第8話 "続"殿様、来る
恩賞の場面、まだ続いています
ひととおり作り終えたものの、
なんか気に入らなくてこねくり回して数時間……
結果300字近く増量しました。
難産でした。
先の一戦で活躍した者達の名が1人ずつ呼ばれ、
賞される。
感状だけでなく金品や刀・名品などを普段よりも
かなり多めに配っている。大盤振る舞いだ。
ま、何せ三河において近年にない大勝だ。
当然か。
呼ばれる方もホクホクである。
「では、以上だ。
後はそれぞれやるべき事をするが良い。」
手をひとつ打たれて、殿が締め括られる。
幾人かが怪訝な顔をされる。
不思議に思ったのであろう。
『ひとり、足らなくないか?』と。
ま、それは問題ない。
だからこちらをチラチラ見てくれなくていいよ?
問題ないから。
殿が上座から腰を上げられる。
そして、
「三郎五朗、五朗左衞門。
終わったら儂のところに来い。」
入ってこられた時のように、足音を響かせつつ
部屋を出ながら告げた。
「それから、村井の小倅、妙見丸もな。」
ホラね。
話はまだ終わってないわけだ。
だからご心配なく。
「揃ったか。」
殿のために用意された部屋に集まる。
一般の部屋としては広い、貴人には程よい広さか。
尾張から持って来られたであろう箱類が幾つか並び、
部屋の外には側仕えがひとり。
旅装から着替えて独り、落ち着いておられた。
そろそろ寒くなってきたので羽織を着込み、
各々に炭を焚いた火鉢を配っておく。
火を着けたばかりの炭はまだ淡く炎を上げ、
身を赤く火照らせて翳した手の平を
じんわりと温める。
やや熱めの白湯をちびちびと飲む。
他の3人は酒にするか迷ったが、まだ日は高い。
やめておいた。
こいつら、散々に呑んでたしな。
「まずはご苦労。ここで今川の勢いを潰せたことは
何よりだ。三河もしばらくは落ち着くだろう。」
少し背を丸めるようにして火鉢にあたりながら
殿が労われる。
「はっ」
「忝なく。」
2人が頭を下げた。
続けて頭を下げる。
しばらく話が弾んでのち、
「それで、殿………」
平手様が三郎五朗様を代弁するように口火を開く。
「此度、わざわざおいでになられたのは
どの様なご用でしょうか?」
何やらこちらをじろりと睨み、
「……………それから、」
苦虫をたっぷりと味わい切ったような顔で、
騒々しい、格子窓の外を指差した。
「あれら………………山のような坊主の群れは
………一体、何なのですか?」
今、安祥の城には――――――
城を埋め尽くすほどに僧侶が犇めいている。
いやホント、何人いるのやら。
呼んだ以上はそれなりの扱いをせねばならぬ。
どうやら物資については殿が十分に持って
来られたからいいものの、
彼等の対応に城中がてんてこ舞いだ。
「うむ。それについてはな………」
腕を組み、目を伏せていた殿が目を開ける。
「そこの村井の小倅にきくといい。」
え?
丸投げ?
3組の視線がこちらに向く。
三郎五朗様の訝しげ視線、
どこか面白がるように目を細めた殿の視線、そして
「なるほど、やはりこの坊が
関わっておりましたか。」
納得されたような平手様の視線だ。
ため息をつきつつ、小首をかしげる。
「では、どこから話しましょうか……………」
外の騒がしさに目を向け、次いで呆れた目で
殿を見やる。
いくら何でも連れて来過ぎでしょ……………
「そもそも此度の一連の話の起こりは以前、
殿とお話させて頂いたことが始まりとなります。」
キリが悪くなったのでここで仕舞いです。
ようやく出てきた主人公の名前(幼名)。
我ながらずいぶんと引っ張ったなぁ。
(出さない、という案もあった。)
マメ知識
『感状』
当時の感謝状。
ただの紙切れと言うなかれ、
これは言ってみれば
『箔が付く』のであり、
家の名声や浪人の再就職など有利に働くのである。
例えば、『雲の上のヒト』や『憧れのトップスター』
から色紙にサインをもらった、と想像するといい。
『額に入れて飾る』と思いません?
有り難みはあるが、多用するとケチだと嫌がられる。
経済的に余裕の無い某将軍家などは戦の恩賞を
9割以上、感状で済ませたりすることすらある。
(ネームバリューだけはあるから)良いんだよ。
また渡す側からすると、土地とかでなく
『消え物』で済ませたいという事情がある。
『大盤振る舞い』
大盤は当て字でルーツは『椀飯』、
つまりお椀に盛った飯。
鎌倉時代ごろから、将軍家に『椀飯』という
正月のお祝い御膳を奉るという儀式ができる。
ただしお祝いなどで親戚・ご近所にご馳走を
振る舞うことの表現となる、
この言葉ができたのは
『江戸時代』のこと。
うん、「また」なんだ。すまない。
『幼名』
生まれてから、この時代の成人にあたる
『元服』までつけられる名前。
●まだ一人前でないから
●元服前の子供は『まだ天からの授かり物』ゆえ
●当時の子供は死亡率が非常に高かったため、
『悪いモノ』に連れていかれぬようにあえて
仮の名前で呼んでいる
などいくつかの理由がある。
たいていの場合神名・仏名などといった、
縁起の良いものにあやかる。
『そろそろ寒い』
中世日本の家屋は気密性がない。
屋内でも隙間風がひどい。
また当時は旧暦が使われている。
旧暦は毎年6時間ほどズレが発生しており、
そのため新暦に比べ
『そもそも1ヶ月位ズレてる』。
実際には11月なかば……そりゃ寒いわ。