第65話 △△郷、山彦の場合
今度は別の人です。
また場面が変わります。
今日も今日とてざくざくと歩く。
隊列を揃えるように、歩みの音を揃えるように。
最初の頃は列がガタガタになったり、
歩みがズレて足音が汚くなったりして
キツく怒られたものだが、今では慣れたものだ。
列が乱れブレる事もなく、
歩みの音も一歩一歩が大きく強く響く。
――――――それがたとえ鎧兜を全て着込み、
背中の"背負子" に荷物を乗せて長時間歩いてもだ。
「――――――いやあ、大したものですなあ!
私が山賊なら、斯様な統率された隊に
護られた隊商なぞ恐ろしくて
襲おうなどとは考えませんよ。」
共に歩く商人が笑いながら隊長に話しかける。
まあ、彼らからしてみれば気が楽だろう。
乱れなく行進する鎧兜を着込んだ兵100人に
護られて商いに出向くなんて経験は無いだろう。
しかもその兵士100人が全て背負子で荷物を
担いで目的地まで運んでくれる。
おかげで日頃より多くの商いが出来る。
まさに至れり尽くせりだ。
それにこの隊商は確か村田屋が提唱して
あちこちの店が合同で行ったもの。
その数は10以上にもなる。
100人の護衛であっても、各人の支払いは
そこまで懐が痛まないはずだ。
安心は銭では買えんが、銭で安全は買える。
こちらの事情としても、"局"を通しての
"あくまで行軍訓練のついで"であるから、
請けた銭はかなり安いと聞く。
訓練のついでで銭がはいるなら御の字。
どちらにも得のある話である。
わしらみたいな常雇いというヤツは金食い虫だし、
国への貢献と銭稼ぎの両方をさせているようだ。
ああん?
わしはただの足軽なのに、
何でそんなに詳しいかって?
―――――お前さんは新人か?
もう少ししたら言われるさ。
『織田の将兵に、馬鹿であることは赦されない』
……………ってな。
もう少し体が出来上がったら始まるぞ?
読み書き・算術どころか、医学から兵学・軍学。
果ては礼法や教養まで。
その辺の武家よりもはるかに物を知るようになる。
この弾正忠家の常雇い、
その中でもわしらを含め四つの組は
最初から組の内にある者たちを
足軽大将以上にする事・させる事が前提だ。
端っから出世が約束されているんだよ。
―――――とはいえ、あんまり浮かれるなよ?
あくまでわしらは"候補"だ。
余りにひどいバカをやったり、アホウなしくじり。
それに周りに偉そうに振る舞う愚か者は
"候補"から落とされるからな。
黒鍬やら、長物やら。
よその組へ回されて、足軽からのやり直しさ。
気を付けろよ?
偉くなるなら、頭を下げてまわるくらいが
丁度良い、って話だぜ。
『稲穂を見習え、
実れば実るほどに頭を垂れるだろう?
"所詮は頭の軽いイノシシ武者。名将には程遠い"
などと後世・末代までの笑い者になり、
子孫の恥さらしと成りたくなければな。』
うちの親分がよく言っているぜ。
――――そういえば、ウチの訓練はキツいだろう?
余り自覚はないかも知れないが、
思ったよりも鍛えられているぞ。
前にな、ウチの事を武家の連中が甘く見てたから、
『あの柴田さま』の部下の軍勢と
"腕力"や"持久力"で勝負をした所だな?
楽勝で勝ってしまって武家たちが騒然。
柴田さまが赤くなるやら青くなるやら。
随分と見物だったぞ………という話だぜ。
ま、基礎的な力だけならよそに負けてないのさ。
後は技術をつけてゆけばいい。
――――――ああ、そうそう。
どうもお前は知らないみたいだから言っておくが、
ウチの隊長は
『あの柴田さま』だから気を付けろよ?
………………何でそんなことに?
何やらな、
『武士として更に強くなれる余地がある』
ことにえらく感銘を受けたらしくてな。
親分のところに押し掛けて、
訓練に参加させてもらっているらしい。
ま、"あんな顔"だがずいぶん気のいい方だし
面倒見のいいことで有名だ。
あんまし気にすんな。
源 三 。
これがノッブさまの原案の補正になる。
どうせなら遊ばせてないで、
訓練ついでに銭稼ぎさせる。
黒鍬隊は各地の開発へ、(弾正忠家の従属家のみ)
長物隊はフル装備プラスアルファで彼ら同様に
護衛や治安維持の名目で各地を練り歩き見廻り。
完全に筋トレ兼スタミナトレーニング。
しかしコイツら、完全に士官候補生扱いです。
初っぱなから近代軍隊式の行進をさせられる。
当時の者がこれを見ると、
恐ろしい程の高い練度に"見える"。
馬揃えでこれをやると、
完全にマスゲームとなる。
大熱狂、間違いなし。
最後で、どこかで聞いた名前が………
マメ知識
『黒鍬』
鍬が黒いのは、彼らが持つ物が鉄製だから。
国営部隊だから優遇される。
黒鍬、黒鍬衆は土木工事専用の部隊。
城の建築や、野戦陣地の急速な構築などに使われた。
『隊商』
いわゆる"キャラバン"の和訳にあたる。
商人が多数集まって合同で長期の移動を行うこと。
『安心は銭では買えんが銭で安全は買える』
一般的に言われる、
"幸せは金では買えないが、金で不幸は避けられる"
を変化させたもの。
治安の悪い戦国時代を商人が護衛ナシで歩くとか
自殺モノ。
"銭があっても命が無くなるよりはましだろ?"
と、各店に営業をかけてできたキャラバン。
『背負子』
物理的に的確な説明をするのは難しいが、
『カチカチ山』でタヌキが薪をかつぐ時に
背負っている道具と言えば?
L字になって台を作っているため、物を乗せやすく
背負って歩きやすい。
結構、近代まで普通に使われていた。
……あの物語、徹頭徹尾に外道の極みだよな。
『織田の将兵に、馬鹿であることは赦されない』
一連の"親分の発言"から分かる通り、
背後にいるのは主人公。
この扱いは、近現代の士官候補のもの。
この時代では、世界最新鋭の発想と教育になる。
これをやると、軍隊の基礎レベルが格段に上がる。
明らかに"一騎討ちの全面禁止"とか、
"指揮官が前線に出るな"とか教える気マンマン。
『足軽大将』
下から二番目か、三番目あたりの地位。
とはいえ、おおよそ中隊レベルを率いる
一般兵の士官クラス。下層の武家にあたる。
『稲穂・頭を下げる』
"実るほど 頭を垂れる 稲穂かな"が元ネタ。
"詠み人知らず"のため、時代背景が不明。
俳句であることから、
江戸時代ではないかと思われる。
含蓄のある言葉のため、普通に使われる。
まあ、ご先祖さまが『伝説の考えナシのアホウ』
とかちょっと勘弁して欲しい…なんて思うわな。
『あの柴田さま』
鬼と呼ばれたり、"かかれ"と吠えたり、
甕を割ったりすることで有名なあの人。
新部隊をバカにしていたが、自分の部下が
まさかの大負け。
(模擬戦なら圧倒的に勝っていた。)
ブチ切れレベルで怒ったが、
むしろその育成法に興味を覚える。
基本的にこの人、超体育会系思考だから
訓練法が大いに気に入って
熱血系スタミナトレーニングなどを楽しんでいる。
ついでだからと、
士官教育学習も参加させる予定(強制)。
まあ…内政適性もあるんですけどね、この人。
※結果として、"武力"が5ほど上昇している。
…………マジか。
もうホンダムのレベルだぞ?




