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鵬、天を駈る  作者: 吉野
5章、『○○○○○○○』
85/248

第84話 武家の棟梁、というモノ




なんともえげつない事をする主人公。



相手も恐喝(きょうかつ)・脅迫が目的であるため、


どっちもどっちな話だが。




ふと思い返すと、


兄弟そろって主人公に同じ(から)み方を


しています。




・・・案外、似ている?








ふふ。



お馬鹿だなあ。


準備に数日もかけたらダメだぞ?



商人ならそれだけあればそちらの目的なぞ


充分に()ぎ付けるだろうさ。



………まあ、意図的に複数の情報を


錯綜(さくそう)させて(つか)みにくくさせているのだが。


相手に即動(そくどう)をさせないためにな。




ましてや私には、


元伊賀の三家が部下にいるのだよ?





勘十郎さまを私にけしかけるのなら、


事前に位置を確認して


即座に一同が動けるだけの用意をすべきだったな?





というわけで、林さま(弟)には最も厄介な


"特効"が付く兄君どのをかち合わせてやった。





この二人をわざわざ兄と弟に分けて傅役とする。


如何(いか)なる意図か?



兄弟の血の絆を盾にして、


主家に対し其々(それぞれ)に神輿を担ぎ家中を乱すな


………という策と見るか。



あえて兄弟で争わせ"林"の力を落とさせる策か。




……………まあ、十中に九は前者なのだが。



とはいえ、戦国時代の名将というのは怖い。


一割くらいは後者の可能性もあるんだよなあ。





そんなこんなで大人は大人で話をしてください。


こちらは子供のみで話をしてみます。










…………………………弟どのへの説得は、


おそらくこれが最後の機会かと思われます。



血を分けた弟ですから、


その説得には文字通りに死力をかけてどうぞ。




――――この機を逃せば、


彼を穏便に庇うことはかなり難しくなりますから。




今の弾正忠家に、


人材を無駄に消耗(しょうもう)するだけの余裕はありません。


……………どうぞ、よろしくお願いします。









さて?



ではこちらはこちらで話を致しましょうか。




―――――――はて?



……"武家がずいぶん容易(たやす)く頭を下げるものだ"と?


"武家の誇りは何処(どこ)へ置いてきた"と?




これは片腹痛いことをおっしゃる。





()の高さとは(それ)を下げたときの


効果の高さを保つためにこそ在ります。



高みから垂れる(こうべ)にこそ、


(まこと)の価値が宿るモノですよ。





上に立つものが高みに登るのは、


いち早く"一大事(いちだいじ)"や"(わざわ)い"を見抜くためです。





それらの厄災(やくさい)から民草を護るために、


(おのれ)が高みから転げ落ちて命を失ってもいい


……………そのような決意を持って。



蹴落とされ殺される危機をも抱えて、


高台に立つのです。



高みに立つものは決死の覚悟と、


広く全てを見透(みとお)す見識が必要となります。





下々(しもじも)見下(みくだ)すために


その程度の理由で登るのでは断じてないのですよ?





これが正しい、真の君子(くんし)と呼ぶものです。


それが"孔丘(こうきゅう) 仲尼(ちゅうじ)"が数百年を越える


おぞましい乱世の地獄の中で、


本当に願った為政者たるものの姿です。








さて、勘十郎さま?



あなたは()()()()()()()()()()()


この先に()()()()()()のですか?




なった(あかつき)にどの様な展望をお持ちですか?




―――――それをお持ちですか?




もし、抱える覚悟が無いのでしたら。


棟梁になるのはどうぞお止めください。




 そ の 先 は 地 獄 で す よ ?



武家の棟梁は


全てを己の裁量のみで決めねばならず、


しかもその結果は己の肩にのみ()し掛かる。



誰も肩代わりしてくれず、誰も(かば)ってくれない。





己の家族、一族郎党に家来衆。


そして領地の庶民たち。




弾正忠家、一万を超える生命の重責がその身体を


()し折らんばかりに押し潰す。




その狂わんばかりの重みに


耐えきれるだけの想いが在りますか?


抗いきれるだけの願いが在りますか?





―――――――在るならば、構いません。


挑戦すればよいでしょう。




……………しかし、無いのでしたら


棟梁はお諦めなさい。




半端な気持ちで背負われても、困ります。


誰もが不幸になるだけです。




覚悟の無き棟梁なぞ、迷惑なだけです。









―――――――――――ふうむ?



…………兄上ならいいのか?


―――――ですと?






――――――――ええ、そうです。


勿論(もちろん)、よいのですよ。





三郎さまは、既にその地獄を()く事が


最初から決まっていますから。



織田弾正忠家の嫡男(ちゃくなん)として産まれた瞬間より、


その生き地獄へ()ちる事が運命付けられています。




そのように産まれ、そのように教えられ。


そのように生きるしか他に(みち)は在りません。



逃げることは(かな)いません。






だからこそ、せめて今だけは。



殿もそれがわかっているからこそ、三郎さまを


()くの(ごと)くに甘やかされているのですよ。





――――――ですから、勘十郎さま。


せめてその背を後ろで支えてやってください。




背負わされた生命の重みに潰されぬよう。


引き裂かれる様な重責に気が狂わぬよう。




ほんの少しばかり背中に手を当ててあげて下さい。


それだけで構いません。



一人ではない。


確かに支えは其処(そこ)に在る。




背中にそっと()えられた暖かさは、


きっと最後の下支えとなりましょうから。




我等は三郎さまに護られると共に、


彼の心を守らなければなりません。






――――――――それとも


兄の代わりに、背負う覚悟が御座いますか?









…………………………などと。


少々、湿(しめ)っぽい話をしましたが。



まあ、もっと軽く、(ゆる)く考えましょうや?




要は考えようです。




棟梁なんて面倒極まりない仕事は、


三郎さまが進んで(にな)ってくれるのです。




私たちは三郎さまの後ろから、


『棟梁さま』が切り(ひら)いた(みち)


のんびり・ダラダラと付いて行けばよろしい。




…………とは言うものの、


さすがにお一人で全てを任せるというのは


とても"()()()()"ですから?


我等は後ろから手伝って差し上げればよいのです。






気楽なモノでしょう?






――――――どうしても気になるようでしたら、


お父上の所へお伺いして


『棟梁というのはそんなに面倒であるのか?』


とでも聞いてみるとよろしかろう。




…………もうそれはそれは、


日頃の鬱憤(うっぷん)を長々と語ってくれましょうから。







――――こちらを差し上げます。



たまにはお父上に酒の一つでも持って訪ね、


腹を割って話すのも良いでしょうね。








1550年、織田 信長の弟である織田 信勝は

兄を正式に弾正忠家の後継と認めた。


これにより、水面下で争われていた継承争いは

無事終息する。


これにより弾正忠家は経済の進展と共に

政治的にも安定し、さらなる発展を迎える。



以後、信勝は一歩下がり後方から

兄である信長を補佐をするようになる。







4章末でも林さま(兄)が(つぶや)いていたように、


カッツさん陣営は結構"詰み"に近い状態にある。



兄は"さすがに動かないだろう"


と見たにも関わらず、それでも弟は動く。




そのため、現在林さま(弟)は


主人公が発言した通りに


謀反の罪に問われるかどうかギリギリの瀬戸際。




そのため林さま(兄)は、弟の説得に必死になる。



カッツさんとの会話。


前半と後半がまるで別物だが、


実はこれは主人公の交渉話術。



前半で"行く先の恐るべき険しさ"を強く強調し、


後半で"そもそもやる必要なくね?"と軽く流して


カッツさんに"やめるための逃げ道"を与えている。




正直この手口は、


いわゆる"悪魔の誘惑の物語"などで使われる


結構に悪質な交渉術。




子供相手にそんなモノ使うなよ。


大人げない。




※子供です。


(格好は。)





マメ知識




『錯綜』



物事・情報などが


ゴチャゴチャに入り交じり混乱すること。


状況が複雑に込み入っている様子。




『孔丘 仲尼』



いわゆる"孔"先生。


儒学の産みの親である、孔子のフルネーム。


荒れ狂う戦乱の只中(ただなか)に産まれた。



君主とそれを支えるものが


高い見識と良識を持てば世の中は


安らかになる……と説いた。





『父に酒を持って訪れる』



お前らちゃんと親子のコミュニケーション取れよ?


という伝言。


あとはカッツさんに棟梁を諦めさせる、


ダメ押しの一手。



信秀も意図を読み取り、


"棟梁ってめんどくせえぞ?"と散々に愚痴る。


二人は夜遅くまで話し合った。



なお、翌日は二人揃(そろ)って二日酔い。


まあ、コミュニケーションは取れた様子。




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