第56話 三郎さまの、最終プラン提出
三郎さまが持ち込んでいた"企画"。
どうやらまとまった様です。
ずいぶん前の話ですが。
ある日、書類を確認していると
屋敷の内が急になにやら騒がしくなる。
―――――ああ、例のヤツか。
今回はちょっと時間が空いたな。
ずいぶん久しぶりな感じだ。
「 か っ か っ か っ か !
出 来 た ぞ !!
平手の爺にもお墨付きを得てきたぞ!!」
突然に大騒ぎしながらやって来たかと思えば、
自信満々にニヤニヤしながら
こんなことを言い出し書簡を投げ渡してきた。
――――――今回は随分と、
自信満々ですなあ。
三郎さまは最近では以前の様な
イロモノファッションは鳴りを潜めている。
威圧する様に多人数で意味もなく歩き回る……
そのような迷惑行為をする事もない。
その代わりに、今は
『武家の仕来りのギリギリを攻める』という
別方面の遊びに凝っているようだ。
家中の"特に仕来りに細かい者"に頼んで仲間に
引き入れ『アレは不味い、ここまでならOK』
と日夜研究をしているとか。
……………何をやっているのやら。
―――で、完成した"ギリギリ"のファッションで
"眉をひそめられない"程度に格好をつけ練り歩く。
元がいいから、この様がまあ『映える』。
この姿がどうも反抗期にさしかかった若者達の
"反骨心"に勢いよくブッ刺さったらしく、
この装いが若年若者層で大いにバズッっている。
何とも"いとおかし"だったので、連中には
バズり具合、流行り具合に応じて
報奨金を渡すようにしている。
広告収入で暮らす、
歴史上最初のインフルエンサーだな、こいつら。
一回、村田でも企画してみるか。
完全にファッションモデルだよな、やってること。
時代の先取りをしすぎだろう?
と も あ れ 。
…………ま、話はさておき。
三郎さまの持ち込んできた話に戻る。
―――なるほどね。
随分と時間をかけていたかと思えば
どうも織田家中から本格的に意見を
取り入れる方向にシフトしていたらしい。
平手さまに最終判断を委ねたと言うことは、
彼の親父どの以外のほぼ全てに
声・意見を求めたかもしれないな。
まだ年若い御嫡男が御家の為に心を砕き、
身分の低い自分達にも頭を下げる。
誰が思い付いたか知らないが、
―――ちょっとした美談だな。
元がドン底辺りであったから、
評価は大いに上がったであろうな。
ああ、それでか。
平手さまが殿の前で『もう心残りは無い』などと
大いに男泣きしたという妙な噂が立ったのは。
「―――――はあ、
ではひとまず拝見しますね。」
投げ渡された書簡を受け取り、目を通す。
…………………ふむ。
はあ、なるほどね。
前々から見てきたが……端的にいうなら、
『常備軍計画』とでも言うべきか。
織田家でも兵農分離の試みは水面下で進んでいた、
という感じだな。
史実においては残念ながら
結果として二番煎じに終わったようだが。
………この様な機会でもなければ、
陽の目を見なかったかも知れないなあ。
まず、対象とするのは武家の末の方の子供。
各家の"予備"と言われる連中だ。
家中の武家だけでなく、国人衆や土侍あたりまで
―――下の下まで裾野を広げるようだ。
分母を上げることで質の向上を狙っている様子。
玉石混淆と言うもの、
宛にできない在野にこそ拾い物はある。
彼らを立身出世のチャンスで誘い部隊を造る。
常日頃は部隊内で日々に鍛練を重ねさせる。
基本的にこの部隊員は"実力か結果"が
認められるまでは無給あるいは超薄給となる。
後世の丁稚奉公みたいだな。
………まあその分、飯は食い放題らしいが。
身体作りには良いのでは?
案外に、人が集まるかもな。
もともと彼らは冷や飯食らいとして
冷遇されているから、"それでも構わない!"との
本人達からも意見を聞いたらしい。
―――わざわざアンケートを取ってきたわけか。
そう言うところは柔軟だよな。
多数の本人意見があるならそこまでは問題は出ない。
…で、ここから指揮官候補を探すプランらしいね。
彼らは鍛練や功績が認められると、
その都度に具足をパーツごとに与えられる。
最終的にパーツが揃えば立派な大鎧の完成だ。
この完成で一人前の武者と家中に認められる。
この辺りはかなり巧妙に考えられている。
鎧を回数を分けてバラバラで与えることで、
コレクション魂を刺激しており、
また少しずつ組み上がる鎧に各人の承認欲求が
強く充たされることになる。
鍛練も身に付くと言うものだ。
―――確かに小手や足回りから与えられ、
最後に兜を受け取って『前立ては自分で考えよ?』
などと言われたらテンションが振りきれるかもな。
大鎧とはいえ単発でパーツ毎に与えるため
費用は大幅に抑えられる。
完成するのは、揃いの具足を纏った軍勢。
見た目が良いなんてものではない。
最終的にこいつらを家から切り離して、
弾正忠家の軍勢の奥の手に据える積もりであろう。
いわゆる、史実の母衣衆と言うやつだ。
それよりもっと立派な部隊が出来上がるだろうな。
冷や飯を食わされ冷遇される家から一念発起して
成り上がりを夢見て立ち上がる本人も、
口減らしにもなり、運が良ければ家の名誉を
高めてくれると送り出す家も、
費用を抑えて将来的に強固な軍勢を手に入れられる
弾正忠家としても、
三者三様に大いにプラスと成るであろうな。
『尾張の虎』の子が造った『虎の子』と言う所か。
思い出した様に話題を持ってくる三郎さま。
そもそも、本人が優秀なので方向性さえキチンと
与えてしまえば大したモノを持って来ます。
マメ知識
『新ファッション』
というか、街中を練り歩くとかまんまモデル。
いわゆるチョイ悪アニキ系統のファッションで
ちょっと前まで"傾き"のカリスマだったため、
今でも強烈な影響力がある。
家に逆らうほどに激しく傾くつもりのない
ちょっとだけ反抗期の小僧が真似をして
背伸びするのにハードルが低いため、
大人気だったりする。
『三郎さまの評価』
仕える家の御曹司が、
「家の御為にお前の助けを借りたい。」
なんて頭を下げられるとフツーに好感度が上がる。
もともとが家に反抗していたような人だから、
ひるがえって評価は爆アゲ。
『鎧による報奨』
マイ鎧を手に入れられるためプライドが充たされ、
イチからコンプリートするコレクション性、
同じ鎧を着る一体感に
忠誠を家から切り離すもくろみなど色々ある。
なお、ちゃんとした日本型の甲冑は
フルセットで『安くても』150万円ほど。
大鎧とは日本人形などが着けている
鎧の一番上のグレードのものであり、
『日本版の由緒あるフルプレートメイル』
に相当するため当然ながらもっと高い。
そのために名門武家では高価なソレが
『一族伝家の鎧』として継承される。
また落武者から強奪されて売り飛ばされる。




