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鵬、天を駈る  作者: 吉野
5章、『○○○○○○○』
83/248

第82話 村田屋(那古野店)、ある1日(その三)

新章、"5章"になります。


・・・・が、章の題名はいまだ未定。



章のタイトルは変更もあり得ます。



では、


第 5 章 『 ○○○○○ 』の開幕です。




1550年も新年が過ぎて数ヶ月。



もう四月………卯月にもなる。




この頃の年齢の数え方は"(かぞ)え歳"である。


産まれた年が数え1歳。


そこから新年ごとにひとつ歳を取る。




今年で、私は数えで9つになったわけだ。



なったわけだ………が。


何で9つの小僧がこんなに仕事をしているのかね?


―――――などと、たまに思うこともある。



本格的に"李部"が稼働し始めたせいで、


我ら村田衆のみならず


熱田も津島もあらゆる商人がてんてこ舞いなのだ。




何せ歴史上初の大事業だから、前例が一切ない。


前例がない以上、トラブル回避のための


マニュアルを事前に造ることが不可能となる。





何もかも手探り、何もかも撞着(ぶつかる)ことばかり。



(ようや)く一段落ついたところだ。




パネル工法の長屋アパートを高速で建築。


飯屋の店を急遽(きゅうきょ)展開、仕入れシステムの超拡大。


那古野各所に古着屋を数店舗の新装開店。




数ヶ月で1日に100貫と言ったが、あれは運営の側。


町中にお(こぼ)れがぶちまけられ、


商人たちはそれを拾い上げるのに必死だ。



現時点で1日の売上は100貫をとうに越えている。


ま、そこまで達したのはウチだけだがね。




なんせ最初から拾う用意をしている運営側だから。


準備はすでにフライングをして行っていた。





………………ああん?


インサイダー取引?




安 心 し ろ 。


そ ん な 規 制 は 無 い 。



――――――概念すらも。





村田は"李部"との提携を最初から行っている。


登録時に相手に木札を与えており、


これを見せれば多少の割引が発生する。




官民提携型の割引サービスだな。


事前に大量の木札を用意していなければ出来ない。


他の店では単独では用意できない。


出来る資本が有っても造る時間が足りない。




まさにフライング様々だ。



そして多方面への店を持つ村田は、


複数の商品や契約に使用できる。




口入れに来る者達のほとんどは、


食うに困るほどの生活困窮者(こんきゅうしゃ)が多い。




一枚の木札で多くの店で割引が可能な村田系列は、


現在、ダントツの売上を稼いでいる。




割引をしている分、少々に薄利(はくり)の様相があるが。



まあ、今はこれでいい。




那古野に住まう(ほとん)どの民の暮らしが


(うるお)って来れば


またその時に考えればいいことだよ。




"その時"にはごねられるだろうが、


この割引はあくまで困窮者支援と銘打(めいう)っている。




困窮者が少なくなれば縮小されるのは道理だ。


そこまで楽はさせんよ。





銭の無い者の(ふところ)からは銭は引き出せないが、


銭のある懐からはいくらでも引き出せる。




商いの定石にして極意のひとつだ。





同時に、"李部"で開かれる講座……


その中でも読み書き・算術・経営など。


現在のところ村田系列のみが独占して開いている。




この時代、知識は秘めて独占するのが常識。


独占するからライバルが少ない。


この思考が当然。



勧めてもリアクションはなかった。





 () () () () () () 。




お陰で新規の経営者・事業者、


そして才能の片鱗(へんりん)のある者をこちらで残らず


(すく)いとり独占することが可能となっている。



彼等に村田系列として出資したり、投資したり。


目をかけた者には更なるスパルタ教育を施したり。



まさに好き放題をしている。




やがてはこのカラクリに気付くだろうが、


世の中は『()を見るに(びん)』というもの。


(まこと)に見るべき者は真っ先に名乗り出る。





既に出遅れにして手遅れというものだ。




せいぜい(ふる)いものを独占しているといい。


こちらはそれまで新しき風を独占しているから。





(あきな)いにも(まつりごと)にも。


本当に必要なのは銭でも知識でも設備でも、


ましてや権勢でもない。




真に必要なのは"人の財"だよ。



全てにおいてどんな立派な神輿(みこし)があっても、


担ぐ人間がいなければ動かすこともできない。




特に現時点では、何をするにも人手が要る。


ここで総浚(そうざら)いしてやろうとも。



10の砂を(さら)っても何も得られずとも、


1000の砂を浚えば(ぎょく)も金も見出だせるだろうさ。





目指せ、人財長者だ。













「―――――――御免!


ここに村井どのが()られると聞いたのだが。」





……………おやおや。



やって来られたか。





――――――――()()()()()()








そもそも中世という時代は洋の東西を問わず、


庶民に文盲(もんもう)で学が乏しいことを望む。



そのために学を得るわずかな機会を得た者のみが


のしあがるチャンスを得る。



このチャンスを得る者を限定させ、


利益を独占する。


(あるい)は簡単な扇動(せんどう)で民を迷わせ狂わせる。




そして民を貧しさで支配する。






根本的にこの旧いシステムを破壊するのが、


主人公と"李部"の目論見(もくろみ)となる。




ついでにインサイダー取引で大儲け。





そして?



何やら訪問者。


手薬練(てぐすね)を引いている主人公の前へ。




誰かは知らないが、


逃げて、超逃げて~。






マメ知識




『撞着』



音読みで"どうちゃく"とも読める。


これで"ぶつかる"と読める。


かの幸田露伴も使っています。





『インサイダー取引』



これが世界で最初に禁止となるのは1909年、


合衆国最高裁で制定される。


はるか未来の話。



この頃は当然のように行われる。





『玉』



大陸においては、"美しい石"全般をさす。


漢字で"王偏"がつく琥珀(こはく)珊瑚(さんご)翡翠(ひすい)など何でも。



日本では"玉"は翡翠を特定して指定する。





『手薬練をとる』




"薬煉(くすね)"というものがある。


これは、松脂(まつやに)を煮て練り混ぜたもの。


弓の弦に塗って、強度を高める。



手に、薬煉を持っている。


つまり弓の手入れの準備ができた状態。


ここから、


用意して機会をうかがうこと、


待ち構えることなどを意味する。



釣り糸を意味する"テグス"や、


天蚕(やままゆ)から取った生糸(きいと)の"天蚕糸(てぐす)"


とは別の言葉。

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