「晩酌と謀略」
21話「晩酌と謀略」
【2人がデートに行っていた日の夜】
「それじゃあ、師匠、お疲れ様でした。」
「はーい。」
そう言ってアイシャが、研究室から出ていった。
窓の外は既に既に暗く、空には星々が輝いていた。
また、通りの方から、酔っ払いらしき男の大声が聞こえた。
「ふぁあ」
アリアが椅子に座ったまま両腕を伸ばしてあくびをした。
ずっと座っていた30歳を越えている体をほぐす。
そして、再び、悪魔及び、彼らが使用する闇魔法関連をまとめていた。
魔王討伐後は、実際に相手にしたソフィーとアイシャと共に、闇属性の未知数な要素を少しでも解明しようと試みていた。
また、数日前は、国の方に頼み込んで、戦場で回収した2体の悪魔が使用していた体、そして、魔王ギルガゼイヤの遺体もアリア主導の元、数人の魔法使いで調べた。
アリア自身も、今回のことを機に闇魔法のこれまで知られていなかった事を解明しようと必死なのだ。
つまり、要するに、ここ数日のアリアは多忙の極みなのだ。
(こんな時期にデートなんて…私ですらまだ相手なんて居ないのに…)
自身の教え子が青春している事に若干嫉妬気味だ。
ソフィーが前世でひたすら医学を愛してように、アリアも魔法にのめり込み、結果として婚期を逃してしまった。
結果的には自業自得だ。
「はぁ…」
「別に周りに男がいないわけじゃないのよね…」
(こんな事言ってても仕方ないよね。下から飲み物だけでも貰ってこよ。)
心身共に疲れきった体を持ち上げて椅子から立ち上がろうとした瞬間だった。
研究室のドアを誰かがノックした。
「だれー?」
「俺だ、良いか?」
レイモンドだった。
普段の軍の装備では無く、街中でよく見かける一般人でも着ていそうなラフなシャツとズボンを着ている。
「ダメって言ってもどうせ入ってくるでしょ。お好きにどうぞ。」
「はっ、よくわかってるじゃねぇか。」
「それで?要件は何かしら?」
「ちょっと、真面目な話があるんだが、良いか?お駄賃はちゃんと持って来たからさ?」
そう言って、レイモンドは左手に持っていたワインボトルを見せびらかした。
「はぁ、どこに真面目な話をしに来る時に酒を持ってくる奴がいるのよ。まぁ、頂くわ。」
アリアは、様々な物が乱雑に置いてある棚にあったグラスを2つ、山積みになった紙をどかした机に置いた。
レイモンドは手際よく、アリアが出したグラスにワインを注ぐ。
「それで、なんでこんな事をしてまで何を話したいのか教えてもらいましょうか。」
「あぁ、単刀直入に言うと、ジークの母親の事だ。謁見の時、アレク王子が、ジークとソフィーの事を反対しただろう。」
「そうだったわね。」
そう言ってアリアは、次がれたワインを飲んだ。
「理由は、お前も知ってるだろ?」
「えぇ、まだ私も、今ほど立場が上じゃ無かったから詳しい事は知らないけど、獣人の暗殺集団にって…」
「まぁ、そんなとこだ。王妃は。寝込みを襲われた。
犯人はその場で殺され、遺体を含め捜査をして、暗殺集団の存在を突き止め、奇襲し、壊滅させた。
当時は、まだ、平兵士だったけど、印象的だったな。」
「三言くらいでまとめたけど、かなり悲惨な事件よねそれ。何で王宮の衛兵は守れなかったのかね。」
「それがな。未だに謎が多いんだ。
犯行グループは全員捕縛したから、それで解決したが、結局最後まで王宮内への侵入方法は分からずじまいだ。
王妃の部屋は窓も二重で閉められていて、部屋の扉の前にも衛兵が居たんだが、王妃の声を聞くまで気づけなかったんだとさ。」
「未だに謎が多いか…転移魔法の技術は失われてしまったしな…」
「当時はギスギスしていた西のギリニス帝国が一枚噛んでるんじゃないかと言われたんだがな。
当たり前だが、向こうはしてないの一点張りだった。」
喋り続けて口が乾いたレイモンドもワインを口に含んだ。
「それで?まだ私が下っ端魔法使いだった頃の事を思い出させて何がしたいのかしら?」
「これをあの2人に言うかどうするのかだ?」
「ジーク王子とソフィーに?」
「あぁ。2人もきっと、謁見の時の事が気になっているかもしれない。ソフィーが知らないのは当たり前だし、ジークもまだ赤ん坊の時の事だ。王妃の記憶が残っていない可能性が高い。」
「そういうことねぇ…私は言うのは反対かな…」
「何でだ?」
「だって、この事を知って、ジーク王子はこれまで通りソフィーの事を見れるかしら?」
「だが…後々知った時の事が心配なんだがな…それにだ、ジークがソフィーの事を本気で想っているなら、大丈夫じゃないか?」
「そうだけど…しばらく様子を見たらどう?それか向こうからアレク王子の発言の理由を聞いてきたら教えれば良いんじゃないのかしら?」
(私達のせいであの子たちの繋がりを壊したくない…)
「はぁ…それが妥当なのかもな…とりあえずこの件は終わりだ。」
「この件はって…まさかまだあるの?」
(もう疲れてるのに…)
「これは、上から言われたんだが、魔法が使えなくさせれる拘束系の魔導具を作ってくれって。」
「はぁ…」
(まーた、仕事が増えた。)
「ただでさえ、書類仕事多いのに…」
「書類が面倒なのも分かるが、魔法攻撃がメインの奴らを相手にするにはやっぱり必要って結論に至ったんだ。毎回あの3人や俺が出る訳にもいかないだろ。」
「確かにそうだけど…無茶ぶりにも程があるわよ」
「そんな焦らないでいい。とりあえず試作品を用意してくれ。頼む!今度飯奢るから!」
「はぁ…良い所の奢ってよ?」
「あぁ、任せろ!」
そう言ってレイモンドはグラスを掲げた。
その姿に合わせてアリアもグラスを上にあげた。
(忙しいのはあれだけど、たまにはこういうのも良いわね…)
そして、研究室の外の廊下には、偶然2人の話を聞いてしまったソフィーが俯いてしゃがんで居た。
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ガイロニア王都の王宮の一室に数人の官僚が集まっていた。
身分の高そうな高級な服装の男、ソフィー達が着るような茶色や黒のマントを羽織っている者等、様々服装だ。
「防音結界を。」
リーダー格らしい男が魔法使いに命じた。
「あぁ、分かっている。」
茶色いマントを着た男がブツブツと詠唱をした。
すると、部屋の壁一面に金色の魔法陣が囲んだ。
「これで大丈夫だ。」
「さてと、状況はどうだ?殿下はこの事でやや機嫌が悪い様だ。」
「とりあえず殿下が無茶なことをしない様に宥めてくれ。あの女相手では、殿下でも、王国軍の兵士が束でかかっても勝てるか怪しい。殿下自身も魔王には歯が立たなかったわけだ。」
「ではどうする?」
「今、軍の魔法使い研究室の方に、悪魔対策という名目で魔力を封じる物を作ってもらっている。奴も魔法が使えなければただのガキだろう。」
「あぁ、だが、奴は剣術にも長けているという情報がある。油断は決して出来ない。」
「では、その魔導具の形状を手錠の様な物にしてもらったらどうだろうか。それか奴がいる一定空間の魔力を封じ、その後物理的にも拘束するのが確実ではないか?」
「あぁ、それくらい厳重なのが良いだろう。それで、殿下から他に何かこちらに注文はあるか?」
「殿下からは、自ら拷問したいとの事だ。ただの処刑よりも、出来る限りの苦しみを与えた後に死を与えたいとの事だ。」
「では、回復魔法に長けた者も呼ぶか。それで偽の証人の用意は?」
「問題無い。金を積んだらあっさり請け負ってくれた。」
「分かった。それで決行日だが、婚約発表の日の夜だったな?」
「あぁ、そうだ。」
「そういえば、ダンタリオン殿、そちらの主はなんと言っていた?」
「特に何か言ってはいない。兄上は彼女を自分が殺した事にし、その功績を用いて魔王の後を継ぎたいという野望がある。仮に魔王になってもこの国の安全は保証しよう。
それが叶うならば、そこに至るまでの過程に関しては特に注文等は無い、
処刑後、首でも良い、何か殺した証となる物を譲れば問題無い。」
ダンタリオンと言われたジーク達と変わらぬ容姿の男が返事をした。
「要するに、奴を殺してくれれば、後は好きにしていいという事か…分かった。やり方はこちらに任せてもらう。」
「あぁ、後、ひとつ、兄上から伝言があ?。」
「なんだ?」
「お前たちがどう動こうと勝手だ。だが、俺を裏切ろうとは考えるな?こちらの情報網を舐めるな。お前たちが今日何を食べのかすら俺は知ることが出来る。とのことだ。」
「なっ…」
(流石と言った所か…裏で暗躍し続けただけあるな…)
「じゃあ、俺は兄上に報告があるからこれで、これにてお暇させてもらう。では…」
そう言ってダンタリオンと呼ばれた男は、体が黒い塵となって消え去った。
「これで良いんだよな…」
(こんなのと手を組んで果たして正解だったのか…信用はしていないが…)
「少なくとも殿下はこれで良いと言っておられます。我らは信じて従うのみです。」
「あぁ、この国には人間だけでいい。問題の種は全て摘み取らなければならない…」
この集まりの中心となっていた男は、これから行う事に対して覚悟を決め、お互いの不安を誤魔化しつつ集まっていたそれぞれの気持ちを確認し、その集まりを終えた。
To Be Continued
ワインって美味しいのかな、来月でお酒解禁ですが…ほろよいからデビューのつもりですが