表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鵬、天を駈る  作者: 吉野
4章、『○○○○○○○』
55/248

第54話 織田弾正忠家の、福利厚生

有難いやら困るやら。


そんな事件(?)が起きた後。






さて、問題は色々有るとはいえ、


交易で大幅な黒字がうまれたのは有難い。


その気になれば織田から借りている借金約1万貫を


一括で返すことも可能になる。





――――やらないがね。






あれは私につけた"ヒモ"だ。



私が好き勝手しないように、


……というよりも私に重しを付けているという


心理的な安心感………といったほうがいいか。




織田と村田の相互安全保障と言い替えても良い。



銭という強い力を持つ私を、


どこへ暴走するかわからない村田をヒモ無しで


放置するとか怖くてできないだろうし。



ならばいっそのこと………


などと短絡的な思考に向かわれるよりは


こちらとしても安全のために


あえてヒモを残しておいた方が良いという思惑だ。



定期的に借りては返す……という形で


織田へ還元をしている。




株式の配当みたいなものだな。







まあ、今回の事であまり重しに成っていないのは


確認出来てしまっただろうが………



しかし部下に対しての"示し"としては


充分だと思うがね。



1万貫の借金といえば『雁字搦(がんじがら)めの鎖』としか


思えないだろうしな。



――――――普通なら。






幸いに、


織田家の金貸し制度は利子型ではなく


借りた額の1.5倍の定額返還制度なので


借りっぱなしでも全く問題ない。




――――1.5倍は高いのではないか?



いやいや。


逆に、()()()()()()()から安くなるのだよ。



断然に。







これは制度を立ち上げる段階で提案したこと。




あからさまに"土倉"への当て付けである。



土倉とは主に『寺社が行う高利貸し』のこと。


現代のヤミ金クラスの極悪金利である。





『そんなものに手を出すよりも、


弾正忠家に借りた方がよくね?』




…………という意見を出すため、


そして寺の収入を減らすためでもある。






この織田の金貸し制度は、





まず、織田弾正忠家に属すること。


借用金額の上限は借りる者が


"一年あれば必ず返せる金額"を査定される。




また、この制度は最大三回まで使用できる。


その上で四度目を借りたければ最初の一回目を


返す必要がある。


つまり()()()()()()()()()()







無理をしなくても返せる額で、利子はナシ。


おまけに返済を強要されない。



ハッキリ言って恐ろしいまでに良心的な内容だ。




むしろこの制度は、


阿漕(あこぎ)な商人や寺社から借りた借金を、


この制度で返済してしまえ!』


……と言っているのである。





これは実の所、織田弾正忠家の福利厚生政策だ。


自分達に属することで与えられる『アメ』になる。




"アメ"というものには"ムチ"が付き物だが、


この制度にはひとつだけ落とし穴がある。




この制度が、


()()()()()()()()()()()()()()




織田弾正忠家を裏切った場合、


この債権は『近隣でも有名な阿漕な商人』に


二割引で売り飛ばされることになる。




円満離脱ならともかく、裏切った瞬間に


武力を背景とした極悪な取り立てが始まるのだ。






実際に弾正忠家を()め腐った国人が、


借りるだけ借りて裏切ったので


知り合いの商人や"裏切った先の連中"と共謀して


そいつの土地を強奪・没収させてやった。






必死こいて『一所懸命』なんてやっている連中には


身の毛もよだつような見せしめになった事だろう。





…………結果として、


以後あからさまな裏切りは鳴りを(ひそ)めた。




―――――あからさまな物は………だが。



業の深い話だ。







そうそう、


織田弾正忠家に所属しているなら


別に商人でも借りることができる。




商人衆の場合はどうも


武家に銭を借り続けることが怖くなるらしく、


利子の計算上で得になる辺りで


さっさと返してしまう。




案外に儲けが出ているようだ。






なんともね。



こちらはこちらで……………というものだ。


なんとも愉快な話だよ。




元金の1.5倍というのは高いかもしれないが、


支払期限が実質的にないので長期的には安くなる。


社員専用の超割引ローンみたいなもの。


最初から返済など期待していない。



………そのかわり徳政令は絶対に期待できないし、


裏切った瞬間に潰しに来る。





マメ知識



『一所懸命』



土侍や国人が必死になって、


『自分の土地だけ』を守ること。


そのためなら強盗でも裏切りでも何でもする。



現実問題、戦乱が無くならない理由の


半分近くがこれによる。


主に無断で勝手に火種を創るのだ。




『裏切った先の連中』



"どこぞの斎藤さん"のこと。


平手さまが同盟交渉の最中であり、腹立ちついでに


ちょっとした手土産として借金を譲渡された。


ノリノリで身ぐるみを剥がされる。


(本人は直接関与せず、商人を利用する。)





『徳政令』



"徳のある政"なんぞと言っているが……


実の話、単なる借金の強制無効化。



当時の武家は基本的に借金まみれであり、


『借金返済のために新しく借金をして戦をする』


というアタマの悪い本末転倒な事をしていた。



武家にとっては喜ばれるが、金貸しには嫌われる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ