明すると、2人の結婚を国内に限らず、多くの場所に報せることだ。恥ずかしかもしれないが、こればかりは伝統だから従ってくれ。」
(仕方ないか…)
「はい、分かりました。ただ、ひとつお願いがあります。」
「何だ?」
「この国はそこまで酷いとは思いませんが、亜人に対する偏見を持っている人は少なくないとも思います。出来れば、そこを…」
「あぁ、そこは分かっている。だからな、魔王を倒した2人が結ばれたと書くつもりだ。英雄の2人の結婚を公に反対なんてそんなに居ないだろと思うからな。」
「陛下、感謝します…」
ソフィーは国王の気遣いに感謝して頭を下げた。
「まぁ、いいって当然の事だ。後は…そうだな…ソフィー、結婚後はどんな生活がしたいとかはあるか?君を貴族にさせる事も出来るが…」
「はい…これまで通りの生活が叶わないという覚悟はしています。ジークの妻として、公務等、しなければならない事があれば、もちろん全力で臨みます。ですが、その中でも、これまでと同じような魔法の研究や、好きな時に本が読める環境が与えていただければと思います。後は、研究だけでなく、王都の外に出て、魔物狩り等も出来たら嬉しいです。」
「なるほどな…分かった覚えておこう。全てが叶うかは分からないが、出来る限りの事はやると約束しよう。」
「ありがとうございます陛下。」
「では、この後も用事があるからな、失礼するよ。2人とも仲良くな。」
「はい、父上。」
「もちろんです、陛下。」
最後にニカッと笑って国王は部屋から出ていった。
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数日後、以下のように書かれた紙が王都のあちこちに貼られ、全ての国内の集落、他国に送られた。
我、現ガイロニア国王、エズワルド・ガイロニアは、我が息子のジークフリート第2王子と、魔王を討ち取った英雄、エルフのソフィー・ベネットの婚約をここに宣言する。国民全てが2人を祝福し、これからの人生に幸があらんことを願う。
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【婚約発表の文書が張り出された日の夜】
2人は王宮の一室で並んで誰が見ても高く見えそうなソファに並んで座って、寛いでいた。
「はぁ…遂に皆に知られちゃったな…」
疲れ気味の声でジークがボヤく。
「ね、これからは気軽に出歩きにくくなっちゃうね。」
(魔王倒したことだけでも軍の中じゃヒーロー扱いなのに、これじゃあ民間の人にすら有名人だよ…)
「はははっ、そうだな、まぁまだ顔が知られたわけじゃないけど、王都じゃエルフは珍しいからな。2人でお揃いのマントでも用意するか。」
「ふふっ、良いねそれ。」
(お揃い…前世のバカップルみたい…)
「はぁ〜それにしてもこんなになるなんてな…初めて会った時想像ついたか?」
「ん〜こうなったら良いなとは思ってたよ?私はあの時一目惚れしたし。」
(これは本当、あの時助けてくれたのが本当にかっこよかった。)
「そんな昔からかぁ…俺はソフィーがこっちに来てからだな。色々話してるうちに、気づいたら惚れてたんだと思う。」
「こ、こんな私と…ありがとねジーク…嬉しいよ…大好きだよ。」
(ジークに会えて本当に良かった…)
「嬉しいのは俺も一緒だよ。ありがとう。」
すると、ソファに並んで座っていたジークがソフィーの方に向いた。
「ソフィー良いか?嫌か?」
(良いって?もしかして…でも…ジークなら…)
「い、嫌じゃないと…思う…」
ソフィーの鼓動がどんどん早く大きくなっていく。
ジークの顔が、ゆっくりと近づいてきた。
今ならまつ毛の本数すら数えられそうだ。
どんどん顔が近づいてくるのが恥ずかしくなり、無意識のうちに目を閉じた。
(唇ってどんな感触なんだろ…柔らかいのかな…)
そんな想像をしていたら。
突然物凄い勢いで部屋の扉が開いた。
その音に驚き、ソフィーはパッと目を開けて、ジークから離れた。
ノックもせずに入ってきたから、誰かしら知り合いだと思った。
アイシャやレイモンド、或いはアリアだと思った。
だが、違っていた。
扉が開いた瞬間10人近くの兵士がなだれ込んできて2人を取り囲んだ。
ソフィーも見慣れた王国軍の兵士の装備とは若干違っていた。
軍よりも軽装だが、装備には高級な装飾が施されていた。
近衛兵士達だ。
(え?何?どういうこと?)
「ノックもせずに何事だ?俺が誰なのか分かっているのか?」
「ええ、もちろんですジークフリート王子。」
兵士が入った後から今度は身分の高そうな服装の男が入ってきた。
丸眼鏡をかけ、短めの整えられた髭を生やした男だ。
その男の顔はソフィーも見覚えがあった。
国王との謁見時、アリアや、大臣等の高官達が並んでいる中に居た1人だ。
そして、彼は隣の兵士から茶色い袋を受け取った。
その中からは、ソフィーにも見覚えのあるものが出てきた。
数日前までアリアが制作していた首輪の魔導具だった。
「ソフィー・ベネット、お前を王家反逆の罪で拘束します。」
そう言って素早くソフィーの首に首輪をはめた。
(え?反逆?私何をしたの?)
「なっ…アレス…これは何のつもりだ。」
ジークの質問にアレスと呼ばれた男が答える。
「殿下こそ、これから妻になろうとしている女性があなたの裏で何をしようとしているのかご存知でしょうか?」
「どういう事だ?」
アレスはジークの質問にすぐには答えず後ろを振り向いて部下に指示を出した。
「奴を連れてこい。」
すると、アレスの後ろで手を縛られたジークと同じくらいの年齢の男が連れてこられた。
街中でよく見る庶民が着ていそうな服装の青年だ。イケメンで、筋肉もついていそうなシルエットの体の決して悪くは無い容姿の男だ。
「私達は、ここ1ヶ月ほど暗部の人間も使いソフィー・ベネットの身辺調査をしてきました。殿下に相応しいのか、否かと。そして、彼女が、この男と度々長時間接触している事をつかみました。更には夜に会い、別れたのが翌日の朝なんて事もありました。殿下もムチではありますまい。これが何を意味するのかは。」
この言葉でソフィーにも目の前で何が行われているのか理解が出来た。
上に誰がいるのか、誰の指示なのかは分からないが、こいつらが自分を陥れようとしている事が。
「証拠は?その男が自白したのか?」
「はい、ほら、さっさと取り調べで言ったことをもう一度言え。」
「お、俺は…ソフィーが王都に来たばかりのころ、街で彼女が迷っている所、話しかけてそこから交流が始まりました。
しょ、食事も、その後から何度かして意気投合して、数ヶ月前にソフィーが俺に告白して、交際が始まりました。お互いを想っていて、幸せだと思っていました。
ソフィーが王子と交際していたなんて思っていませんでした。まさか二股なんて…」
(何なのこれ…茶番?)
「もう良い、黙れ。」
ジークが声を上げて男は黙った。
そして、ソフィーに向き合った。
「今言っていたことは本当なのか、ソフィー。」
「違う!全く違う!私はジークの事が好き!あなたを愛してる!」
(信じて!ジーク!!お願い!)
「そいつを信用するなジーク。」
突如部屋の外から男の声がした。
ソフィーにも聞き覚えのある声だった。
その男はゆっくりと部屋に足を踏み入れる。
アレスや近衛兵達も、横にどいて頭を下げて道を開けた。
「兄上…どういう事ですか。」
その男はジークの兄、そして、この国の王位継承権を持つ男。
アレクサンダーだった。
「そのままの意味だ。彼女を信用するのは危険だ。亜人は信用ならない。王家の人間と婚約しながら別の人間と交際していた時点で王家に対しての反逆罪だ。」
「兄上の亜人嫌いは昔から知っている。だが、ソフィーは…」
「お前は、母上の最期を覚えているか…いや覚えていなくても仕方がない。まだ赤ん坊だったからな。」
アレクサンダーはジークの言葉も遮って
(アレク王子、それは言わないで、言ってもいいけど、今はダメ!タイミングが…)
「はい、覚えてないです。」
「ダメ!ジーク!待って!」
「その様子だと、その裏切り者は既に知っているようだな。未来の旦那に大事な事を隠しているなんて…いくら自分に都合が悪いからって最低だな。そうさ、俺たちの母上は亜人に暗殺された。厳密には猫耳のら獣人だ。寝ていた所をナイフで首を一瞬でだ。そういう事だ。亜人は信用ならない。分かったか?だからもうその女に執着するのは辞めろ。時間が経てばこの事も忘れる。そうだ今度、侯爵家の綺麗な令嬢を紹介するよ。」
周囲の近衛兵達が小さい声で話しているのが聞こえる。
どの言葉もソフィーや亜人、エルフを軽蔑する言葉だった。
「やはり、亜人なんかを信用してはダメだったんだ。」
「魔王を倒したとしても人間性がダメだな」
(やめて、もう言わないで。)
アレクサンダーはまるで騙されていた事を慰める様にジークの肩に手を置いた。
ジークのその肩は小刻みに震えていた。
「ソフィー…俺を騙していたのか…母上の事を知りながら隠していたのか…ただ、俺が王子だったから、近づいたのか…」
「違う!騙してなんかいない!私はあなたを愛してる!王子だからじゃない!あなたという人間を愛している!」
(信じてよ…ジーク…)
「母上の事は?何故知っていながら黙っていたんだ?俺の事を信用しているなら話すよな?」
「そ、それは…」
「俺は亜人だとか関係なくソフィーの事を愛したんだ。だから知っていたなら話して欲しかった。それはつまり、そういう事だとな…」
(なんで?なんで?)
「違う!私はあなたを信じてる!お願い!お願いジーク!あなたの事が大好き!」
叫びながら自身の潔白を必死に訴える彼女の目には涙が溜まっていた。
当然だ。これからの幸せな未来を描いていたのが、今目の前で一瞬で崩れ去っていこうとしているのだ。
「はいはい、結婚式じゃないんだから、互いの愛を示そうとしないで良いから。さてと、この場で俺のずっと抱えて貯めていた復讐心を吐き出そうと思うんだけど、ジーク、良いかな?この部屋汚れるかもしれないけど。」
「俺の部屋じゃない。平気だ…」
その顔には先程までのソフィーと話していた時の幸せそうな表情は消え去っていた。
「じゃっ、お構いなく、はい!2人を連れてきて。さぁ、ソフィー君の絶望の表情を見せてくれよ」
アレクサンダーはソフィーに不敵な笑みを向ける。
(復讐?次は一体何?)
部屋の外から、後ろで腕を縛られ、目隠しをされ、口には布さるぐつわをされている男女が連れ込まれた。
男は、白い襟付きのシャツに茶色いベスト、灰色のズボンを履いており、女は白いレースのあしらわれたワンピースを着ていた。
2人の首にはソフィーにはめられたのと似た首輪があった。
その耳は長く横に尖っていた。
つまり、エルフだ
(まさか、まさか!)
ソフィーは一瞬で全てを察し、2人に駆け寄ろうとする。
「あーダメだよー、そこの2人、彼女を取り押さえて。」
アレクサンダーの命令ですぐに近衛兵2人が動き、後ろからソフィーの腕を力強く掴んだ。
「くっ、離して!」
(魔法が使えたら…こんな大きいだけの奴になんて…)
アリアの魔導具で魔法を封じられた今のソフィーは、ただの剣技の出来る少女でしかない。
普段身体強化で、筋力では自身より上の相手にも負けないソフィーだったが…今は何も出来ない。
「さてと、目隠しと口のを外して。」
2人の後ろに居た近衛兵が、目と口の布を外す。
予想通り、ソフィーの両親、イヴァンとリーシャだった。
「とーさま!かーさま!どうして!」
「婚約のパーティがあるから王都に来るようにって手紙が来て言われた通りにしたら、このザマだ。それよりソフィー、外で聞こえていたが、本当なのかジーク王子を裏切ったというのは…」
イヴァンが自分達に起きた事を娘に説明した。
「そんな事してない!騙されたの!信じて!」
「あぁ、信じるよ!」
「良いね、親子愛ってやつか?亜人じゃなかったら羨ましくてたまらなかったよ。」
(この王子…本当に性格悪い…)
「さぁ、ソフィー、君には俺の復讐に付き合ってもらうに当たって、究極の決断をしてもらおう。俺は短期だからな、直ぐに決めてくれ。近衛兵さん、剣を2本貸してくれないか?」
アレクサンダーは近くに居た近衛兵から剣を受け取り、イヴァンとリーシャの後ろに立った。
「さてと、君には両親のうち、どちらか1人を選んでくれ。ちなみに選ばなかったもう1人は俺が殺すけどな。」
(どういうこと?何を考えてるの?)
「どうして!そんな事!ねぇ!ジーク!止めさせて!」
そして、ジークの方を見るが、彼はソフィーに目を合わせようとせず、一言も発さなかった。
「ははっ、もう味方する気は無いってさ。残念。じゃあ選んでね。スタート!」
両親の後ろではニヤニヤして両手に剣をもってアレクサンダーが立っていた。
「2人とも殺さないでお願い!何でもするから!お願い!」
「何でもする…か。はははっ、安心してくれ、君自身に対しても後で拷問の時間があるから、その時に殺して欲しいくらい何でもしてあげるよ。さーてと、どちらにするか決まったかい!」
「ソフィー、殺すのは俺にしろ!母さんを生かしてくれ!」
「いいえ、ソフィー、父さんを生かしてあげて!」
(えっ…どっち、どっちとか選べる事じゃないよ…)
「はぁ…優柔不断って良くないよ…はい!時間切れ〜!さぁ、お別れだ!」
「お願い!待って!!」
その言葉にアレクサンダーは聞こえてはいただろうが、返事はせず、目の前の2人の背中に剣を突き刺した。
剣はそのまま背中から胸に貫通した。
傷口から真っ赤な血が飛び散る。
ドバドバと流れ落ちた血が床に敷かれた絨毯に真っ赤な染みを広げた。
ソフィーの目の前で、2人の血が流れ、彼女を幼い頃から愛情込めて育ててくれた大好きな両親の体が、力なく崩れ落ちた。
「いやぁぁぁぁぁあああ!!!」
目の前の残虐な光景に喉が潰れそうなほど悲痛な叫びを上げた。
そして、首にはめられていた拘束具の魔石が一瞬で粉々になり、一気に部屋中にその体内の魔力を変換させた強力な衝撃波を放った。
その目には大粒の涙が流れていた。
To Be Continued
ここからが、本番に近いのかな…1話を書き始める前からから想像していました。