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鵬、天を駈る  作者: 吉野
1章、『◯◯◯◯◯◯』
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第9話 三河、其の謀

三河の謀、下準備編。


しばらく続く『』の部分は、過去の会話にあたる、


と思ってください。


「さて、話は少し時間を(さかのぼ)ります。」











『御目にかかり光栄に存じます。


斯様な童へのお目通り、誠に感謝致します。』







 ようやく殿にお目通(めど)りが叶い、


まずは挨拶を行う。



やれやれ……親父どのにお願い、おねだりをして


頼み込んだ甲斐(かい)があったというものだ。







『ふむ、構わんよ。そなたのことは噂に


聞いておる。"村井の数寄者(すきもの)の小僧"とな。


儂も"うつけ"を子に持った者


……一度、会ってみようとは思っておったのよ。』







 織田信秀、現在38歳。現代なら働き盛りの


いい中年のおっさんなんだが


……………戦国というのは過酷な時代、


髪に白いものが随分混ざっている。






『その言葉、ありがたく。


………うちの親父どのにはまあ、


随時と申し訳ないとは思うておりますよ。』






いやもうねぇ……味噌っかすの4男とはいえ、


好き勝手させてもらってホントに感謝しています。




我ながらしなびれた様な顔になる。








『…吉兵衛(村井貞勝)の所のはしっかり者よな。』


髭を撫でながらしみじみと言われる。



このおっさん、史実だとあと2~3年で


()くんだよな。






『三郎さまは行動はまぁ奇天烈(きてれつ)には見えますが


一廉ひとかどの者で有ると思われますよ。


……………今は、そう………反抗期……とでも


言いましょうか。少々、暴走気味ですが。』




少なくともアホウではない。それは確かだ。








『……………………数え8つの童に


擁護(ようご)される15の息子を持った儂は…………


どうすれば良いと思う?』




…………………なんか、心底(ヘコ)んだ声で言われた。











『    』



正直スマンかった。

















『とりあえず、用件を聞こうか。』


 重い声で尋ねられる。


浮き上がるまで結構大変だったとだけ言っておく。




 まずは口上をあげる。


『そうですね。まずは先の安祥の戦、


無事勝てたことをお喜び申し上げます。』






『あれは今川の自滅よな。


………どうせ松平の竹千代との交換のコマとして


三郎五朗あたりを狙っておったのだろうが、


焦りすぎたな。』




つまらなそうに目を細めながら言われる。


狙いまでも的確に読むか、さすが。







『では、お聞きします。今川……雪斎坊主は


()()()()()()と思われますか?』









『まあ……無理であろうよ。


そうさな、兵糧のそろった秋過ぎに寄せて来よう。


本格的にな。』




苛立たしげに床をコツコツと指先で叩きながら


難しげな顔で(つぶや)かれた。









………そこまで把握しているならば話は早い。



『では殿、お聞きします。次の戦、


()()()()()()()()()()()と思われますか?』



本題のひとつを叩きつけた。












『――――――ほう―――――』
















「といった具合にまずは殿と今川方の


本陣の位置を割り出したのです。」








「…………」


「む、む………」



お二人が黙り、(うな)られる。









とりあえず放置する。











「見当を付けたところはここ、」





城にあった簡易の地図を扇で指す。


「安祥の南………荒川山です。」









「ここまで解ればあとは簡単ですね。


私がしたことは近隣の村衆を金で雇って、


この山に大量に物資を持ち込んで


散撒(ばらま)き埋込みます。」




「ふむ?」


 殿が面白そうに話を促す。




「細かくした


枯木・砕いた炭・枯草・少しの石灰・硫黄・


刻んだ(わら)・油・焼いた貝殻…………



これらを丹念(たんねん)に………丁寧にかき混ぜ、


ひとつにした物を村衆に渡して幾重にも幾重にも。




最後に枯葉をかけ、分からなくすれば完成です。」






実際に村衆に渡したのは黒い土と枯草の(かたまり)


見えるように作っている。












「尾張よりの使者が何かをさせていたのは


知っていたが………」


呆気(あっけ)に取られた様な顔で三郎五朗様が呟く。




まあ、背負子(しょいこ)を背負った村衆が


やたらと動いておったからな。




気付きもする。









「それでよくも雪斎に気取(けど)られなかったな。」


平手様が感心したような、呆れられたような


顔をされる。







「その辺は抜かりはありませんよ。



そもそも村衆らには


『明より伝来した最新の、山を豊かにする秘薬』


の試みとして伝えていますので、彼らは喜んで


自ら率先してやっております。



ついでに帰りには、木々の低い所の"枝打ち"や


間の詰まりすぎた木の"間引き"を、


やり過ぎない程度にして(まき)として使うよう


背負うて帰れと指示しています。」






嫌々やっていては不自然極まりない。



実際、こうしていると山は健全になる。








「故に今川に聞かれても村衆は嬉々として


そう答えますし、彼等は自分達が


()()()()()()()()()()()のですよ。」




 だから連中から聞いても何もわからない。








 最後にダメ押しとして一手、



「それから、ひとつの山ばかりでは


ひどく目立ちますので」










ぐるりと3人を見回して、ひと言。




「近隣の20山、全てに行っています。」












 ()()()()()()()()()()()()()()()()



無論、荒川山であるのが望ましいのだがね。







一番重点的にやったから。













「一連の作業が終わったのが


………………確か、7月位でしたか?」


思い出しながら告げる。






「完全に終わった後なので雪斎が調べても


『善政を()いた事実と痕跡(こんせき)』しか分かりませんし、


その頃には雑草に(おお)われて


よく分からなくなってますね。」




 結局は何かあったと分かっていても平地に


本陣を敷く戦術的不利より、そこを選ぶしかない。








「7月…………2ヶ月以上も前………ですか……」


茫然(ぼうぜん)とした様にされる三郎五朗様。


自分のお膝元(ひざもと)でこのような


(はかりごと)が動いていたとは知らなかったようだ。









「ちなみに、だな」


 やや楽しげに殿が追加する。






「この話を持ってきたのは、


『今川、撤退』の報を聞いて数日後だ。」




4ヶ月位、前かな?








2人が沈黙した。


長い………素案に肉を付けていたら


エラい長さになってしまった。


いかんなぁ。



というわけで分割。





マメ知識



甲斐(かい)がある』



効果・価値や値打ちがある。という意味。


どうやら"甲斐"はただの当て字らしく、


甲州、甲斐の国とはなんの関連もない。


(こちらの甲斐は"山々の狭間"や"交通の交点"という


ニュアンスの『かい』から来ている当て字らしい)




数寄者(すきもの)



①風流人や物好き・変人。


要は"前田慶次みたいなの"



②エロい人




当然ここでは①。『何か変なコトしてる奴』






『三郎さま』



いわゆる"ノッブ"様。『吉法師さま』でないのは


3年前に元服しているため。


もう15歳ではあるが、まだ"くぎみー"でもイケる。


(ちょっと何言ってるか分からない)




なお、別に女とかではない。


(ホント何言ってるか分からんわ)






『荒川山』



現在の西尾市八ツ面山にあたる。


現在の地図を見ると安祥城と川を挟んでいるが、


当時は川の位置が違い陸続きであったそうだ。


程よい高所で近隣を確認しやすい。




『山は健全に』



適度な枝打ちと木の間引で日光が当たりやすくなり、


山の幸が取れやすくなる。


戦国時代はこれを貧しさ・寒さのために


過剰にやるから山が痛むのだ。


秘薬として本当に肥料になるものも混ぜている、


そのあたりがエグい。

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