「告白と手紙」
久しぶりです。遅くなりすみません。
あなたを好きにならなきゃ良かった〜エルフに生まれ変わったお医者さんの波瀾万丈記〜
11話「告白と手紙」
ソフィーの魔王と戦うという突然の言葉に、皆理解出来ず、数秒間の沈黙が訪れ、静けさの中で乾いた風だけが吹き、草原を揺らした。
そして、アイシャが沈黙を破る。
「え?!ソフィーが?」
妹分の予想外の宣言に、驚きの反応を示す。
「確かに、さっきの悪魔を倒した実力は本物なんだと思う。でも、それで高慢になっては絶対にダメよ。もし、悪魔も倒せたし、魔王も余裕と思っているなら、今ここであなたを気絶させてでも止めるわ。そのくらいあなたには死んで欲しくないのよ。」
アリアは正直に自分の思いを語った。
(師匠…私の事そんな風に思ってくれてたんだ…)
「そんな…調子になんて乗ってないですよ…」
(そうよね…賛成されるとは思ってなかった…でも、これは私がやらなきゃならない宿命に近い事だと思うんだよな…)
「これは、私がどうしてもやらないといけない事なんです。師匠、姉さん。どうか、こんな私のわがままを聞いてください。」
そして、ソフィーは、2人に向かって深々と頭を下げる。
その様子にアリアとアイシャは少し困り顔だ。
アリアが口を開く。
「ソフィーの実力は分かるが、『仕方ない、じゃあどうぞ』とは言えないわ。何故なの?何故そこまで魔王と戦うことに拘るの?」
(どうしよう…なんて説明したらいいんだ…?シンプルに女神に頼まれたとか?前世の記憶を引き継いでるとか言うべきなの?)
「ねぇ、ソフィー教えて?なんで?お姉ちゃんにも教えられないの?」
アイシャが更に追求してくる。
「私だって…2人のこと大事だけど…」
どのようにして、どこまで何を言うことが正解なのか、ソフィーにも分からなくなってしまう。
(もう、何年もの付き合いだし、正直に告白すべきなのかな。こういうのって言っていいのかすらも分からないけど…2人の事は心の底から信用しているし、秘密にしてもらえるのなら…)
しばらく考えた後、ソフィーはやっと口を開いた。
「あのう、師匠と姉さんと大事な話があるので、他の方々は、先に王都の方へ戻っていただけませんか?後から追っていきますので…お願いします。」
「は、はぁ…まだ何かいるかもしれないので、それだけ気をつけてください。」
兵士の1人がそう言うと、踵を返して、王都の南門の方へと歩き出した。それに他の兵士も続いた。
そして、兵士たちが、声が聞こえない距離にまで達したところで、ソフィーは話し始めることにした。
「あのね、2人が私が魔王と戦う事を反対するのは当然だと思う。私だって、師匠や姉さんが同じこと言ったら絶対反対するわ。でも、これは私に課せられた宿命に近いものなの。」
そう言って、彼女は前世の記憶があること、病気で死んだこと、そして、女神と話し、魔王を倒す様に頼まれて今の世界に転生した事を、正直に赤裸々に2人に語った。
その話に、アリアとアイシャは最初は驚き、目を見開いたものの、その後は真剣な眼差しで最後まで話を聞いていた。
「そんなわけで、私は、この世の人じゃなくて、女神に頼まれて、その魔王と戦わないといけないの。ダメ?」
この質問に今度は、2人が困ってしまった様だ。
しばらく考え込んだ後、アリアが話し始めた。
「そんな過去があったのね…それで、魔王と戦わないといけないって事か。私としては、話を聞いても危険な事はして欲しくないんだがな…」
「大丈夫です、師匠。必ず戻ります。」
その言葉を聞いた途端、それまで黙っていたアイシャが口を開く。
「必ず戻るって…何を根拠にそんな事言ってるの?それで、帰ってこなかったらどうするの?私のパパとママだって同じ事言って帰ってこなかったのに…」
アイシャの目の端には、水滴が溜まっていた。
その言葉と表情にソフィーは言い返せず、黙ってしまった。
(姉さん…)
アイシャの両親は、王都を拠点として家を構え、冒険者として依頼をこなして、収入を得て生活していた。たが、アイシャが6歳の時、普段通り、両親は仕事に行ったが、二度と帰っては来なかった。詳しい事は分からないが、魔物に襲われ、殺されたと彼女には伝えられた。その後、施設に入れられたが、馴染めず、逃げ出した所をアリアと出会い、弟子入りしたのだった。
以前、ソフィーもこの事は、アイシャから話を聞いていた。
根拠も無く、必ず戻ると言われ、再び大事な人を失うなど、アイシャには耐えられないだろう。
「はぁ…じゃあこうしましょ!」
2人に困ったアリアが、パン!と1回、手を叩いて注目を集める。
「はい、もう考えるの面倒だし、2人で一緒に援軍として行っておいで。私はまた、さっきみたいに魔物が来たら嫌だから、王都に残るよ。これなら、2人で助け合えるし、心配事も減るんじゃないかしら?」
「え?師匠?良いんですか?」
腕で涙を拭いながらアイシャはアリアに聞き返した。
ソフィーも驚いた様子だ。
「仕方ないでしょ、ソフィーは魔王を倒すのが、女神から頼まれて、行かなきゃいけない。そして、アイシャはソフィーの事が心配でたまらないんでしょ?だったら、これが1番良い案なんじゃないかしら?私だって、2人について行きたいけど…仮にでも、魔王倒して王都に戻ったら、焼け野原なんて事があったら嫌だから残るわ。心苦しいけどね。」
アリアの表情はだいぶ辛そうだ。だがらそれだけ、面倒を見てきた2人が大事ということでもある。アイシャに関しては10年近く一緒に居るから余計だ。
アリアは話を続ける。
「たーだーし!ちゃんと姉妹で助け合うこと。これまで学んだことをちゃんと思い出して戦うこと。行くのは他の兵士達も居るから、そこともちゃんと連携して協力すること。分かった?」
「「はい!師匠!」」
「じゃあ、話は決まったし、王都に戻って準備しましょ。魔力強化とかの魔道具や、防具を付けて、フル装備で行きましょ。」
「「はーい!」」
そう言って3人は、並んで、王都に向かって歩いていった。
「あっ、魔物の死体の対処を他の兵士とかにやらせないとな。素材も回収したいし。」
「あの、師匠、もし無事に帰れたら、何か、ご褒美貰えませんか?」
アイシャが、まだ魔王に勝ったどころか、戦闘が始まってもいないのに、帰ってきた時の事を話し始める。
「はぁ…こんな状況でも、あなたはいつも通りですね…。」
アイシャのマイペースぶりに呆れ気味のアリアだ。
その会話を遮るかのようにソフィーが2人に話す。
「あの、一応伝えときたいのですが、私が前世の記憶があって、別世界から転生したというのは、誰にも言わず、秘密にお願いします。何かトラブルが起きても嫌なので…」
この話をする上で、1番ソフィーが気にしていた事を2人に伝える。
「えぇ、分かったわ。これは3人の秘密って事ね。」
頷きながら、アリアが直ぐに了承してくれた。
「師匠、ありがとうございます。」
ソフィーはアリアに頭を下げる。
「じゃあ、そろそろ軍務局に戻りましょ。時間は有限ですし、装備も整えないとでしょ。」
「行く前に腹ごしらえもしたいわ!」
アイシャが拳を天に突き上げながら、大きめの声を上げる。
「姉さん、いっつもお腹空かせてるよね…」
「そんな事ないし!体力つけておきたいんだもん!」
「まぁ、腹が減っては戦ができぬって言うからね。」
「え、ソフィー何それ?」
「あっ、ごめん、姉さん。前世の言葉だよ。お腹空いてたら、戦えない!みたいな感じ。」
「そうなんだ!じゃあ本当に今の状況にピッタリだ!」
「じゃあ、今夜は美味しいのたべよっか!!あ、でも、装備とか、必要なもの買ってからだね。」
珍しく、アリアがアイシャと意気投合していた。
「えっと、じゃあ私、肉串食べたい…」
「ソフィーったら、いっつも何食べたいって言ったらそれじゃん!まぁいいけど」
「えへへっ、だって美味しいんだもん…」
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とーさま かーさま、お元気ですか?最近忙しくて手紙を出せずにいてごめんなさい。
里に出るまで友達なんて居なかった私は王都に来て、こんなにも楽しい友達が出来ました。
一緒の部屋で暮らすアイシャ姉さんは、外のことなんて何にも分からなかった私に沢山のことを教えてくれました。魔法の事から、美味しいお店、服や、髪型のことまで沢山知りました。そして、本当に私のことを可愛がってくれるんです。ただ、朝が弱くて、すこし、天然ですけど、そこが面白くて、毎日退屈しないです。
師匠のアリアさんは。魔法に限らず、様々な事を知っていて、これまで沢山の事を教わってきました。魔法も、戦闘に限らず、生活をより便利にするものや、魔法が使用できない時や、魔法が効かない相手の時に使える錬金術も使えるようになりました。ですが、片付けは苦手で、時々私がやっています。
きっとまだ家で家族と暮らす様な年齢だった私を王都に送り出して下さったこと。ありがとうございます。
本当に唐突ですが、私はこれから魔王を倒すために戦いに行きます。本当に唐突でごめんなさい。でも、これは私に課せられた宿命に近いものなのです。これに関しては、いつか必ず私から説明します。自分では、まだ未熟かもしれません。だけど、私は、誰かが死ぬ気で戦っているのを、遠く離れた安全な場所で指をくわえて眺める事なんて出来ないんです。そして、私はこの数年間で、戦う術を学びました。とーさまとかーさまと師匠から学んだことがあり、少なくとも無力では無いのに、何もしないでいるのは私は嫌です。
ごめんなさい、こんな無茶ばかりする娘のわがままを最後に一つだけ聞いてください。もうわがまま言うのはこれっきりにします。絶対。
私はこの力を無駄にはしたくないです。もう、泣き虫で甘えんぼのソフィーじゃないんです。
とーさまとかーさまの事、大好きです。大きくなってもこれは変わりません。
この手紙が届く頃には既に私は戦っているか、決着が着いている事と思います。
きっと、怪我とかは避けられないと思うけど、絶対死なずに生きて、帰ります。
ソフィー
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最後に、手紙を2つに折り、封筒に入れ、その端にも自分の名前と宛名を書いておいた。
そして、ため息を吐いて、手に持っていた羽根ペンを置いた。
「ソフィー!師匠が早くしろって言ってるよー」
「はーい、姉さん、今行きます!」
そう言って、ソフィーはこれから始まる戦いに緊張や恐怖、様々な感情を抱いて、宿舎の部屋の扉を閉め、木の階段を1段飛ばしでスタスタと降りて2人の元へと向かって行った。
To Be Continued
次回、遂に魔王出しますかっ!