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鵬、天を駈る  作者: 吉野
4章、『○○○○○○○』
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第62話 ○○村の三太、仕事先より(其之二)

またしても、手紙の話です。


まあ、読んでみてください。







元気にしているか?


こちらは何の問題なくやれている。



伊賀もずいぶんと様変わりしてきた。


閉じ込められた様な山あいの村であった伊賀には


大きな街道ができて商人たちが通うようになった。



水源を確保出来たことで日照りに(おび)える事もなく


安心して暮らせる様になり、


新しく作られるお茶の畑が日々新しく


開墾され続けている。



一度、"素人の意見を聞く"という名目で


お茶を飲ませてもらったが、


うん、あれは旨かった。


毎日飲んでいると白湯を飲めなくなりそうだ。



いつか土産に持って帰りたいな。



行き来できる街道が出来、米にこだわらなくても


お茶を売った銭でメシを買えるようになり


宿場町としても栄え始めた。



もう伊賀が以前まで『生き地獄』と呼ばれた


村だったなど誰も信じないだろう。



来た頃はどこかほの暗い表情であった伊賀の者達が


行く者も帰る者も明るく安らいだ顔をしている。


十が村を出ても十が全て帰ってくる。




かつては自ら"貧しくて心に鬼が宿る"


とまで自嘲していた者達とは思えない。



まるで御仏のご加護を得たかのように安らかだ。




そんな風景を見ていると最近、


"(うらや)ましい"ではなく


"その様な顔を見たい"と思える自分がいる。



何が出来るか分からないが、


いつかそれが叶うようになりたい。




まずは、うちの村からだな。


そちらに帰ったら色々と試させてほしい。



新しい事をするのは怖いかもしれないが、


大丈夫。


おおよそ伊賀で試された後のことだから。





そうそう、



突然に村の皆を集めてこの話を


聞かせることになって申し訳ない。



改めて説明いたしましょう。


皆を和尚さまのお寺の講堂に集めた理由。



それは、





「うん?


"予定ならもうそろそろだろう"?


何のはなs   」




突然、講堂の扉が押し開けられる。


やや手入れが甘いのか、大きな(きし)みの音を


立てながら観音開きの扉が全開となる。




驚く一同を尻目に、


前田の家からお借りした兵と共に


講堂に上がり込んだ。




「突然のご訪問、失礼いたします。


(わたくし)……村井家の分家、


村田の藤吉郎と申します。」





まずは大きく一礼。



礼をもって頭を下げるという行いは、


され慣れて居ない者には一種の攻撃になるとか。


"公家や中位以上の武家"以外に使うと、


相手を怯ませる事ができる。



相手が口を開く前に、立て続けに口上を述べて


口を封じる。


交渉事の格下相手への常套手段だ。


………格上相手に使うと本当にひどい目にあうが。




「今回、こちらに参上しましたのは


こちらの村に税の取り立てにゴマカシがあるとの


直訴が御座いましたので。」




何か言いたげな顔が


突き付けられた言葉の衝撃で破壊される。



予想外な事態に混乱させたときこそが


ダメ押しを叩きつけるとき。



流れをこちらに引きずり込む。





「税を過剰に取り立て、


本来の税率との差を横領した疑惑です。」




今度こそ、寺の講堂に集まった者達の表情が


驚愕(きょうがく)に呑まれた。







ざわざわとした場が静まるまでしばらく待つ。


「――――では」



言いかけた言葉を(さえぎ)られる。


……無作法ですね。


効果的ではありますが。



「ここは林の領地だぞ!


他家の者は口を挟まないでもらおう!


…………それにだ、


いったい誰が直訴をしたと言うのだ!!」



年嵩(としかさ)の行ったひとりの男が立ち上がり、


激しく(まく)し立てる。



そして回りの村衆を強く(にら)み付けた。





………ふうん。



こちらが()せた小僧と見て甘く見た…か。


同時に威嚇(いかく)と犯人さがしを行う?



甘くみられたものですね。



主犯さん?





「申し訳ありませんが林さまにはちゃんと


許しを得ております。




横領の形跡アリとお伝えしたところ、


たいそうお怒りになり


『真偽のほどを明らかにせよ』と


お達しを受けておりますゆえ。」



武家に横領とはずいぶんいい度胸だな………


と、ひどく凄みのある笑みをされておりましたね。



―――虎の威を借るしか出来ない我が身の未熟さよ。


いつかこの程度、自力で出来るようにならねば。




「それから、直訴した者ですが」


兵のひとりに合図をする。



では、今回の主役をご案内しましょう。



…………実のところ、ある程度の"学"さえ有ると


解りますよね。





『この村の、三太さんです。』

前回と同じ手紙と見せかけながらの


唐突の展開。



そしてひさびさに藤吉郎の一人称。


前回とは完全に別人です。






マメ知識




『礼が一種の攻撃』



想像してみてください。


店の中などでなく、町中で突然


『キッチリとスーツを着た初対面の兄さん』に


「突然ですがご同行願いたい。」


と90度、頭をさげながら言われる情景を。



上流階級の人間でない限り、確実にビビる。





『相手のセリフを自分の口上で被せて封じる』



相手が物を言いかけた時を狙ってこちらが言葉を


畳み掛けるという交渉テクニックのひとつ。



同格や格下相手なら効果があるが、


格上にすると


『自分の持ち札を全部ムダに放出させられる』


という悪夢のような事態になる。



当然、相手の持ち札は全て伏せられたまま。


正直、勝負にならない。





『武家に横領』



そもそも"横領"とは公家の荘園を


武家が武力をもって実権を強奪することをさす。



その武家に横領とはとんちのきいた話だが、


されたほうは間違いなく怒る。



メンツの問題だから容赦はない。



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