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鵬、天を駈る  作者: 吉野
4章、『○○○○○○○』
61/248

第60話 ○○村、三太の場合


この話は、実際に制度が施行されてから


しばらく後の話になります。



結局、どういった制度なのやら?






最近………那古野の町では"口入れ"の制度が


変わったとかで、


町の者から聞いた場所に行ってみる。




稲刈りも無事に終わったので、冬を越すために、


一稼ぎして家族のみんなが(こご)えんように


寒さをしのげるモノを。


たまには苦労かける"おっかあ"や"ヨメ"に


ええ(ころも)反物(たんもの)のひとつでも


買ってやりたいもんだ。



一家の大黒柱の頑張りどころだ。






「………………何だぁ、こりゃあ。」




言われた場所にゆくと、


どえらい大きな屋敷があった。



軒先に看板もぶらさげてあるんだが、


字が読めんのでよくわからん。





―――――ホントにここでええのか?



「あのぉ、口入れをここで…と聞いたんだけど?」




話を聞くと、どうも織田の殿様のやった事らしい。



領地中の口入れ屋をひとつにまとめて、


大きな"かたまり"にしてしまったそうな。




那古野のココへ来ると、殿様の領地中の


口入れ仕事が全部ひとまとめになっているとか。


ほへえ、そいつはありがたい。


あっちこっちへといい仕事を探してうろうろと


回る手間がなくなる。




中に入ると、"受付"とかいうところに


連れてゆかれる。


そこで座っている(あん)ちゃんに、


どこの村からきたか?


家族はどんだけ居るか?


どんな仕事が得意か?など色々聞かれた。





………何でそんな事を聞くか?と尋ねたところ、


仕事の中には長期のモノもあるんで


家族のもんが心配せんように伝言を


たのんだりすることが出来るそうだ。


…………ちょっと銭がかかるらしいが。




あとは、万が一にお前さんが現地でぶっ倒れたら


家族に言付けも出来んだろう?


少なくとも持ち直すまでは時間がかかる。


それまで音信不通では心配もさせるだろう?


……………とも。




殿様が差配するようになって、その辺りが


しっかりするようになったらしい。



口入れ屋のときはぶっ倒れたら放ったらかし


だったから、えらい違いだ。




一通りに話をすると、字の書かれた竹の束を


持たされて別の"受付"へ。



何でもこれにおいらの


"出身や家族、出来ること"を書いてあって、


これがあると手続きが早く済むとか。



『無くしたり、書いた字が読めなくなったら


さっきのをやり直しだから気を付けろよ?』


と念を押された。


初めてのものは必ずアレをするらしい。




確かに来るたびにアレをしてたら面倒でかなわん。


気を付け大事にせんとな。





次の受付では今のおいらに出来そうな仕事が


いくつか出されたんだが、



………字が読めんから読んでもらった。





スマンなあ……と謝ると、


何だったらちょっと銭を払ったら


読み書きを教えてくれる所もあるらしい。


坊主の所より安いぞといわれた。




………まあ今までは読み書きなんぞ


田んぼを耕すのに何の役にも立たんから


特にはどうとも思わんかったが、


確かに読み書きが出来んのは"こういう所"では


不便にもおもう。




――フトコロに余裕ができたらやってみるか。




そんな事を考えながら聞いた仕事には


商人の荷物運びから開墾の手伝い、店の売り子。


中には長期仕事で"伊賀の里"の水路を引く


というものもあった。




………伊賀の里で長期って、



あそこは確か忍びの(さと)だろ?


―――"うさんくせえ、人買いに(さら)われないか?"




どうやら顔に出てたらしくて、追加で説明がある。



伊賀の仕事は殿様じきじきのお仕事らしく、


今言った中では一番安心できるものであるらしい。



しかも口入れを通してないから、


扱いも報酬もいいとか。





……………では、ちょっと内容だけ。





―――――――いや、まてまて?



格安の木賃宿(きちんやど)を含め泊まる宿への割引の紹介?


現地へ着くまでもメシをくれる?


二食どころか三食のメシがついてくる?


遠出の手当としてちょっと割高な報酬?


ぶっ通しでなくてちゃんと休憩もある?


水路造りがおわってもしばらく工事が続く?


帰る事、帰る時を決めるのはそれぞれの自由?




なんだ?!


その善すぎる条件は!?




行く!


行くぞ!これやります!






誰かに取られない内にあわてて申し込んだ。




後で聞くと、人数は上限がなかったらしく


そんなにあわてなくともよかったらしい。





はあ、良かった。






最後に言われた。



『まだ出来立ての制度だから、


どうしてもだまそうとする悪い連中がまざる。



支払いや扱いで"だまされた"と思ったら、


すぐに逃げてここへ報告しろ。



悪質なモノは厳しく取り締まるからな。


報告したものには


こちらからのお詫びと褒美に銭を渡すからな。



…………まあ、渡す銭は


"だまし"の程度にもよるがね。』




あと、遠出の仕事には


旅の準備や"だまされた時に逃げる用"のために


一時金が渡されるとか。




いやいや?


一時金を持ち逃げされたらどうするの?!




―――――と聞いたところ、


最初に書いた竹札の束が役に立つらしい。


"アレの原本"に持ち逃げの前科が書かれ、


その後はこういった支払いがいい仕事を


(もら)いづらくなるらしい。




………少なくとも事前にそれに気付き、


それをこちらに知らせてくるお前さんは



見所がある方さ、といわれた。






――――――この新しい口入れ制度は、


織田の次の殿様となる若君がつくったものらしい。





困ったことがあったら相談してほしい。


なんせ出来たばかりだから、


まだまだ見えない問題は有るだろう。



まだまだ今ならいくらでも変更が効くから。





……………どうせなら、


お互いにより良いあしたを目指そうや?




――――――とのこと。






ここまでしてくれるなら、


尾張の若君は信用できると思った。








あれ、これってハローワーク?


まんま初期手続きとか一緒だよね?



なお今回、小並感が凄いのは三太の


学力レベルに合わせたため。



伊賀の普請仕事がえげつない程のホワイト仕様。


主人公が関わっているからね、明らかに突出。


結果としてメチャクチャ人間が集まります。


正直、他の口入れへの営業妨害。




受付には村田の者が入っているため、


必然的に主人公の思想が混じっています。




後、なんか普通にノッブ様が制度を


制定したことになっていたりする。




……………また抜殻の計か!






マメ知識




『口入れ』



仕事の斡旋を行う業者のこと。


主に日雇い短期労働の場合が多い。




『口入れ屋をまとめて"かたまり"に』



実質的に事業ノウハウを持つのは連中自身。


そのため、領地中の口入れ屋を買収して雇い


監査役と多くの部下をつけ、彼らの業務の


大幅な効率アップを図った。


当時の協同組合である"座"というよりも、


織田国営の共同グループ企業という扱い。



実際に自分達だけで店を回って依頼を探し、


ドサ回りをやっている時に比べると……


部下を付けられ指示するだけの形になったが


今までの3倍~5倍の仕事量をこなせており、


一番驚いているのが当の口入れ屋たち本人。


仕事量も報酬も上がっているので、


やりがいもフトコロも潤ってほとんど文句無し。




無論、違法行為はストップさせられました。





『木賃宿』



基本的に自炊させる、素泊まりの宿。


木賃、つまり自炊の(まき)


燃料代プラスアルファ程度の安い宿。



当時はただの割安の宿、というニュアンスだった。


これが虫のわく布団で多人数の雑魚寝(ざこね)


などと言う"超劣悪なタコ部屋"に変わるのは


むしろ明治時代以降の文明開化で


効率主義という名のモラル破壊が起きてから。




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