「お互いを想う気持ち」
19話「お互いを想う気持ち」
2人の突然の発言に周囲の大臣や官僚達に驚きの表情が浮かぶ。
国王も驚いている様子だ。
「おい、あの女エルフだぞ、良いのか」「貴族でも無いのに…」「何であんなのと…」
本人達の前なので、大きな声では無かったが、ソフィーの耳にもヒソヒソと話す声が耳に入ってきた。
(良い気分じゃいけど、想定内。)
「ジークフリートよ。その女に惚れたのか?」
「はい!」
「理由を申せ。」
衝撃の発言にしては国王は落ち着いていた。
「はい、私とソフィーが初めて会ったのは、私が6歳の時、コルトや、レイモンドとエルフの里付近の森で魔物相手に剣技の訓練をしていた時でした。その時は少し話したぐらいでしたが、今でも私は覚えています。
そして私達は、数年前、王都で再会を果たしました。
最初は共に模擬戦を通して競い合う、ライバルや友人に近い関係でした。
それが今回の魔王討伐を通して、お互いを異性として意識する様になり、大事に想い、離れたくない、一緒に居たいと思いました。
まだまだ彼女の事は知らないことばかりと思います。
ですが、これから多くの事を共有し、幸せな関係を築きたいと思っています。」
(そっか、ジーク…そんな風に思ってくれていたんだ…)
「そうか、決して中途半端な想いでは無いと?」
「はい、もちろんです父上。」
「彼女がエルフでもか?」
「はい、私はソフィーの内面の優しさや誠実さに魅力を感じ、今に至りました。もちろん、彼女は外見もとても綺麗ですが…」
(えっ、ちょっと…)
「そうか、分かった。では、次にソフィーよ。そなたはどう思っているのだ?率直な気持ちを教えてくれ。」
(遂に来た…やるぞ…)
「はい、陛下…初めて会ったのは、ジークフリート王子の言った通りです。
ですが、私はその初めて会った時から素敵な方と思ってました。
数年後、王都に来た時、王子と再会出来た時、嬉しい気持ちでいっぱいでした。
当時、彼がどう思っていたのかは分かりません。
ですが、私は数年前から、惚れていたと思います。
師匠のアリアの元で魔法を学ぶ傍らで、時々、彼に会えた時、恥ずかしい気持ちと共に同じ時間を共に出来る喜びがありました。
彼に対する気持ちは時間が経つにつれて、増していき、それが恋と気づきました。
そして、今回の魔王討伐にて、魔王を倒した後に、私たちは、これからも一緒に居ようと約束をしました。
私自身、魔法使いとしてこれまで歩んできました。
一人の女性としては貴族の令嬢と比べたら野蛮な存在かもしれません。
ですが、彼を思う気持ちに関しては嘘偽りは存在していません。
まだまだ、未熟な者ですが、いつか、結婚し、妻として彼を支える覚悟も持ち合わせています。
どうか、私達が恋仲になり、これから先歩んで行くことをお許し頂けたらと思います。」
そう言ってソフィーは国王に対して一礼した。
(とりあえず言いたいことは言えた。)
「そうか…分かった…。」
国王は少し思案した後、再び口を開いた。
「ジークよ、私はお前には本当なら、どこかの貴族の令嬢と結ばれる様にしようと考えていた。実際候補は存在している。だが、魔王というこの国の脅威を倒した2人のお互いを想う気持ちを私は無下にしようとは思わない。」
(つまりそれって…)
「父上、つまりそれは…」
「あぁ、2人の関係を私は認める…」
ソフィーとジークはお互い目を合わせて微笑んだ。
周囲の大臣達は、未だに何か話していた。
「そんなの認められません!父上!」
学校の集会前の体育館の様な状況がその声で一瞬で凍りついた。
その声の主はジークの兄、アレクサンダーだった。
「何でエルフなんかと…何故、それを許すのですか…母上は…」
「それは分かっている、アレクサンダーよ。だが、この2人の今回の功績、関係、お互いを想う気持ち、覚悟を踏まえた上で私はこの決断をしたのだ。」
国王はアレクサンダーの発言を遮ってソフィーとジークに向き合い、話を続ける。
「ジークフリートとソフィーよ。私はお前たちの関係をとやかく言う気は無い。だが、全員が、同じ考えではない。とやかく言ってくる人や、軽蔑の眼差しを向けてくる人も居るだろう。お前たちは自身でそれを変えていくのだ。己の行動で示せ。場合によっては、私自身が今回の事は無かったことにする可能性もある。それを忘れるな。」
「「はい!」」
遂に2人の関係が国のトップに認めて貰えたのだった。
その後は今回の魔王討伐に感じたことを、レイモンドを中心に報告がされた。
今後の生き残りの悪魔の対策の方針を話した。
まだ、倒した悪魔は数人。
オリアスの発言からも総勢72人居ると推測される。
それらをまとめる存在が消えたとしても決して油断は出来ない。
後日詳しいことに関して会議をすると決めてこの時間は終わった。
ある程度は穏便に話は進んだ。
だが、ソフィーはアレクサンダーが最後まで自分の事を憎しみのこもった眼で睨んでいたのを玉座の間を出て部屋に戻る道でも忘れられなかった。
(なんであんなに亜人を嫌っているの…)
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国王との謁見後はトントン拍子で進んで行った。
ソフィーの両親は、謁見の翌日に、再度ジークが里に挨拶に伺うと約束し、帰って行った。
ソフィーは、体調が万全になってから、軍務局の寮の部屋に戻った。
そして、ソフィーにとって非常に面倒な時間が訪れてしまった。
アリアの研究室での、アリア、アイシャ、レイモンドによる、ソフィーとジークの取り調べだ。
ある程度は謁見の時に話してしまったし、王都に来てからの事はある程度知っているため話す事は無いと思っていたが、それでも1時間程質問攻めにされてしまった。
そして、1番面倒だったのが、アイシャだ。
仕方ない事かもしれないが、妹分が自分よりも先に彼氏が出来てしまったのだ。それに対して絶望してしまい、ソフィーがそれを必死に宥める事になった。
アイシャも決して魅力のない女性ではない。いつか運命の人に出逢えるだろう。
魔王討伐に行く前に、アリアに1人前と認められたソフィーとアイシャだったが、再度弟子として教わりたいと彼女に頼み込んだ。
ソフィーは女神の助けが無ければ魔王に勝てなかった事、アイシャはベレトの肉体は何とか倒せたが、霊体には逃げられてしまった事。
2人ともそれぞれの未熟さを実感し、まだ学ぶ事があると感じたのだ。
まだしばらくは、毎日の様なアイシャの遅刻や突然邪魔しに現れるジーク等、賑やかで楽しい日々が続きそうだ。
ソフィーはもう1組のカップル候補の事も気にはなっていた。
だが、2人はまだ、会う度にお互いを罵倒しかしない、仲良いのかすら分からない関係だ。
喧嘩するほど仲がいいのかもしれないが、まだお互いを異性として意識する領域には至っていない。
こちらはきっとまだまだ先だろう。
ソフィーはお似合いと思っている様だが…。
そんなこんなで、慌ただしい中でも段々と日常に戻って行った。
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【王宮の一室】
ソフィー達が休んでいた部屋よりも広く、豪華な部屋だ。
だが、本棚には魔術や歴史の本が並んでおり、客室と違って個人的な部屋と窺える。
「何故だ!何故なんだ!」
青年は、勢いよく目の前の高そうな椅子を怒りを込めて蹴り飛ばした。
「落ち着いてください、アレクサンダー様…」
近くに居た護衛が慌てて椅子を戻す。
「こんなこと落ち着いていられるか!王族がよりにもよって亜人と恋仲になるなど…」
「確かに簡単に納得出来る事では無いです。私自身もそれを殿下から聞いた時、疑問に感じました。何故、陛下は認めたのだろうかと…」
「そうだよなぁ、俺は間違ってはいないよな?」
「はい、そう思います。ですが、魔王討伐という偉業を成し遂げた英雄とも言える2人を非難するのは流石に危険かと思います。第2王子の彼に王位継承権をと言われてしまう可能性もあります。今は様子見でも良いのでは無いでしょうか?」
「何にせよ時間をかけるか…」
「はい、亜人の殺されたお母様のためにもです。この事を当時まだ幼くて知らないジークフリート様は、エルフに惚れても仕方ないと思います。ですが、今の状況を鑑みるに本人に言うのは時期尚早かと…」
「あぁ、とりあえず落ち着いて行動するよ」
「はい、それが一番かと思います。」
To Be Continued
次回デート編(乞うご期待)