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鵬、天を駈る  作者: 吉野
4章、『○○○○○○○』
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第67話 那古野城下✕○町、お幸の場合



さて、主人公・村田が関わるからには


"局"にも商いが必ず関連します。



今回はそんな話


…………の導入編。







「いらっしゃいませ!」



お客様に掛ける声は、明るくハキハキと。


心にモヤモヤが有っても出すのは厳禁!



「ご注文、ありがとうございますっ!


"丙"定食ですねっ。かしこまりました!」





選んでもらったのは幸い。


ならば感謝を示そう。



せめて一時でも満足がありますように。




出した銭に見合うモノを返そう!




「ありがとうございました!


またのお越しをお待ちしております!!」




縁は一度ではなく、次へ繋げるために。


今の最善を。


そして明日はよりもっと上を!




「いらっしゃいませっ!」





ようこそ!


ここは村田系列の飯処、


『弁天堂』の那古野第三号店ですっ。







 朝 。



「おはようございます。」




店の裏口から中へ。


早めに行っているため人気(ひとけ)は無いが、


気分だけでも。


大事、大事。




中の『着替え部屋』で店での決まりの小袖(こそで)


無地の紺色の"制服"に着替える。



ひととおり着ると、小袖の上から


大きめの前掛けを身に付ける。



料理を出す所だから、汚れては大変。


小袖がはみ出さないようにきちんと丁寧に。



前掛けの帯を後ろで、


大きな花結いにするのがコツ。




この前掛け……肩に掛けるところから裾まで、


ふわふわとした(ひだ)(あつら)えてあって


すごくかわいい。




小袖の方も、よく動く仕事だからと


袖口を細くにつくってある。




一目その姿を見て、


釘付けになったのは秘密だ。






次に髪が料理に触れないように、


頭の上でまとめてから、紺色の四角い布を


三角に二つ折りして頭に被せて結ぶ。



この布も二つ折りにすると前面に


白いふわふわが頭の上で飾られるようになる。





真っ白な足袋をはいたのち、


柔らかめの皮の浅沓(あさくつ)をはく。



赤く染めた細いひもが、ふうわりと


花結いに


小さく飾ってあって


足元が思わず軽くなりそう。





最後に白い手袋をして、


裾にある赤のひもでキュッと結い付ける。




噂に聞く絹の織物はもっとスベスベらしいけど、


そんな高価なものは怖くて付けられない。



最近になって売り出されるようになった、


『三河の木綿(きわた)』で織った手袋……だそうだ。




―――――うん、


これを着けるとなんか気がひきしまる。





ひととおり着終わると、


入り口に立つ。




今まで見たこともないような、


それはそれは大きなピカピカの


"銅の鏡"がそこにある。



「上から下まで写せる鏡って。


―――――いったいどれだけ高価な物なんだろう?」



その額を思うと少し"ぞおっ"とする。





あ、盗むのはムリです。


ええ、ムリムリ。



大変大きな銅の(かたまり)だからすごく重いので。


それを見越してここに置いているんだろうなあ。




なので、外の者には絶対に話すなとのお達しです。




鏡の前に立つ。



前に、横に


そして後ろに。



ズレも(かたむ)きも、(めく)れもなし!





くるりくるりと一回り。


少し前掛けをふわりと(ひるがえ)してみる。





うん、よっし!


かわいい。



―――――装いが。



…………とほほ。



まあ、ともかく!



「今日も、感張るぞーっ!!」



おーっ!




お幸、13歳。


がんばってます!








『弁天堂』は、たいへん珍しい女手(おんなで)のみのお店。



――――まあ、力仕事担当のひとや護衛さんは


さすがに男の人だけど。




『弁天堂』は那古野にいくつかお店があって、


それぞれのお店に特徴がある。



一号店は那古野初めてのおみせ。


女手あきないの初めてのお店。



大陸式といわれる腰まである高い机と、


(ひざ)辺りの高さで腰かける背もたれのある


"椅子"というものが使われ始めた最初のおみせ。





二号店は献立がちょっと独特。


最後にマクワウリが出てくるなど、


ちょっと味付けが女のひと向け。



最近、"局"のほうで洗濯や配達、(まかな)いなどで


女のひと向けのお仕事が出るようになってます。


かくいう私も"局"からの紹介です。


窓口も専用なんですよ?




だから、二号店はちょうど那古野の


真ん中あたりに置かれてます。



お仕事の帰りに自分へのご褒美に寄ってみたり、


あとはいいところの


奥様やお嬢様などに配達もしてるとのこと。




女のひと向けという事で


受け皿が小さいと思いきや、



思った以上に流行っているそうですよ。






三号店はさらなる大冒険。


見ての通り、装いが余所とは大違い!



地味な小袖に可愛らしさ全開の前掛けと三角巾で


合わせた格好が、いろんな人に大人気な様で……



男のひとだけでなく、女のひとも来られています。




献立は五つの定食のみですが、


お昼時、夕方にもなるとさあ一大事!




店を閉じるまで大騒ぎの大繁盛となります。




弁天堂は一様に、店じまいが早めです。


理由はかんたん。


町中とはいえ、


夕方以降の女のひとの独り歩きは危ないから。





「――――はふぅ、」



今日も無事におわりました。


もう、クタクタです。





まずは後片付け。


今日も無事におわりました。


着てくれたお客さんに感謝、感謝。






「お幸、ちょっといいかしら?」



着替えていると、


店のあるじの和葉さんから声をかけられる。



着替え終わった後で、


とりあえずわからないまま着いて行く。



奥の間で案内されて、二人で座った。


途中で用意した白湯をお互いに配る。



ひといきついた後、和葉さんが口を開いた。





「実のところね……


貴女に弁天堂をひとつ、任せてみようと思うの。」



仰天して、飛び上がるかと思った。




ちょっと意味がわからない。








…………ちょおっと待て?



これって『大正浪漫』あたりの


洋風食堂とかの和風メイドだろうが?



それもガチのやつ。


ヴィクトリアンメイド系の和風バージョン。



エプロンとヘッドドレス替わりの三角巾に、


フワフワのフリルをマシマシにした物。



まだ日本にフリルという文化がないため、


刺さる者には勢いよく突き刺さる。




よく考えたら、お幸のような


ハイテンションキャラは初めてかもしれない。


(お陰で妙にキャラ調整に手間取った。)





『弁天堂』



熱田の"七福神"の中の店舗のひとつ。


世界史上、少なくとも中世以降において


女性が正式な商店主を勤めたほぼ最初の事例。


これが可能であった理由は、


バックに村井・村田が存在するため。


後で経済的にフルボッコにされるために


下手に手も口もだせないから。



後世において、"女性の社会進出の象徴"として


大変に持ち上げられる。


本人たちは、今まで普通にやってきているのだから


いい迷惑だ………と表明した。





『銅の姿鏡』



いまだ西洋鏡の技術は入っていない。


そのため、銅の鏡で代用する。



なんと言うか、


確かにこういうところでは必要なのは分かるが、


銅鏡でそれを代用するのはちょっとムチャ過ぎる。



たぶん100~200貫くらいかかっているのでは?


石に固定してあるので、盗難は限りなく不可能。



なお、卑弥呼が使っていたのが銅鏡。


三種の神器の"鏡"も同様の可能性アリ。





『椅子(背もたれ付き)』




実のところ、


"日本初の一般市井での椅子の使用例"となる。


のちに南蛮人が見て仰天する。



なお、当時の日本人は"椅子に適性が低い"ために


少し低めに作ってある。



座禅や胡座に慣れていたから、と言われている。




『和葉』



なんかひさびさに出てきたこの人。


有能なのだが、ちょっとはっちゃけ癖がある。



かなり変なベクトルで行動力があるため、


主人公・藤吉郎以外で妙なことが始まるのは、


結構このヒトが関わっている。


(ただし元ネタは主人公だと思われる)

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