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鵬、天を駈る  作者: 吉野
4章、『○○○○○○○』
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第58話 手には届かぬ、打出の小槌

1日空けてしまい申し訳ありません。


ちょっとリアルが忙しくなるのが


確定していましたので、


このような形となりました。




では、改めてどうぞ。





「―――――― 欠 陥 ? 」



やや顔をしかめて平手さまが答える。


ゴーサインを出した自分の判断にケチを付けられて


ムッとでもしましたかね?




―――その判断に、親心が混じりませんでしたか?





「ふむ?


――――"欠陥"とまで言うか。



であるなら、それを教えてもらおうか。」





――――――――――この人だけは。



………………解った上で


その様な事を言われてますね。



立場上、政治のトップとしては


気が付かずには居られなかったでしょうねえ?





さもなくば今の地位など築けまい。



所詮は凡庸・暗愚なイチ領主で終わる。


………その辺りはどうですか?



――――― 殿 ?







「――――さて、私の指摘する"欠陥"ですが。


………その答えは、


『大橋さまと生駒さまが何も見解を言わない』


―――――これが答えとなります。」





商人が善いとも悪いとも言わない。



―――それがどういったことか、わかりますか?




この事業計画書には、


―――予算・財源や運用の事について


一切触れられてはいないのです。




どれだけ銭がかかり、どれだけ維持に銭を払うか。


そしてその銭をどこから入手するか。


この辺りがゴッソリと抜け落ちております。





銭勘定にならないし、これでは商いが出来ません。




「―――――財源、か。」


今まで積極的に発言していなかった


林さまが口に出される。




痛いところを突かれた………と言うよりは、


()()()()()()()()という顔で。




武家にとっては目から鱗であろうな。


基本的に"余所(よそ)から取った銭で遣り繰りする"


武家には、"銭をどうやって得て来るか?"


という問は想定の埒外(らちがい)なのだ。




どれだけの銭がかかり、


その銭をどこから引き出すか?




―――その事に気付くことも出来なかった。


……………考えてすらいなかった。




三郎さまの頼った、


()()()()()()()()()()()



―――"その事"に気付いた三郎が愕然とされる。



何度試みてもその事に思い至らなかった自分に。


平手の爺を交えてですらその意見が出なかった、




――――――その恐るべき現実に。







現世(げんせい)に、振れば望む財の出てくる


『打出の小槌』なぞありません。



その様に見える小槌が有っても、


振り続ければやがては出なくなります。」




熱田・津島も、どれほど栄えているとは言っても


限度と言うものがあります。



出せる財にも限界が在るのですよ。




商人(あきんど)というのは不思議な生きモノでして、


(あきな)いで稼ぐと袋の中に銭を(そそ)ぎます。



この袋の中の銭が、いわゆる


"商人の我慢できる限界"となります。


袋から銭が尽きるまでが、商人の許せる"損"です。



―――逆さに振っても袋から銭が出なくなった時、


それが商人の『()()()()()()()』なのですよ。」






大橋さま・生駒さまの言葉を代弁させて頂くなら、


『で、誰が出すのですか?その銭を』


―――とでも言うべきでしょうか?






商人に銭を出させたいなら、


まずは彼等を稼がせることですね。





折角盛りあがった気分に水をかけられる所か、


冷や水を浴びせかけられ落ち込む三人。



それを飄々(ひょうひょう)と眺める一人。






「では三郎さまの原案をふまえて、


改めて私から案を提出させて頂きます。」




そして、しれっと素知らぬ顔で対案を出す私。




―――――その様に驚かれましても。






千秋さまに氷室さま、そして大橋さまと生駒さま。



そもそも彼等は、


()()()()()()()()()()()のですよ?








(タダ)の銭の無心に興味なぞ有りません。






"答え"は『経済・経営の観点からの意見が無い』。


"文章中に記述があるから問題"なのではなく、


"文章中に記述が無いから問題"なのです。



そもそも、以前書きましたが事業計画書とは


銀行や投資家に見せるもの。



彼等に見せる物に"投資費用"や"営業目標"が


数値データで書いていなければ、


プレゼンテーションは100%失敗します。


一般的に、書いていても失敗するのですから。



これが大橋・生駒に反応が無かった理由であり、


ノッブ様の持ち込みが何回あっても


おざなりに突き返された理由です。



武家の経済オンチはわかっていたつもりだが…


平手政秀を交えてですら、


これが出て来なかったという余りに深刻な事態に


むしろ弾正忠家の家中に問題提起する事を選択。



平手家・村井家同様に内政系である林家を巻き込み


大きくブチ上げる。



この現実に、言われただけで気付くノッブ様は


現状でもそれなりに大物。


普通の常識的な武家では理解どころか


その認識まで到達できません。




なお、この戦国脳筋時代の深刻さを一番に


悩んでいるのは棟梁である信秀。






マメ知識




『打出の小槌』




最も有名なのは"一寸法師"の逸話。


他にも民話として様々なバリエーションがある。


大黒さまが持っているのもコレと言われる。



持つものの願望を無差別に叶える、


某ゲームの『聖杯』に近い代物。







『商人の袋』



最初は"堪忍袋"としていたが、


まだこの言葉は存在しないために中止する。


堪忍袋は落語の一節。



なお、この話自体が商人と堪忍袋からイメージした


でっち上げ話。


現実には存在しません。




『タダ・只』



"ただ"という単語には


『直・唯・只・但・徒』がある。


ほぼ同じ意味で使われるが


それぞれの漢字には個々に強調される分野があり、


"ただし"と使われるのは『但』のみ


"無料"の意味で使われるは『只』のみとなる。


ちなみに、無料のことを"ロハ"と言うのは


『只』を上下に分解した"洒落"。



本文中では、『何の得にもならぬ単なる銭の無心』


と、言葉遊びとして使っている。

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